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色彩のきずな  作者: 潮騒めもそ


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第40話 軽音学部 ライブステージ 美術部コラボ

 午後は、リディたちのバンド――Rushmarrow(ラッシュマロウ)の「お昼間のナイトパレード」ライブステージ。

 午前中の美術部のパフォーマンスが大好評だったのと事前のミニライブのおかげか観客席は満員御礼だった。


 全五曲のうち、四曲は美術部が制作したミュージックビデオのホログラム映像が彩っていた。

 観客たちはペンライトで、星や光の花などのホログラムを放って応援してくれている。

 ステージも観客も、すでにひとつの宇宙のようだった。


 リディのMCが響く。


「今日は本当にボクたちのライブに来てくれてありがとう! 最後の曲はこのライブをたくさん支えてくれた美術部のみんなと一緒にステージを彩っていきます! 聴いてください――『青の夜明け』!」


 その瞬間だけは、音も色も、同じ“今”を描く。


 照明が落ち、静寂が降りた。

 ざわめきが吸い込まれ、代わりに息づかいだけが残る。


 リディがマイクを握る。

 淡い金髪がライトを受けて透け、空気そのものが歌を待っているようだった。

 首元の白いリボンが微かに光を返す。

 ――それだけで、ロマの胸が熱くなる。


 ヴェルテのピアノが最初の音を紡ぐ。

 清らかな旋律がホログラムフィールドに触れるたび、白い霧がやわらかく震えた。

 クレアのドラムが心臓の鼓動を刻み、シャルムのベースがそのリズムを包み込む。

 プリスのギターが風を切るように鳴り響いた瞬間、照明が音に呼応して一斉に光を放つ。


 ロマは筆を握る。深呼吸を一度。

 ――始まる。


 ピアノの旋律に合わせ、ホログラムが呼吸を始めた。

 淡い光の線がフィールドを漂い、シキのエアブラシが大きなキャンバスに青を宿す。

 霧の粒が音の波形に反応し、青白い花を咲かせていく。

 ココナがキャンバスに筆を滑らせ、ルキが照明を制御して光の軌跡を導く。

 リアルとホログラムが交わり、境界がゆっくりと溶けていく。


 リディの声が空気を貫いた。

 ――「ひとつの空の下 違う夢を見て」


 その瞬間、光の粒が歌声に共鳴して舞い上がる。

 観客が息を呑むのが伝わった。

 音が空を揺らし、色がその波を描き取っていく。

 ロマの筆が勝手に動いた。

 青、白、淡紫――色が跳ね、光が踊り、音が形になる。


 ――「音と色が交わる場所で出会えた」


 胸が締めつけられる。

 ああ、そうだ。

 自分が絵を描く理由。誰かと何かを作りたいと思った理由。

 全部この瞬間にある。

 音と色が触れ合って生まれる“今”が、心を満たしていた。

 何だろう、この一体感がたまらなく愛おしい。


 ステージのライトが波のように動き、観客席のペンライトが呼応する。

 青、紫、金色の光が渦を巻き、会場全体がゆっくりと星海に変わる。

 フィールドの天井に、ロマの描く筆跡が星座のように広がっていく。

 ――「瞬きの星たちが 今を照らしてる」

 リディの歌声に合わせて、星々が脈動した。

 観客が手を伸ばし、降りそそぐ光の雨に包まれる。

 音、色、声、すべてが混ざり合い、夜空が地上に降りてきたようだった。


 ロマは筆を止め、静かに息を吐く。

 この光景を、絶対に忘れたくない。

 でもきっと、すぐに消えてしまう。

 ――だから、描くんだ。


 リディの声がやわらかく降りてくる。

 ――「答えはいつも心の奥に」

 ――「消えても残るよ ここにずっと」


 ロマの筆先が光をはじいた。

 ホログラムの星たちが夜を離れ、少しずつ薄れていく。

 代わりに、淡い朝の光が空に滲み始めた。

 青と金が溶け合うような空の下で、リディが振り向く。

 目が合う。

 なんて綺麗なんだろう。


 言葉はいらなかった。


 ――この瞬間を描けた。それだけでいい。


 最後の音が消える。

 光がゆっくりと引いていく。

 霧がほどけ、ホログラムが消える。

 大きなキャンバスには『青の夜明け』の絵が出来上がっていた。

 夜明け前の深い青の空。

 白い筆跡が光を受けて、微かに瞬いている。


 歓声が爆発する。

 観客のペンライトが波のように揺れ、星の光が飛び交った。

 リディが息を吐き、仲間たちと目を合わせて笑う。

 ロマも筆を下ろし、心の中でそっと呟いた。


 ――この時が終わらなければいいのに。

お読みくださってありがとうございます!

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