第38話 みんなを結ぶリボン
文化祭前の放課後。
講堂地下のホログラムフィールドには、リハーサル準備をする音が響いていた。
ロマは胸の奥がそわそわして落ち着かなかった。
両手には箱――ソルティ先輩と共に夜遅くまでかけて作った、リボンのアクセサリーが入っている。
白とパール、淡いオーロラのきらめき。
見る角度で違う色を見せるそれは、ささやかな宝石のように輝いていた。
「……よし」
深呼吸をして、ロマはみんなのもとへ向かう。
最初に出会ったのはリディだった。
照明調整を見守っていた彼は、ロマの顔を見るなり首をかしげた。
「どうしたの? そんな大事そうな顔して」
「これ、渡したくて」
ロマは小箱を開けた。中には白を基調にした細いスカーフリボン。
端にレジンの小さな宝石が縫い込まれており、光を受けるたびに淡く七色に輝く。
リディが目を見開いた。
「……すごい。これ、キミが?」
「ソルティ先輩に手伝ってもらって、みんなでお揃いになるように作ったんだ。衣装は難しくて無理だったけど、アクセサリーならと思って!」
リディは小さく笑い、リボンを首元に巻いてみる。
瞬間、ホログラムのライトが反射して、キラキラ輝いた。
「ロマ、ありがとう。ボク……曲の練習で必死だったから衣装まで気が回らなかった。助かるよ」
その言葉に胸が熱くなる。
次にルキとシキのもとへ。
二人の筆の先が青と桃の光を描いていた。
「ロマ、何持ってるの?」
「実は、みんなに渡したいものがあって」
箱を開けると、小さな筆の根元に結ぶための白いリボンが並んでいた。
端には淡いパールビーズ。
「綺麗なリボンだ」
シキが嬉しそうに微笑む。
「うん。ホログラムの光を受けて一番きれいに映える色を選んだ。ステージの中で、筆が生きて見えるように」
ルキが筆に結びながら呟いた。
「すげぇ……。お前らしいな」
「ふふ、ロマったらいつの間にこんな素敵な物作ってたの」
シキが目を細めて笑う。
なんだかすごく恥ずかしいけど、作ってよかった!
クレア、プリス、シャルム、ヴェルテにも次々とリボンを渡す。
女の子たちは髪飾りの形で、レースや小さな宝石がついている。
「かわいい~! 今後もロマ君に衣装頼みたい!」
クレアが鏡に映してはしゃぐ。
「ヴェルテ君のも似合ってる!」
「少しずつデザインが違うんだね。嬉しい」
「可愛い、ありがと」
シャルムも嬉しそうにリボンをつけてくれた。
淡い笑みとともに、音楽の空気が少し柔らかくなった。
最後にミカソ先輩がリボンを手に取り、少しだけ目を細めた。
「これ、ロマ君が作ったのね。すごく綺麗だわ!文化祭思いっきり楽しみましょ」
その言葉に、ロマは静かに頷いた。
「ソルティ先輩にもたくさん助けてもらいました。みんなで同じリボンをつけて、ひとつの作品を作りたくて」
ミカソ先輩がゆっくり筆にリボンを結んだ。
「ありがとう、ロマ君。――このステージは、絶対に成功させようね!」
その瞬間、講堂の天井の照明がふっと落ち、ホログラムがほのかに点灯した。
舞台の上にはまだ何も描かれていない、始まりのキャンバス。
けれどそこに立つ全員の胸元、筆、髪、手首で――白とオーロラの光が静かに揺れる。
みんなの想いが一つに結ばれたみたいだった。
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