第33話 共鳴
次の日の朝。
「ロマ、おはよー」
ルキ君が前髪を切ってから、やけに眩しく見える。
きっと朝日のせいじゃない。
ラベンダー色の瞳とよく目が合うようになったけどまだ少し慣れない。
「おはよう!今日のリディ君たちの演奏、楽しみだね」
「ふん、結成したてらしいし期待してねぇ。……リディってなんか気にくわねぇ」
ロマがリディの事を話すとルキはちょっと不機嫌になる。
***
放課後。
軽音学部の部室を訪れたとき、扉の向こうからすでにリズムが漏れていた。
低音が床を伝って、胸の奥まで震える。
……早く、もっと近くで聴きたい。
「ようこそ、美術部のみんな!」
扉を開けた途端、リディが待ちかねていたように笑って出迎えた。
部室の中央には機材とケーブルが張り巡らされ、壁には彼らの好きなバンドのポスター。
そしてスピーカーがひときわ輝いていた。
「準備できてるから、早速ボクたちの曲、聴いてもらうね!」
リディがマイクを握った瞬間、空気が一変した。
クレアの鋭いスティックの音が響き、カウントを刻む。安定感のあるビートが一瞬で場を支配する。彼女の金髪がリズムに合わせて揺れ、強く正確なリズムの腕の動きがステージ映えする。
ヴェルテのキーボードが重なる。
彼の指が鍵盤を滑ると、ピアノの柔らかな音色とシンセの電子音が心地良い。
彼単体でも充分な実力なのだろう。
そこにシャルムのベースが重なっていく。
彼女の細い指が弦を弾くたび、深く響く低音が部屋の空気を震わせる。ヘッドフォンを首にかけたクールな表情で、精密なリズムを刻む。その音はまるで大地の鼓動のようで、聴く者の足元から全身を包み込む。
ギャップがすごい。
プリスがギターを鳴らすと、雰囲気が一気に華やぐ。
赤みがあるオレンジ髪のポニーテールを揺らし、彼女のストロークがキレのあるリフを紡ぐ。テンポの速いコードが火花のように弾け、時折コーラスでリディの声にハーモニーを添える。
リディの歌声は高く、伸びやかで、透明。けれど低い音域まで自在に操る。
その奥には、切ない熱があった。
目を閉じると、それぞれの楽器と声が絡み合って、互いを引き立てていた。
……ライブっていいな。
いつもわがままで天真爛漫なリディ君からは想像できないくらい、歌っている時は大人っぽい。
歌のことはあまり分からないロマにも伝わってくる――真っ直ぐな情熱。
気づけば、瞬きを忘れていた。
ヴェルテのキーボードが重なり、光の粒みたいな音が部屋を満たす。
聞き覚えのある旋律……あれは、キールのライブペイント動画のBGMだ。
ルキ君が、喜びと驚きが混じった顔をしていた。
……ルキ君、なんでそんな顔するの?
演奏が終わったとき、誰もすぐに言葉を出せなかった。
ミカソ先輩が小さく息をついて、ぽつりと言う。
「一年生でここまでの完成度とは……驚いたわ」
ロマは、ただ頷くしかなかった。
リディがこちらに歩み寄ってくる。
汗に濡れた金髪が光を弾き、あの青い瞳がまっすぐに僕を見つめる。
「どうだった? キミたちのホログラムの絵と、ボクたちの音。組み合わせたら――世界が変わると思わない?」
挑むような笑顔。
その言葉に、なぜかルキ君の視線が鋭く揺れた。
「確かに凄かった……悔しいが、お前らに協力してやるよ」
低く呟くルキ君。
リディがぱっと顔を輝かせた。
「ほんと!? ありがとう!」
「ホログラムの絵と音のコラボ、本気でやってみよう!」
シキ君も感激している。
「うん!」
「こんなすごい音楽を聴いたら、応えざるを得ないわね」
ミカソ先輩もすっかりその気だった。
***
片付けのあと、ルキはヴェルテに話しかけた。
「ヴェルテって……まさか、BGM提供してる『ヴェルデ』さんなのか?」
「え?どうして?よく分かったね」
「俺、動画制作の時に使わせてもらってるからすぐ分かった。……本人に会えるなんて、すっげー嬉しい」
「使ってもらえて、私も嬉しい。あなたはもしかして――?」
ロマは少し離れたところからルキとヴェルテの様子を見ていた。
何話してるんだろ……。
もやもやしながらもリディたちの音楽のイメージに合う絵を考える事になんとか気持ちを切り替えようとするのだった。
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