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色彩のきずな  作者: 潮騒めもそ


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第32話 トリックスター襲来

 放課後、地下のホログラムフィールドには、天上からやわらかな光が満ちていた。

まだ何も描かれていない。

全ての空間がキャンバスだ。


 ロマたち美術部は、今度の文化祭パフォーマンスに向けての打ち合わせの真っ最中。

 床に投影された仮想キャンバスの上には、試作中の光の筆跡がいくつも浮かんでいる。


「やっぱりBGMとかも重要かな? 光と音がもっと呼応したら、絵が“生きてる”みたいに面白くなりそう!」

 ロマが言うと、シキが頷いた。


「描いたものが観客に向かって動き出す……みたいな演出、面白そうじゃない?」

「それいいな!」


 ルキが笑って筆を回した瞬間――


「うわぁ〜〜っ、ここ、ほんとに噂どおりすっごくいーじゃん!!」


 突然、出入口から賑やかな声が響いた。

 数人の生徒がぞろぞろと入ってくる。髪色も姿勢も個性的。

でもどこか華がある。


「……誰?」

 アレンが眉をひそめる。


 先頭に立っていたのは、銀に近い淡い金髪の少年だった。

 薄い青の瞳がきらきらと輝いていて、どこか儚げなのに、存在感が強い。


「ボクはリディ! 軽音学部の1年生バンド代表だよ!」

 リディは胸を張った。


「で、こっちはボクの最高の仲間!」

 リディが後ろを振り向いて紹介していく。


 「キーボード担当、ヴェルテ。ピアノと電子音を混ぜた幻想的なサウンドを作る天才」

 紹介されたヴェルテは、深い紺髪に淡い緑の瞳をしていて、柔らかく微笑んだ。

 「初めまして。私たち、この施設の音と映像の連動にも興味があって」


 「ギター&コーラスのプリスです!リディは元気すぎて誰も止められないのよ!あたしでもお手上げなの」

 オレンジがかった茶髪をポニーテールにした明るい女の子だ。


 「ベースのシャルム。冷静で無口だがツッコミが鋭いんだ」

 黒髪ショートのシャルムは、少し表情を緩めて、ヘッドフォンを首にかけたまま短く会釈した。


 「ドラムのクレア。彼女がいないと音がまとまらない」

 「リディはわがままなところがあるけど音楽に対する情熱が強いだけなの。どうぞよろしくね」

 金髪の肩より下くらいの長い髪で、鋭い眼差し。同い年だけど頼れるお姉さんって感じがする。


 リディが得意げに両手を広げた。

 「ね、格好良いでしょ?ボクたち、今度の文化祭でデビューする予定なんだ」


確かに輝いて見えるけど、自由過ぎない……?


 「この施設すっごく気に入った!ここでライブしたい!!広いし、照明も最高じゃん!」


「ちょっと待て、ここは美術部が――!」

「アレン君!だめだよ」

ロマはアレンが突っかかっていこうとするところを抑えた。けどアレンの気持ちは分かる。


「あの、今は美術部のパフォーマンスの練習時間なので、ごめんなさい」

ミカソ先輩が頭を下げる。

 リディは一瞬だけむっとしたように唇を尖らせ、それから軽く笑った。

「じゃあ、後で貸してくれない?どうせつまんないパフォーマンスでしょ?」

「リディ、それは言い過ぎよ」

 クレアがたしなめるがリディは視線を逸らした。

 

……つまんない?


 ミカソ先輩が顔をひきつらせて穏やかに言う。

 「でも今は美術部の発表練習のために――」

 リディがそれを遮るように言った。

 話を全然聞いてくれない。

 「ねぇ、“音楽とホログラムのコラボレーション”相性ぴったりだと思うんだ!ボクたちのライブ、もっと華やかにできるし!」


「ちょっとおもしろそうだね」

とロマは思わず口にしたけど、リディはすぐに顔をしかめた。

 「キミたち美術部の絵なんてライブには地味でしょ?」


 ……胸の奥が、ちくりとした。


「地味かどうかは――これを見てよ」

 気づけばロマの声は、怒りに少し震えていた。


 ロマは筆を取って、さらりと白猫を描いた。

 白猫のホログラムが跳ね、リディの足元ですり寄る。


 更にシキが一歩、前へ出る。

 無言で光筆を握ると、目の前で描かれた桜の花の線が一瞬で立体化し、――桜が咲いた。


 風もないのに、花びらが宙を舞い、リディの頬を撫でる。

 淡い光の花弁が頬に触れるたび、彼の青い瞳が驚きに揺れた。


「う、わぁ……なにこれ……!」

 

 ルキが続けて、きらきらと光る星を描く。次に魚も描き、魚たちがその星の間を泳いだ。

他の美術部のみんなも自分の絵をホログラムフィールドに実体化させていく。


「きれい……生きてるみたい……!」

 プリスが思わず声を上げる。


 幻が消え、静寂が戻る。

 リディは、しばらく黙って立ち尽くしていた。


 やがて、ゆっくりと口を開いた。

 「すごいや!キミたちの絵の技術を貸してほしい。ボクたちのライブを――もっとすごくしたい!」


 ロマは、彼の真っ直ぐな瞳を見返した。

 「それなら……あなたたちの音楽も聴かせてよ」


 そのとき、リディの口元に浮かんだ笑みは、挑戦的で、どこか楽しそうだった。

 「いいよ。――ボクたちの音は、キミらの絵にも負けないから」

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