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色彩のきずな  作者: 潮騒めもそ


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第31話 庭園の管理者

放課後の教室。

窓から射す光が傾き、机の影が長く伸びている。


シキ君は選択体育の授業以来、美術部に顔を出す頻度が少なくなっていた。

どうやらホログラムフィールドの調整を手伝っていたり、カリーヤ先生に格闘技を教わっているらしい。

あまり会えなくて寂しいけれど、今はそのほうが良かったのかもしれない。


あれから、ルキ君は少しずつ変わっていった。

前髪を切ってからというもの、クラスのみんなと打ち解けるのが早かった。

ぶっきらぼうな話し方だけど根は優しくて面倒見は良いから自然なことだ。

話しかける人も増え、笑い声もよく聞こえるようになった。

美術部でも、彼の意見を聞こうとする部員が増えている。


素直にとても嬉しい。

本当に良かった……そう思う。

ルキ君が変われたのは、本当にすごいよ。


だけど、同時に胸の奥に仄暗い気持ちが芽生えた。


あの笑顔を見せてくれるのは俺だけで良いのに。


……そんなの独りよがりのエゴだ。


そんな気持ちをルキ君に悟られまいと、少しルキ君を遠ざけてしまっていた。

クラスメイトがルキ君を囲むから近づけなかったのもある。


放課後、美術室でひとりスケッチをしていると、ココナちゃんが声をかけてきた。

「ねえロマ君、最近ルキ君変わったよね。すっごい人気。前より明るくなったし」

「……そうだね」

「それに、シキ君とも仲良いよね。昔友達だったってシキ君から聞いたよ」

「……うん」

ココナちゃんが顔を覗きこんだ。


「もしかしてロマ君がルキ君を変えちゃったとか?」

ドキッとした。


もしそうだったらいいのに……なんておこがましくて。


「そ、そんなことないよ。俺は何もしてないし」


「ふーん。なんか顔、赤いよ?」

「えっ、うそっ!?」

「ふふっ。じゃ、お互い色々頑張ろうね、ばいばーい」

ココナちゃんは笑って立ち上がり、片づけを始めた。

でもロマは、筆を持つ手が止まったままだった。


ルキ君が変わった理由が俺……。

そう言われて、否定したはずなのに。

胸の奥で、何かがずっとざわめいていた。


窓の外では、夕日が校舎の屋根を赤く染めている。


……俺、どうしてこんな気持ちになるんだろう


ルキ君のことが好きなのか。

でも、シキ君のことも——気になって仕方がない。


ルキ君に、もしこんなこと打ち明けたらどう思われるだろう。


男の俺が、同性の友達2人に、恋愛みたいな気持ちを抱いてるなんて……。

だめだろ、そんなの。


これは友情だ、友達として“大好き”……なんだ。


頭の中で必死で気持ちを書きかえようとする。

筆先が震え、スケッチブックの上で線が滲んで、絵が歪んだ。


ロマはため息をついて筆を置いた。

——描けない。

どう描けばいいのかわからなくなった。


「帰るか……」

もうだいぶ薄暗い林を抜けたところにひっそりと佇む秘密の庭園にロマはいつの間にか訪れていた。

静かに泉が水音を立てている。

ルキ君との秘密の場所。

でもそこにいたのはルキ君ではなくソルティ先輩だった。

ランプが2つ灯り、ソルティ先輩が庭園のお手入れをしていた。

「ソルティ先輩?どうしてここに?」

「ロマ君こそ。もうじき暗くなってしまいますよ」

ソルティ先輩は一瞬驚いた顔を見せたがすぐにいつもの落ち着きを取り戻す。

「農業科の友人のお手伝いで泉を愛でるためにここを共に作ったのです。ロマ君がこの場所を知っていたなんて驚きました」

ソルティ先輩は手袋を外しながら言う。

「俺の友達が偶然ここを見つけて……すごくこの庭園好きです。先輩の友達はいらっしゃらないんですか?」

「忙しい人なので、最近はわたくしがお世話に来ていたんです」

ここでソルティ先輩に会えてほっとすると同時に申し訳ない気持ちになる。

「先輩……展覧会の時に俺に絵を描いて欲しいって頼んでくださったけど、俺絵が描けなくなっちゃって……ごめんなさい」

「……もし良ければお話聞きますよ」

促されてガゼボの中の椅子に腰掛ける。

白いテーブルにはランプがゆらゆらと優しくロマとソルティ先輩を照らしていた。

「ありがとうございます。でも打ち明けてしまったらきっと嫌われちゃう……それが怖いんです」

「怖くて言いにくいのですね。でも、どうして分かり合える可能性を最初から諦めているのでしょうか」

「嫌われたら終わりです。……存在すら許されなくなるんです。中等部の時、みんなから無視されて……もう繰り返したくない」

少し泣きそうになるのを堪えて言った。


「ロマ君……とても辛い思いをされて耐えてきたんですね。今まで頑張ってきたロマ君を尊敬します。あなたはとても素敵ですよ」

ソルティ先輩の声が優しく響いた。

「今の周りの人達はロマ君のことが大好きですよ。それは少ない家庭科部での活動日でも分かるくらいに」

その言葉で、喉を締め付けていたものが解けた。

そして深呼吸して慎重に言葉を繋いだ。


「俺は……友達の男の子のことが気になって仕方がないんです。気持ち悪いですよね?男同士で……好きとか」

ソルティ先輩は目を閉じてロマの言葉を噛み締めるように言う。

「それは……打ち明けるのに勇気が要りますね。怖くもなります」

ソルティ先輩の瞳にランプの光が揺らめく。

「わたくしはロマ君が大好きですよ。嫌いになる要素が見つかりません。世の中にはたくさんの人がいますから否定される事もあるでしょう。でも誰かを大切に想う純粋な心を、自身まで否定しなくて良いんです。どうか自分を責めないでください」


ひんやりした風がそよぎ、林の木の葉や庭園の花々が揺れた。

ロマは静かに目を閉じ、ひとすじの涙をこぼした。


「一緒に帰りましょう。送って差し上げます」

「はい。ありがとうございます。ソルティ先輩のおかげでまた描けそうな気がしてきました」

その言葉に先輩は優しく微笑みを返した。

辺りは暗くなっていたが、心に暖かい光が灯ったみたいだった。

お読みくださってありがとうございます!

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