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色彩のきずな  作者: 潮騒めもそ


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第30話 強さの意味

シキ君視点のお話です。

 サバイバルゲームの選択授業が終わり、僕はロマがエドガーに撃たれた時の違和感を思い出していた。

ロマはあの時確かに痛がっていた。

痛みをそれほど感じないように設計されているはずなのに、おかしい。

ロマ、ルキと教室に戻る途中、心配になって聞いてみる。

「ロマ、さっき撃たれた時の背中は本当に大丈夫?保健室行く?」

「ありがとう、大丈夫だよ」

ロマは無邪気に笑ったけど、まだ心配が残る。

道中、ロマがグレゴリー先生に呼び出された。

ロマだけ、どうしてだろう……?

「ごめんルキ、先に教室に戻ってて」

「シキ?どうしたんだ?」

「ちょっと気になることがあって」

ルキの疑問をよそにロマの後を追った。

着いたのは化学研究室。

盗み聞きなんてよくないけれど……。


どうやらグレゴリー先生の設定ミスのせいでロマが痛い思いをしたみたいだ。

グレゴリー先生は警戒しよう。


「俺は別にいいんです。でも……シキ君が怪我をしてたかもしれないと思うと……ムカつきます」


……ムカついてる?

ロマが怒っているところを見たことなかったからムカついてるなんて全く想像できない。

僕のために怒ってくれるなんてロマは本当に可愛い。

もうひとりの弟のように思う。


文化祭の時にホログラムフィールドで絵を描くのか……ロマらしくて良い提案だ。

グレゴリー先生にはたっぷりと改良の為に働いてもらおう。



美術部のみんなで文化祭についてのミーティングをした。

ロマがホログラムフィールドでのライブペイントパフォーマンスを提案して、みんな賛成した。

何故か僕はホログラムフィールドの調整を手伝う事に。

でもその後はカリーヤ先生に格闘技の稽古をつけてもらう予定でそれが楽しみだった。


* * *


 試しに改良を加えた筆先を滑らせてみる。

 ホログラムフィールドに、青色の絵の具が広がっていく。

 青と緑を混ぜると、光を帯び、青い空に透ける翡翠のように綺麗な色ができた。

 新しい“筆ツール”の描き味は、まるで本物の絵の具みたいだった。


「線の太さ、もう少しだけ筆圧で変化が出るようにしてもらえますか?」

 僕は端末に入力しながら、リアム先生に声をかけた。


「了解。……あぁ、筆の入り抜きも調整したほうがいいですね」

 無表情のまま答えるリアム先生の手が滑らかに動く。

 端末のコードが一瞬だけ光った。

 先生、結構僕らの絵を見てくれてるんだな……。


 隣ではミカソ先輩が、線画の遅延チェックをしている。

「うん、これなら本番のパフォーマンスも問題なさそう。色の追従も綺麗ね」

 そこへグレゴリー先生が端末を手にやってきて、柔らかく微笑む。

「ほう……この透明感、まるで水の上に描いているみたいですね。こんな表現も可能になるとは」

「グレゴリー先生、大きめの筆もいくつか作って頂けませんか?ロマが大きいのが良いって言うので」

とびきりの笑顔で頼んでみた。

「作りましょう」

グレゴリー先生が答える前にリアム先生が返事をした。

「リアム先生、勝手に決めないでください……しかしロマ君が欲しいと言うなら仕方ありませんね」


 先生たちが、まるでアートチームの一員みたいに自然に協力してくださるのが、なんだか嬉しかった。

グレゴリー先生への警戒は怠らないけど。

 文化祭のライブペイントでは、ルキやロマ、美術部のみんなで幻想的な世界を描きたい。

 見た人が息をのむような、色の世界を。


「よし、調整はこれで完了。次は君の番です、シキ君。戦闘の動きのデータを取らせてもらいます」

 リアム先生が背後のマットを指で示す。

 カリーヤ先生がそこに立っていた。

 長身で、腕には包帯。髪は短く整い、どこか野性味を帯びた眼差し。


 僕はツールを置き、道着に袖を通した。

 いつもの格闘訓練の時間だ。

 今日こそ、少しでも食らいつきたい。



 打撃を仕掛ける。

 でも先生の体が一瞬で消えた。

 次の瞬間、地面に背中を打っていた。

 視界がひっくり返る。


「シキ、力みすぎだ。力で押すな」

「でも、押し返せなきゃ……くっ、もっと筋力があれば!」

 息が荒くなる。拳を握る。


 そのとき先生が、僕の手首を軽く取った。

 柔らかく、しかし逃れられない。

 そのまま、流れるように体を回されて、再び倒れた。


「今のを感じたか?」

 先生の声は穏やかだった。

「力は使ってない。お前の力を“流した”だけだ」

「……流す?」

「そうだ。お前は相手を見すぎる。だから合わせるのが上手い。なら、合気道をやってみろ。きっと合う」

「合気道……」


 先生は笑って言葉を続けた。

「合気道の基本は“争わず、調和する”ことだ。力をねじ伏せるんじゃない。相手の動きに逆らわず、流れの中で制する」


 その言葉に、胸の奥が少し熱くなる。

 先生の掌が離れた瞬間、空気の流れさえ変わった気がした。

「お前の絵、覚えてるぞ。色の調合が上手いんだろうな。不思議な調和がある。あれと同じだよ。力も心も、ぶつけるんじゃなく、調和させる」


 風が吹いた。

 マットの上の空気が少し冷たくなる。

 僕は先生の言葉を反芻した。


 “流す”って、きっと相手を壊さず、守るための力だ。


 そうか――。

 強くなるって、単に力でねじ伏せることだけじゃないんだ。


 次に構えた時、僕はほんの少し、呼吸を変えた。

 先生の腕が動いた瞬間、その力を受け流すように体を捻る。

 初めて、先生の重心がわずかに揺れた。


「……今の、悪くない」

 先生が笑った。

 その笑顔に、僕は胸が熱くなった。



 稽古を終えて外に出ると、夕焼けが講堂の窓を赤く染めていた。

 リアム先生が手を振る。グレゴリー先生は端末を眺めていた。

 「お疲れ様」

 ミカソ先輩が僕にタオルを投げてくれる。


 僕は空を見上げた。

 この手で、誰かを守れるようになりたい。

 もう、あの日みたいにルキやロマ、大事な人達を泣かせたくない。

お読みくださってありがとうございます!

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