第26話 サバイバルゲーム⑥
フィールドの奥は不気味な静寂に包まれていた。
ロマはクロマブラスターを握り直した。
額の汗が冷たく流れる。
「ロマ、右だ!」
シキの声が鋭く飛ぶ。
反射的に銃口を向けると、木陰から狼型エネミーが飛び出してきた。
瞳がぎらりと光り、牙が閃く。
ロマは息を呑んだが、もうホログラム敵への躊躇はなかった。
「……バースト!」
桃色の光弾が空を裂き、狼の胴を貫く。
閃光が弾け、敵は光の粒子へと変わって消えた。
《討伐成功 体力ポイント+30》
「やるじゃん!」
ルキが笑いながらロマの頭をぽんっと撫でた。
「あれっ?ルキ君背伸びた?シキ君も目線が前よりなんか高くなってる……!」
「そう言えば、前よりなんかロマが可愛く見える気がするね……」
可愛く……?シキ君はまた変な事を言わないでほしい。
「ロマはまだあんまり伸びてないんだな」
「そんなー!なんか置いてかれてるみたいで悔しい!」
緊張の糸がわずかに緩み、ロマの唇が小さく弧を描いた。
更に奥に進むとロマが木の根元にきらめく光を見つけた。
「アイテムボックスだ!」
駆け寄って開けると、中にはマガジンと火力上昇アイテムが入っていた。
「補給できるのはありがたいね」
シキが頷きながらマガジンを装填する。
ルキは笑ってロマの肩を軽く叩いた。
「ロマはお宝見つけるの得意だな」
ロマも照れくさそうに笑い返した――その時だった。
耳を劈く咆哮。
木々の向こうから、巨大な影が現れる。
ボス級エネミー、クリスタルゴーレムだ。
結晶のような体躯を大きく揺らして近づいてくる。
動きはそんなに素早くなさそうだが、攻撃と防御力が高い。
もし攻撃を一度でも食らえば戦線離脱間違いなしだ。
「嘘だろ……あれはボス!?」
ルキの声が震えた。
「手間がかかるから会いたくなかったね」
シキの表情が険しくなる。
「くそっ、ここはもう逃げ場がない!」
ルキが叫ぶ。
ロマは深呼吸を一つして、前へ出た。
「大丈夫。動きは鈍いからよく狙えば当たる」
シキが先制攻撃に出る。
「バースト!」
シュバババッ!とクリスタルゴーレムが桃色に染まるがまだまだ倒れそうにない。
「ボスの体力多過ぎないか!?あんなの倒せるのかよ!」
「ルキ君、火力上昇アイテムを使って!」
ロマはルキにアイテムを託した。
ルキのクロマブラスターが一瞬光り輝いた。
「おう!やってやる!」
ルキは希望に眼を輝かせた。
ボスの攻撃は桁違いだった。
衝撃波で大地が割れ、木々が薙ぎ倒される。
「かなりやべーボスだな!」
ルキが攻撃をなんとか避けながら叫んだ。
「ロマ、左に回って! ルキ、援護射撃!」
シキの声が飛び、3人の動きが連携する。
光弾が雨のように飛び交う。
「スナイパー!」
ルキがボスの急所の胸核を狙撃した。
ボスの結晶に亀裂が走る。
そしてついに――
3人の集中射撃が決まり、ボスの胸核が爆発した。
光が森全体に弾け、静寂が戻る。
《討伐成功 体力ポイント+100》
「……倒した!!」
ルキが呟く。
森に静寂が戻った。
だがその静けさは、終わりの合図ではなかった。
――モニタールームの空気は一層張り詰めていた。
リアムはスクリーンから目を離せなかった。
桃色チームがボスを倒し、ようやく息をついたその瞬間――青チームが動いた。
「……動いたか」
グレゴリー先生が笑みを浮かべた。
ヴィム、エドガー、ルーカス。三人が樹上に散開し、戦略的に包囲を完成させる。
「ボスを囮にして、消耗を誘ったな……」
リアムの指が無意識にモニターの縁を叩く。
青チームのエドガーが長銃身を構えた瞬間、リアムの息が止まった。
独特の青黒い輝き――、レア武器か。
「イケメンを青く染めてやる」
スコープ越しに笑うエドガーの口元を見た瞬間、リアムは思わず立ち上がった。
「シキ君が危ない……!」
けれど、声はモニターの向こうには届かない。
弾道予測線が、シキの背中を静かに捉えた――。
シキの背中に、細い光の線が伸びていくのがロマの目に映った。
あれは……弾道予測線!?
「シキ君!!」
咄嗟に体が動いた。
ロマはシキを突き飛ばすようにして前へ出る。
次の瞬間、青黒い雷のような光弾がロマの全身を青く染めた。
「うあああーーっ!!!!」
なんで……?
こんなに痺れるような痛みを感じるんだろ?
安全のはずじゃなかったのかよ……!?
意識が一瞬朦朧とする。
警告音が響き、頭上に赤い文字が浮かぶ。
【戦線離脱】
「ロマッ!!!!」
シキの叫びが森に響いた。
ロマは地面に崩れ落ちながら、うっすらと笑った。
でも守れた……今度は、俺が……
「ロマ!大丈夫か!?」
「しっかりしろ!」
シキとルキが周りを警戒しながらロマを木陰に運ぶ。
「うぅっ……。びっくりしたけど、大丈夫だよ。俺は色塗りで頑張るから……!2人とも気をつけて」
シキの表情は動揺していて言葉が出てこないようだった。
ロマは残った2人が気になったが色塗りの場所にゆっくりと移動した。
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