第23話 サバイバルゲーム③
ロマ、シキ、ルキの桃色チームは、初期配置の広葉樹の森に立っていた。
木漏れ日が差し込む薄暗い林床。視界は限られ、周囲には風の音と葉擦れだけが響く。
細かいところまでホログラムで再現できるんだな。
風とかどこから吹いているんだろう。
シキは立ち止まり、クロマブラスターを肩にかけたまま周囲を見渡す。
「……ここで一度、作戦を整理しておこう」
シキの落ち着いた声に、ロマとルキも足を止めた。
「まずホログラムの敵を狩って体力を増やす。今は無理に他チームとはやり合わない」
「地道に稼ぐってことだな」
ルキが頷きながら銃口を軽く回す。
「そうだ。体力と弾薬を切らしたら、どんなに腕があっても勝てない。アイテムボックスはロマに任せる」
「うん!頑張るね!」
名を呼ばれ、ロマは目を瞬かせた。
「僕とルキがロマを守るから、アイテムボックス探索に集中してほしい。もし撃てそうだったら援護してね」
「……わかった。やってみる!」
怖いしあんまり自信は無いけどシキとルキの足は引っ張りたくない。
小さく拳を握って気合いを入れた。
その真剣さにシキが優しい紫の眼差しで頷く。
ルキは静かに闘志を燃やしているようだ。
「じゃあ俺は前に出る。なるべく先に敵に気づいて、即攻める。奇襲を受けてもすぐに反撃してやるぜ」
「僕は全体を見ながらルキとロマのフォローをする」
「ロマは焦らなくていい。お前が生き残ってるだけで俺たちの戦い方は広がる」
「ありがとう。緊張するけどすごく心強いよ」
胸が熱くなる。守られているという安心感と、自分も役立ちたいという思いが混ざり合って、ロマはぎゅっとクロマブラスターを握った。
「色塗りはどうするの?」
「弾数が限られているし、予備のマガジンを手に入れてからやっていこうか」
「分かった!」
「じゃあまずはホログラムの敵を狩りに行こうか」
ルキが先に歩き出し、シキはルキに続きながらロマの方を見た。
ロマはそんな2人を見ながら、胸の奥に熱を覚えていた。
2人の間に自分も並んで立っている。そのことが、何よりも嬉しかった。
格好良くて絵もすごく上手い彼らと、いじめられてた俺なんかが一緒にいて、不釣り合いなんじゃないかってどこかでいつも感じていたから。
その直後、森の茂みが激しく揺れる。
「敵だ、ロマ!構えろ」
ルキの声と同時に、鋭い結晶をまとった獣――シャードビーストが飛び出してきた。青白い刃のような結晶を背負い、唸り声を上げながら突進してくる。
ルキが反射的に引き金を引く。弾幕が結晶を砕き、閃光が森を照らしたが、獣は止まらない。咆哮とともに鋭い爪が振り下ろされ、ルキは咄嗟に身をひねってかわしながら至近距離から撃ち込んだ。
「ロマ!今だ、撃て!」
シキの声が鋭く飛ぶ。すでにシキは獣の死角を取り、冷徹な狙撃で足を削っていた。獣の動きが一瞬鈍る。
なんて軽やかで美しい動きなんだろう。
ロマは震える指でトリガーを引いた。
撃った瞬間だけ、胸のざわめきが消えた。光弾が獣の脇腹に突き刺さり、シキの狙撃と重なってホログラムは砕け散る。
《討伐成功 体力ポイント+20》
浮かぶ表示に、ロマはほっと息を吐いた。
「やった……! 俺のも当たったよ!」
「おう、悪くなかったな」
ルキがニッと笑って親指を立てる。
シキも短く頷いた。
「その調子で行こう!」
少しは俺でも2人の役に立てるかも。
やがて森の奥で光輝くアイテムボックスを発見した。
「やった!中身は何だろう」
ロマが中を確認すると、クロマブラスターのマガジンと、薄く光を帯びた小さなブローチが入っていた。
「マガジンだ! それに……これは、防御シールド?」
「おー、いいじゃん。お前引き強いな」
ルキが嬉しそうにロマの肩を叩く。
シキはロマの手からアイテムを受け取らず、
「防御アイテムはロマが持っていて」
と真剣な眼差しで言う。
「良いの?」
「ロマは僕たちのチームの要だから」
シキが柔らかく微笑む。
「ロマがすぐに倒されないように保険かけとくってことだ」
ルキが笑いながら言った。
その時、森の空気が変わった。
枝葉がざわめき、風もないのに揺れる。シキが即座に気づき、低く声をかける。
「……隠れて!」
「んっ……!?」
次の瞬間、ロマは木の幹に押し付けられていた。シキの手が口を覆い、耳元で囁く。
彼の腕越しに伝わる体温、真剣な瞳。
ロマの鼓動は抑えがたいほど速くなる。
敵が迫っている事もそうだがこの距離はさすがに近すぎるよ……!
ルキも素早く木陰に身を隠していた。
茂みを抜けて通り過ぎていったのは、新手のホログラム敵が3体。
ルキが後ろから数発撃ち込み、あっさり仕留めた。
シキはようやく手を放した。
「ルキ、格好良かったよ」
「……っ、びっくりした……ありがとうルキ君」
ロマは顔が熱いのをごまかすように小さく笑った。
ルキは少し離れたところで
「お前ら、妙に距離近すぎだろ」
と半分拗ねたように言う。
ーーその戦いぶりは、離れたモニタールームでも見守られていた。
生徒たちの安全確認のため複数の画面に各チームの動きが映し出される。
「桃色チーム、順調に進んでいるな」
カリーヤ先生は軍人らしい眼差しで画面を見つめる。
「役割分担が鮮明だ。前衛と支援、探索要員。三人の信頼がある」
その隣で、不敵に口角を上げるのは化学担当のグレゴリー先生。
白衣は清潔感に満ち、袖や胸元には汚れひとつない。
短く整えられた黒髪、整った身だしなみ。
落ち着いた物腰で戦況を見つめる。
「だが信頼だけで勝てるものですか?真価が問われるのはこれからですよ。……これからもっと面白くなる」
そして、情報工学担当のリアム先生は冷静な表情でスクリーンを注視する。
黒縁の眼鏡の奥、深緑の瞳は常にデータと状況を解析している。
ペールミントの髪は肩の下まで流れ、緩くウェーブして光を反射する。
余計な言葉は少なく、必要な事実だけを口にする寡黙な人物。
その分析は正確で、教師陣の中でも一目置かれていた。
リアム先生が淡々と言う。
「それでも、彼らの動きはとても興味深いです。想定よりもはるかに……!」
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