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色彩のきずな  作者: 潮騒めもそ


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第14話 届かない想い

ココナ視点のお話になります。

ココナは思い切ってシキを遊びに誘って断られた後、戻りにくいと思いながらも美術室の扉をそっと開けた。


視界に飛び込んできたのは、シキ、ロマ、ルキの楽しげな輪だった。

夕陽が彼らの笑顔を温かく照らしていた。

「ロマ、ちょっと展覧会のことで相談したいんだけど……。それでね……ロマの家の喫茶店、また行きたいなって。だめかな?」

シキの声はいつもより柔らかく、親しげに感じられる。

ココナの胸が、鋭く締め付けられる。


シキ君が誰かを誘うなんて……初めて見た。


シキは誰にでも優しいが、どこかこれ以上は仲良くできない感じで一線を引いているように思えた。

それなのに、ロマやルキと話す彼の声には、微妙な親密さが滲んでいる。

ココナの視線は、シキの笑顔に釘付けになる。

ロマを見る彼の瞳は、特別な光を宿しているように思えた。


私じゃだめなの……?

こんなにシキ君のこと、好きなのに……。


ココナの心は、羨望と切なさで揺れ動いた。

シキがロマやルキを見る眼差しは、ココナには向けられたことのない温かさに満ちているように見えた。

胸の奥で嫉妬の炎が燃え広がっていく。

ロマの明るい笑い声が響き、ルキのぶっきらぼうな声がそれに重なる。

「うん! ぜひ来て欲しいな! いつでも大歓迎だよ!」

「おい、俺を置いて話すな。……俺も行く」

彼らの楽しげなやり取りは、知らない場所に取り残されたような感覚にさせた。


一瞬ロマと目が合った。


私が見てほしいのは君じゃない……。


彼女は唇を噛み、そっとその場を離れた。

夕陽が廊下に伸びる影が、ココナの心の孤独を映し出しているようだった。


ココナの心は、たくさんの色を混ぜすぎた絵の具のように濁っていた。

美術室の片隅で、彼女はキャンバスに筆を走らせながら、誰もいなくなった部室内をぼんやりと眺めた。

ココナの胸の奥では嫉妬と切なさが渦巻いていた。


どうしてシキ君は私じゃだめだったんだろう……?


容姿には多少自信があった。

明るく振る舞えば周りは笑顔で応えてくれるし、告白されることも、誰かを好きになって告白することもあった。

自分は人気者だと、そう思っていた。

それなのに、シキだけは違った。

あの瞬間――勇気を振り絞ってシキを遊びに誘った時の彼の穏やかな声が、頭の中で何度も響く。

「大切な人がいるから」と優しく、でもはっきりと断られた。

シキの瞳には、いつも通りの温かさと、どこか遠い影があった。

シキ君の「大切な人」って……誰?

その問いが、ココナの心に鋭い棘のように刺さっていた。

シキは誰にでも優しい。

美術部の皆を穏やかな笑顔で包み込む彼の態度は、まるで柔らかい陽だまりのようだった。


でも、その優しさはどこか平等で……もし誰かを特別に扱ってくれるなら、それは私だけだったら良いのに。


シキに一目惚れしたあの日から、彼のさりげない仕草や、時折見せる少し寂しげな微笑みが、私の心を掴んで離さなかった。

完璧な優しさ、落ち着いた物腰、絵を描く時の真剣な眼差し。


すべてが私を惹きつけた。

どうすればシキ君の特別になれるんだろう?


その答えが見つからないまま、ココナの心は嫉妬の炎に焼かれ、冷たい孤独に沈んでいった。



翌日の放課後、美術室は展示会の準備で盛り上がっていた。部員たちは課題の絵について話し合ったり、黙々とキャンバスに向かったり、それぞれに活動していた。


ココナは自分のキャンバスの前に立ち、筆を握りながらも、視線は自然とロマとシキに引き寄せられる。

二人は並んでキャンバスを眺め、楽しそうに言葉を交わしていた。

「ロマの風景画、僕この色使いと雰囲気とても好きだな。なんだか心が落ち着くんだ。嫉妬しちゃうくらい」

シキの声は穏やかで、どこか親しみ深い響きがあった。

ロマは照れくさそうに笑い、頬を少し赤らめた。

「え、ほんと? ありがとう! そこ、めっちゃこだわったとこだから、わかってくれて超嬉しい! でも、シキ君の絵の方が何倍もすごいよ! 俺の方が嫉妬しまくってるよ」

二人の笑顔が、夕陽の光に照らされて輝いている。

ココナの胸が、鋭く締め付けられる。


シキ君の眼差し……ロマ君を見る時だけ、やっぱり特別な光がある。


シキの瞳には、温かさと、どこか深い感情が宿っているように見えた。

それは、ココナに向けられたことのない眼差しだった。


シキ君の「大切な人」って……もしかしてロマ君?


その考えが頭をよぎった瞬間、嫉妬の波が彼女を飲み込んだ。

ロマの無垢な笑顔、シキの穏やかな眼差し……2人の間に流れる空気が、まるで自分を拒絶する壁のように感じられた。

ココナは筆を握る手に力を込め、キャンバスに視線を落としたが、頭の中はぐちゃぐちゃだった。


どうして私じゃだめなんだろう?

シキ君がそんな風に見つめるのは、いつもロマ君なの?


ココナの心は、嫉妬の熱と、届かない想いの冷たさで引き裂かれそうだった。



翌朝、校舎の廊下は朝の喧騒に包まれていた。

ココナは教室に向かう途中、ロマの明るい声にハッと我に返った。

「ココナちゃん、おはよう!」

ロマの笑顔は、いつも通りの無垢な輝きを放っている。

だがココナの心は昨日の嫉妬とシキへの想いで濁っていた。ロマの明るさが、なぜか自分の心の闇を突きつけてくる気がした。

咄嗟に顔を背け、聞こえないふりをして足早に通り過ぎた。


ロマを無視した瞬間、確かに一瞬の安堵があった。


シキへの想いを抱えたまま、あの無垢な笑顔に向き合うのが怖かった。

ロマがシキの「大切な人」かもしれないという疑念が、彼女の心を締め付けていた。


でも、その安堵はすぐに冷たい後悔に変わった。


ロマ君は何も悪くないのに……。

なんでこんなことしちゃったの?


ココナの心は、まるで絵の具を混ぜすぎて濁った色のように、どんどん重く、濃くなっていく。


その後も、ココナは何度かロマを無視してしまった。

一度やってしまうと、後戻りするのは難しかった。

ロマの笑顔を見るたびに、シキの「大切な人」がロマかもしれないという疑念が頭をよぎり、胸が締め付けられる。


私、何やってるんだろう……。


ココナは自分の行動に苛立ち、自己嫌悪に苛まれた。

ロマに冷たくするのは、まるで自分の心の弱さを他人に押し付けているようだった。

美術室でキャンバスに向かいながら、彼女の視線は遠くで笑い合うロマとシキに何度も引き寄せられ、そのたびに胸の奥がズキズキと痛んだ。


シキ君の特別になりたいのに……どうしてこんな風にしかできないの……。


夕陽が部室を茜色に染める中、ココナの心は嫉妬と罪悪感の間で揺れ続けた。

まるで未完成の絵のように、不完全で、はっきりした答えの見えないまま。


お読みくださってありがとうございます!

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