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色彩のきずな  作者: 潮騒めもそ


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第11話 チョコレートパフェ

初夏の放課後、美術部の部室は画材の匂いと夕陽の光で満たされていた。

ロマはキャンバスに下絵を描きながら、隣で黙々と筆を動かすシキに目を向けた。

紫がかった桜色の髪が揺れ、紫色の瞳が絵に集中する姿をいつもつい見てしまう。


シキ君とルキ君は異母兄弟だった。

なんとなく雰囲気が似てるところあるなとは感じていたけど、まさかだった。

シキ君に事情を知っちゃった事とか話したいな。


展示会の準備で忙しい中、ロマは勇気を振り絞る。

「ね、シキ君!あの……もし時間あったら、俺の実家の喫茶店でお茶しない?」

シキの手が一瞬止まり、穏やかな笑顔でロマを見る。

「喫茶店?いいね、行きたい。ロマ君の家、どんなとこか気になるよ」

ロマの顔がぱっと明るくなる。

「やった!じゃあ、今日行こう!」

「ルキ君も良かったら喫茶店行かない?」

ルキが部室の隅で画材を整理しながら少し気まずそうに二人を見る。

ラベンダー色の瞳が揺れ、すぐに目を逸らす。

「ごめん……俺、用事あるから」

と呟き、ルキは先に部室を出ていく。

「じゃあまた今度ね」

ちょっと急にお節介だったかな……。

ロマはルキの背中に少し切なさを感じた。



「カフェ・白猫」は、学園から歩いて20分の所にある小さな喫茶店だった。

白猫の看板がかけられた木のドアを開けると、ドアベルが揺れてリーンリーンと音が軽やかに響く。

窓辺には花が飾られ、壁にはロマが描いた風景画や猫の絵がかけてある。

暖色の照明が店内を明るく優しく照らしている。

どこか懐かしさを感じさせる温もりのある空間。

「ただいま」と入ると、カウンターからロマの母が笑顔で迎える。

「おかえり、ロマ!あら、友達連れてきたの久しぶりじゃない?嬉しいわ!いらっしゃいませ!」

「母さん!中等部の時は家に呼びたい人がいなかっただけだから……!」

ロマが苦笑しながら気を取り直して、シキを母に紹介した。

「こちらが美術部で一緒のシキ君!絵がすごく上手いんだ」

明るい紹介に、シキが丁寧に頭を下げる。

「はじめまして、よろしくお願いします」

「こちらこそ!いつもロマと仲良くしてくれてありがとう、シキ君。ゆっくりしていってね」

母さんが満面の笑みを浮かべている。


二人は窓際の席に座り、ロマが得意げにメニューを差し出す。

「シキ君、甘いの好き?何食べたい?」

「えっと…じゃあチョコレートパフェお願いして良いかな?」

シキが少し恥ずかしそうに頼んだ。

「良いね!俺の一番のおすすめだよ」

ロマはニコニコしながらオーダーを母に伝え、テーブルに戻る。

店内はコーヒーの香りと静かな音楽で満たされ、シキの紫色の瞳が柔らかく光る。

「お店に飾ってある絵はロマ君が描いたの?」

「うん……でも前に描いた絵だから恥ずかしい……」

「とても素敵だよ。この黄昏時の風景画……空の絵とか特に好き」

シキ君に絵を褒められるなんて一番嬉しいかも。

「ほんと?ありがとう!実は最近、また空の絵を描き始めてて。そういえば、ルキ君も空を描くの好きなんだって」

「そうか……ルキも。雲とか描くの楽しいよね」


しばらくしてロマが出来上がったパフェを運んだ。

シキがスプーンを手に取り、めずらしそうに眺める。

「豪華で綺麗な盛り付けだね。食べるのがもったいないよ」

ミントの葉が上に添えられたバニラ味のアイスクリームにはチョコレートソースがかかっている。

その周りにはバナナやイチゴ、ブルーベリーがたくさん乗っている。

下の方にはコーヒーゼリー、小さくカットされたチョコブラウニー、シリアルが生クリームで隔てられて層になっていた。

「でしょ!俺、よく手伝いでケーキ作ったりするんだ。シキ君にいつか俺のケーキも食べて欲しいな」

ロマの純粋な笑顔に、シキの表情が少し緩む。

「ロマ君は色んなものが作れて凄いね。ぜひ食べたいよ。では頂きます」

シキがパフェを一口食べる。

「美味しい!今まで食べたパフェの中で最高!」

シキのスプーンが止まらない様子を眺めるのは楽しかった。


するとシキの口の端にクリームが付いてしまった。

「シキ君、クリームついてるよ」

ロマがこの辺り、とナプキンでそっと拭った。


シキが一瞬驚き、口元を手で隠して頬が赤くなり柔らかく微笑む。

「ちょっと恥ずかしいな……。ごめん、ロマ君」

いつも大人びているシキがちょっと子供っぽく見えた。


パフェを食べながら、ロマはふと尋ねる。

「シキ君、いつも完璧な感じだけど……絵を描く時、どんなこと考えるの?」

シキのスプーンが一瞬止まり、そして静かに呟く。

「僕は全然完璧なんかじゃないよ」

少しシキの瞳の色が暗くなったように見えた。

「……小さい頃、友達と一緒に絵を描くのが好きだった。友達の笑顔を見ると僕の絵のイメージがどんどん膨らんでいって楽しくて」

ロマの目が輝く。

「その友達って、ルキ君だよね?」

シキの瞳が少し明るくなった。

「うん。そう言えばこの前も言ったかな。ルキとは、子供の頃、毎日のように一緒にいたんだ」

シキがパフェをスプーンで綺麗な層をぐちゃぐちゃにかき混ぜながら遠くを見るように言う。

「親の事で色々あって、父さんがルキを拒絶した時、僕には何もできなかった。僕がもっとルキにちゃんと寄り添ってあげたかったのに……。すごく後悔しているんだ」

ロマは首を振る。

「ルキ君はシキ君のこと今も大好きだと思う。だって、ルキ君は部室でもシキ君のことよく見てたりするし。いつも気にかけてるんだと思う」

「え……?そうなの?ルキが?」

ロマのまっすぐな言葉に、シキが小さく笑う。

その笑顔は、いつもより無防備で、ロマの心を強く揺さぶる。

「うん。あっ、シキ君ごめん!俺、この前ルキ君からシキ君と兄弟だって聞いたんだ。知ってる事、シキ君と今日話しておきたくて」

シキが少し驚いた様に眼を見開いた後、ふふっと優しく微笑んだ。

「そうだったんだ。ルキが君に心を許す訳だ。ロマ君といると……何だか肩の力が抜けちゃうね」

シキがパフェのスプーンを置き、ロマの手をそっと握る。

「ありがとう、ロマ」

突然の名前呼びにどきりとする。

アメジストの瞳がロマを捕えて離さない。

ロマの頬が熱くなる。

え……?シキ君……!?

そんな綺麗な瞳で俺をこれ以上見ないで欲しい。

シキ君は感謝の気持ちで手を握ってるだけ。

何だか勘違いしそうになることを自然にやってのけるシキ君、すごい。

少しでもシキ君の役に立てたなら俺はそれだけで……。


ルキ君にもこんな風に笑って欲しい。

お読みくださってありがとうございます!

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