ForGoods
50%にしたバッテリーでスイッチオン。回路を起動する。
フィーーーーーーン
49%…48%…47%… 失敗
…
実験を数十年、百回以上と繰り返すことが出来ているのは大学の教授として研究費を大学から出してもらえているからだろう。
…49%… 48%… 47%… 失敗
…
自身が教授として大学生に授業をしている間にもさまざまな気づきや発見がある。
48%…46%…44%… 失敗
…
担当している生徒の卒業論文のデータや突飛な発想も私の試みの一助となってくれる。
49%…48%…47%… 失敗
…
永久機関の構築と実証。
最初に与えたエネルギーのみで半永久的に動き続け、外部にエネルギーを与えるもの。
疑似的なものは多くあるが、回路とモーターで本格的に組み上げるものを目指した。
数十年前に最初に試した理論的にいけるか?と思った1回目の実験。これがなまじ良いスコアを出したからかどっぷりこの実験にハマった。わずか0.05%程の更新であっても年に1回あるかどうか。大喜びである。
……49%…………48%…………47%………… 失敗よりの成功!
そんな永久機関に取りつかれて私はすでに喜寿(数え年77歳)を目前。
こちらからお願いして大学で働かせてもらえている状況だ。
ふとゼミ室に立ち寄った際に生徒が論文に関して色々と質問をしてくる。私は運が良いことに長年生徒達には恵まれていると思う。私自身は自身の研究のために生徒をダシに使っているところがあるのだが、生徒は私を慕って真面目に研究に取り組んでいるように見えて、私もそれに触発され実験を頑張れる。
その生徒達のゼミ室に近年TVコマーシャルなどで見かける『冷えコッコ3』という商品があった。
『夏場の暑い場所であっても気化熱を利用してエアコン並に冷える!』
『持ち運びができ、水だけで冷える!』
サーモグラフィの映像などで説得力を持たせているがまぁアレな商品だ。ペルチェ素子を電気で作動させている以上冷却効果よりも熱を生む量の方が大きい。湿度が上がると言う事は体感温度もあがり、長く使う程に不快度は増すだろう。スポットクーラーでも言える事であるがせめて排熱を考えておかないと効果はお察しだろう。エアコン&室外機、水&扇風機の組み合わせが圧倒的に効率的なのである。
「これは?」
「あぁ。私の母が夏は暑いだろうって送ってくれたんです。2個買うと安くなるとかで。ありがたいんですけど、そんなに涼しくならないし音が結構するので、、、ゼミ室なら人が多くて音が鳴っても気にならないから持ってきたんです。」
「音が鳴るって事は、エネルギーが音に行ってるって事だよね。ファンの音かな?」
私の実験している永久機関も起動後すぐ音が出てしまうと失敗しているなと分かる。音エネルギーの損失が起こる以上は永久機関からは遠ざかっているからだ。起電力で回路を動かし、重力で運用できないか…、、もしくは半永久的に力を生む地磁気の力で運用できないか…、、色々試しているのだが結果バッテリー50%をキープさせることも能わず、永久機関とする事が出来ていない。
ただし今の何気ない会話の中にもアイデアの種はあった。これだから教授は辞められないのだ。
…
そして次の実験で私は永久機関を完成させた。
電源を入れるとモーターが回り始める。
バッテリー50%から開始し、
……51%……52%……53%……
バッテリーが充電されていく。
ここ数十年バッテリー50%から実験を開始すると言うこだわりには、充電されていく可能性を考慮に入れていたからに他ならない。100%から開始すると、バッテリーが減っていくものに関しては確認できるが、過充電されていくケースのような無駄を処理する事は回路やモーター側に組み込めない。バッテリーがイカれてしまう程度なら問題無いが、うまくいった回路が焼き切れてしまうリスクもある。
この永久機関の成功には吸熱反応が関係している。回路やモーターには結露がつき奪った熱をエネルギーとする。気温が絶対零度(-273.15℃)以上であれば大気温を奪いながらそれをエネルギーとして駆動し続けることが理論上可能だ。気温が下がる程効率は下がってしまうが、そのような低温にはなるはずもない。1年の連続使用で全く問題無い事を確認。なおまだモーターは安定して回り続けている。さらにそれによって相当量の発電を確認できた。
私が傘寿(数え80歳)のお祝いは卒業生OBや企業も入った大規模なお祝いとなった。企業が私の回路とモーターを大型化し、国が大規模な発電施設の建設に着手し始めた。クリーンエネルギーであるどころの話ではない。回路とモーターそのものは耐久性さえあれば良いだけで、汎用性がある素材で大量に安価に作れることも分かった。さらに言えば夏場に至ってはよく吸熱して電気エネルギーに変えられ、大気温を下げるのだ。地球温暖化に対抗する大いなる希望となった。
エアコンの次世代機としても利用され一般家庭用にも商品開発されるようになる。従来のエアコンよりは使用に癖はあるものの、家庭の電気料金を大きく助けることができ、非常に静かな点、エコな点、割と安価な上に国から大幅に補助金が出されることも評価され、日本中、世界中に爆発的に広まった。回路とモーター部は故障など聞いた事も無いレベル。リスクもほぼほぼなく、100年200年と続けても作動し続けるのではないか?と言われている。
教授はノーベル賞を受賞したものの、北欧で行われた授賞式の日には日本で病床にあり、そのまま間もなくこの世を去ってしまう。人類の有史以来で最高の発明と誰もが認め、「motor for goods」と呼ばれ人類初の永久機関商品として世界中に設置されていったのだ。
…
ここはとある銀河の話。地球の属する天の川銀河から13億光年離れているたまたま日本語がそのまま通じて、動植物の生態以外は日本とほぼ同じである惑星の話。この星も地球の人類と同様に空を見上げ各種の天体観測は盛んに行われている。
小学校6年の先生が生徒達に言う。
「夏休みの自由研究は皆出してくれましたね。お疲れ様でした~。その中で先生が一番良かったと思う自由研究を教室の後ろに貼っておきま~す。エマちゃんの『宇宙にある不思議な星』って研究は校長も教頭も褒めてたわよ。皆も見てね~!」
エマちゃんは宇宙にある不思議な星に関しての情報をまとめて自由研究としたようだった。
・150億光年先にある直径5億5千万光年の天体の話。
↳ ~~~
・銀河の中心にある超巨大ブラックホールの重さの話。
↳ ~~~
・そして天の川銀河にある絶対零度の星の話。
↳この天の川銀河にある絶対零度の星。太陽系に属す惑星であり、
太陽(恒星)から距離が近い順に。( )内は平均気温。
水星(180℃)、
金星(460℃)、
地球(-273℃)、
火星(-70℃)、
木星(-120℃)……と続く。
位置関係からもこの地球という惑星だけ温度が異常である。エネルギーの全てが停止しているような星であるはずだが1年の内3か月程は大放電が見られ、宇宙空間にまで及ぶ超高密度の雷群が見られる不思議な星。
エマちゃんが買ってもらった天体望遠鏡で覗いて不思議だと思った地球という星。
その光景は光の速さで13億年もかかる遠距離。
13億年以上も過去に全てが凍り付いた地球という星で何があったのかを、
他の文明によって解明される日は今後来るのであろうか。