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劣等超能学級  作者: 冬城レイ
第二章「能力テスト編」
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第八話「支配領域を越えて」

結界内に響く自分の息づかいが、異様なほど重く感じられた。


肩口から流れる血が訓練着を濡らし、張り巡らされた術式の光が、まるで死刑宣告のように足元を照らしていた。

……終わりじゃない。

俺はまだ――生きてる。


「お前に壊されるほど、ヤワじゃねぇんだよ」


俺は、理央を睨みつけながら、ゆっくりと立ち上がった。

理央の視線が細くなり、警戒の色が濃くなる。


「まだ戦えるの? 正直、そこまでとは思わなかった」

「こっちのセリフだよ……三重構成の能力持ちとはな。情報操作、未来予測、術式転写……お前、もはや戦術兵器だろ」

「言葉を並べてる間に、死ぬわよ?」


彼女が動く。空間がまた“歪む”。

しかし、もう騙されない。


俺は己の視界と直感に集中する。視覚情報は信用できない。だが“身体”は、嘘をつかない。


《予測演算・強化》

《肉体制御モード:直感補正ON》


自分の中で、戦闘用の思考ルーチンに切り替える。


全能力を封じられた今、残されているのは、“俺自身の読みと反応速度”だけ。

だが――それで十分だ。


「来いよ、理央……!」


彼女の足が、わずかに滑る。

左へ、重心が逃げた。次の瞬間、風を切ってくる“幻影”の蹴り。


「そこか!」


俺は寸前で身を低くし、蹴りを回避。

そのまま低空姿勢から突進、腹部へ膝蹴りを叩き込む――が、幻。


「くっ……!」


理央はもう“実体”を離していた。

背後――と見せかけて、斜め上。

俺は“気配”にだけ集中して、地面を蹴る。

跳躍。腕を振る。


《反応反射:水平回転》


理央の姿が見える。

だがその手に術式符が握られていた。放たれる、“再構築ナイフ”。


「喰らえっ……!」


ナイフが来る……が、

――それは、既に“見えた未来”だった。


「もう読んだ!」


俺は横回転で回避し、空中から自分のナイフを逆手に構える。


「さっきのお返しだ、理央!」


《打撃補正:重心誘導》


ナイフが理央の訓練服を裂く。

血飛沫と共に、理央が地に落ちた。

すぐに起き上がるが、口元にはうっすら血が滲む。


「……っ、速くなってる……あなた、今の状態で……!」

「感覚で読んでるだけだ。情報が封じられても、こっちは“人間”として仕上がってんだよ」


にやりと笑ってみせる。理央が初めて、わずかに表情を歪めた。


「そんな目で見られたら……本気で嫌いになれなくなるじゃない」


理央が静かに目を伏せる。そして次の瞬間――


「なら、最後までやるわ」


指先が地面を弾く。

再度、術式が光る……が――その内容は、俺の《視覚》では読めなくても、

“構造”は既に――理解している。


《情報表示:仮想構造推定》

《能力コピー・条件照合:一致》

《術式転写〈シンボル・リンク〉コピー完了》


「――ああ、もらったよ」


理央が驚愕に目を見開く。


「今、情報干渉フィールドの“外”にいた一瞬。お前の術式、読み切った」


背後の地形に、俺自身の“幻影”が立ち上がる。


術式転写シンボル・リンク。まさか、それまで――!」

「そのまさかだ」


幻影が跳躍し、理央の背後に回り込む。

同時に俺自身が、正面から突撃。


「ダブルタップ、だ」


理央はとっさにガードを固めるが――

“予測できない攻撃”が、すべてのリズムを崩す。

幻影がフェイント。俺が重心を崩す。


そして――


「終わりだ、理央ッ!」


俺の拳が彼女の腹にめり込む。

呼吸を奪われた彼女は崩れ落ち、そのまま地面に膝をつく。

演習場に、再び静寂が訪れた。

沈黙。空気が揺れるほどの、無音。


そして――


「勝者、D組・悠真」


アナウンスが響いた瞬間、ようやく周囲の空気が解けたようだった。

咲をはじめとする観戦者たちが、何かを囁き合っている。

生徒会役員の一部は驚愕し、スーツ姿の幹部らしき男たちは、まるで興味深そうに俺を“観察していた”。


――まあ、いい。俺の狙いは達成された。


“俺はここにいる”。その事実を、記録させた。


 

---

 


「……くそ、しんど……」


試合後、裏手の控室で肩を押さえながら座り込む。

理央から受けたダメージは予想以上に深い。能力使用の負荷もあって、全身が悲鳴をあげていた。

そこへ――ノックの音。


「……誰だ」


扉が開き、入ってきたのは――理央だった。

着替えを済ませ、顔にはいつもの仮面のような無表情。


「お見舞いってわけでもないけど、様子を見に来たわ」

「自分でやったくせにかよ……」

「ま、そうね」


理央は部屋の椅子に座る。

しばらく、沈黙。

だが彼女の視線は、どこか穏やかだった。


「……認めるわ。あなたは“怪物”だと思ってたけど、それ以上に“人間”だった」

「ほう、光栄だな」

「……それと、柊 天音のこと。私は個人的には――理解したつもり」


言葉の端が震える。俺は、何も言わなかった。


「あなたが彼女をどう思ってたか、それは知らない。でも……少なくとも、あの死を“意味あるもの”に変えようとしてるのは、見てて分かる」


理央が立ち上がる。


「二戦目、明日。相手は――“例のクラス外個体”。気をつけなさい」

「……ああ」


扉が閉まる。


また静けさが戻ってくる。

でも、俺の中には静寂はなかった。

血が騒ぐ。

今度は、どんな能力を、どんな手を使って“読めばいい”。

そして、どこまでこの“異能の世界”を登り詰めれば――俺は、本当に自由になれる?


「次も、勝つ」


呟いた言葉が、部屋に淡く残った。


 

――戦いは、まだ始まったばかりだ。



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