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劣等超能学級  作者: 冬城レイ
第二章「能力テスト編」
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第六話「疑い」

コンテナの中で、俺はずっと目を閉じていた。


鼓動はもう静まり返り、体の震えも、ようやく収まりつつある。

……柊 天音は、もういない。

あの目。最後の瞬間まで俺を見ていた、あの視線は――何を伝えたかったのか。

後悔だったのか、それとも、理解だったのか。

いや、もう関係ない。

彼女は“任務”で俺を殺そうとした。

そして俺は――それに抗っただけだ。


「……俺は、生きるために殺した」


そう、自分に言い聞かせる。

誰にも知られず、誰にも気づかれず、彼女は屋上から姿を消した。


あの夜、俺は能力を使って痕跡を消した。映像記録も、セキュリティもすべて改ざんした。

“情報表示”と“コピー能力”の組み合わせは、いまや俺の最大の武器だ。

天音の死は“事故”として処理された。上層部も動いているようだが、決定的な証拠は――もう無い。

そして、学校は、まるで何事もなかったかのように、次の段階へと進み始めていた。


 

---

 


翌日。


「――全校生徒に通達する」


朝のホームルームで、生徒会長・神楽坂 咲の声が響いた。


「来週から、実技試験が行われる。能力の適正評価および戦術運用の実地演習。全生徒、例外なく参加義務がある」


教室の空気が一気に緊張する。

咲の言葉には、いつも“意味”がある。表と裏、両方の。


「D組においても、今年度は“特例枠”を設ける。任意の対戦形式で、1対1の模擬戦が行われる」


視線が、一斉に俺の方へ向いた。


「……悠真、お前もだってさ」


隣で天野が肩をすくめる。


「逃げられねえな。まあ、予想はしてたけどよ」

「……ああ。俺も、やるしかない」


頭のどこかでは、分かっていた。

柊 天音がいなくなった今――次に俺を“見る”のは、生徒会そのものだ。

咲、そして理央。彼女たちが俺を試すために、仕掛けてくるのは当然の流れだった。

実技試験。それは“選別”の始まりだ。


 

---

 


放課後、理科室の裏に呼び出された。


現れたのは、咲――ではなく、神楽坂 理央だった。


「……元気そうね、悠真くん」

「何の用だ」

「ちょっと確認したいことがあって。……柊 天音の件、何か知ってる?」


一瞬、心臓が跳ねた。

だが、顔には出さない。いや、出せない。


「事故だったんだろ? そう聞いたけど」

「ええ。でも、“あなたが関わっている”という匿名報告があった」

「……誰からだ」

「それはまだ不明。でも、私はまだ疑ってるわけじゃない。ただ――天音の死の“タイミング”が都合よすぎる」

「都合……?」

「彼女がいなくなって、あなたは“自由”になった。組織からも、監視網からも。今、あなたはこの学園で最も“制御できない存在”になった」


その言葉に、俺は薄く笑った。


「制御できない? それが“危険”ってことか」

「ええ。だから、試験を通じて証明してもらう。あなたがどこまで“敵”かどうか――私たちの脅威になり得るかどうか」

「……そうか」


彼女は踵を返して去っていく。


「“殺し”に来るなら、俺も“殺される覚悟”はしておけ」


そう背中に言い放つと、理央は振り返らずに手を振った。


 

---

 


夜。


再びコンテナに戻った俺は、手のひらを見つめていた。

“殺してしまった”手。

でも今は、その手で――何かを守らなきゃいけない。


「……実技試験。悪くない機会だ」


自分の力を、知らしめる。

この学園に、自分の存在を“記録”として刻みつける。


そのための舞台だ。


俺の情報表示能力とコピー能力は、ただ“見抜く”だけじゃない。

その構造や挙動を深く解析し、再現できる。

今までコピーした能力だけでなく、実技試験で“さらなる力”を手にする可能性がある。


“異能を集め、理解し、制圧する”

それこそが、俺がこの世界で生き延びる唯一の手段。

そしてもし――


「もし、また裏切る奴が現れたら……」


俺は、その時も迷わない。


「……殺す」


そう誓って、夜の帳に目を閉じた。


 

---

 


一週間後。


実技試験の初日。

校庭には、無数の結界と監視カメラが設置され、全クラスが順番に呼ばれていく。


「D組、前へ」


俺と天野、そして数人の男子と女子が列を作って並ぶ。


「お前、初戦の相手……見たか?」


天野が肩をぶつけてくる。


「いや、まだ――」


その瞬間、モニターに映し出された名前が目に飛び込んできた。


【一戦目:悠真 vs 神楽坂 理央】


「……は?」


周囲がざわめく。

だが、俺はただ無言でその名前を見つめていた。

“この学園で最も危険な女”が、俺を試しにきた。

だが、いいだろう。

天音の死を疑うなら――

ここで、全部見せてやる。


「来いよ、理央。今の俺は――もう、誰にも縛られねえ」


始まる。


“何か”が確実に動き始めていた。

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