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劣等超能学級  作者: 冬城レイ
第一章「天音との接触〜裏切り〜殺害まで」
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第五話「偽りの天使(エンジェル)」

柊 天音が俺を裏切ったあの日から、一週間が経った。


日々が過ぎるたび、俺の中の“何か”が確実に変わっていった。

失った信頼。深く刻まれた屈辱。そして――確信。


あの女は、殺すべき存在だ。


俺を「危険因子」と呼び、自分の任務とやらで排除しようとした。

そのために、優しさの仮面を被り、信頼を偽装し、俺を騙した。

――そして今も、生徒たちの裏で、同じように“使い捨てる標的”を探している。


もう許さない。


利用されるのは終わりだ。

俺は、俺の力でこの理不尽な世界をぶち壊す。


 


その日の放課後、俺は校舎の屋上へと向かった。


「……来たわね、悠真くん」


そこにいたのは――柊 天音。


制服のまま、風に髪を揺らし、こちらを振り向く彼女は、いつもの微笑を浮かべていた。


「“呼び出した”って言ったほうが正確かしらね。あなた、どうせ来ると思ってた」


俺は一言も返さなかった。ただ黙って、ゆっくりと歩み寄る。


「……まだ怒ってるの? あれは“任務”だったって、言ったはずだけど」


その声に、俺の中で何かがカチリと音を立てて、外れた。


「任務ね。人の感情を踏みにじって、笑顔でそれを正当化するのが、お前の“仕事”かよ」


天音は、一瞬だけ黙り込む。けれど、次の瞬間、肩をすくめた。


「誤解しないで。私はあなたを処分しようとしたわけじゃない。ただ、あなたの力が――“制御不能”だと思っただけ。私だって、感情がないわけじゃないの」


「感情? それが、あの日の裏切りの言い訳か?」


俺は、ポケットから端末を取り出した。

天音がかつて俺に渡した、“セキュリティログの記録装置”。


「これ、解析したよ。中に――“俺を処分対象に指定する推薦文”が入ってた。お前の名義でな」


天音の顔から、色が消えた。


「……それは、誤解よ。あれは本来、あなたじゃなく別の生徒を――」


「まだ嘘を重ねるのか?」


俺の声が低くなる。右手が震えていた。怒りで、ではない。

“覚悟”の震えだ。


天音が一歩後ずさる。だが、それでも彼女は引かなかった。


「悠真……あなたの力は、確かに脅威。でも私は――」


「黙れ」


言葉を遮ると、俺は“能力”を発動した。


視界に、彼女の情報が浮かび上がる。


【名前】柊 天音

【能力】思念干渉マインド・インヴェーダー

【内容】視線・言葉・動作を通じ、他者の判断・思考に干渉できる。ただし、対象の精神抵抗値が一定値を超えると無効化される。


知ってた。こいつの能力は、“洗脳”に近い。

だからこそ、今まで何人もの人間を“騙して”きた。


「さよならだ、天音」


俺は、彼女の能力を――“コピー”した。

そして、それを逆用する。


「……止まれ」


たった一言。だが、マインド・インヴェーダーを完全に理解した俺の“干渉”は、彼女自身の防壁を破る。


天音の体がピタリと動きを止めた。


「信じたのが間違いだった。あんたが俺に見せた“優しさ”は、全部偽物だった」


「……違っ」


かすれた声。抵抗しようとしている。でも、もう遅い。


「さよなら、柊 天音」


俺は、ポケットから取り出したもうひとつの装置――

“能力抹消剤”。咲が俺に使おうとしたものだ。


それを、彼女の首筋に打ち込んだ。


「――っ……ぁ、か……ら、な……」


言葉にならない断末魔。

天音の能力は、一瞬で崩壊した。


次に、俺はもうひとつの能力を起動した。


“熱転写”――天野からコピーした、あの力を。

能力コピーに制限はないとわかった。


「天野の気持ち、少しは分かったよ」


俺は、彼女の足元に触れる。

コンクリートに熱を集中させ、急速加熱。


バランスを崩した天音の足元が崩れ、身体が空を切る。


「――」


叫びはなかった。最後まで、柊 天音は、俺を見ていた。


その瞳に映っていたのは――後悔か、それとも……


ドシャッ……!


下のコンクリートに叩きつけられる音が、遠く響いた。


 

---



夜。俺は、コンテナの中で独り座っていた。


手はまだ震えている。心臓は早鐘のように鳴っている。

でも、後悔は――していなかった。


「裏切られる前に、裏切るべきだった」


誰にも話さない。

誰にも信じない。

この力がある限り、俺は俺を守る。


それが、彼女から学んだ“唯一の真実”だった。







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