第五十五話「A組、男子というだけで犯罪扱い」
【A組教室:朝】
(ガララ……)
俺――一ノ瀬悠真、高校1年。
本日より、栄えある1年A組所属となりました。
……で、今。
女子生徒たちの視線が、全部。全ッ部。俺に向いてる。
歓迎ムード? そんなもん、地層の奥深くに埋まってたわ。
「……え、男子?」
「え、ほんとに? 実物……?」
「やば……生で見たの初めて……あれ、檻は?」
「担任、麻酔銃持ってないの?」
いや俺は熊か何かか? せめて“野犬”くらいにしろ!
しかも席。俺の席、なんか……
「三メートル離れて囲まれてる」
何この微妙な距離感!?「男子バリア」かよ!!
【教卓前:担任】
担任「えー、本日よりA組に男子が1名配属されまーす。一ノ瀬悠真くんです。能力持ちです」
生徒「(あー能力なかったら即除籍だったね)」
俺(即除籍ってなに!?)
【A組:ざわ……ざわ……】
女子A「男子って、まだ存在してたんだね……」
女子B「動くんだ……言葉も喋れるんだ……へぇ」
女子C「うちのペットより知能低そう」
女子D「てか、なんでここに? B組で十分でしょ?」
俺(あー……これ、いじめじゃねぇな。宗教だわ)
【背景:この世界】
現代日本。いや、能力社会日本。
能力は15歳で開花し、男女で圧倒的な格差がある。
女子:90%以上が発現。しかも強い。
男子:たった10%。大体ハズレ。あとはクソザコか暴走事故。
そして法は女に甘く、男に重い。
「男子は感情が不安定で暴走しやすい」って理由で、男子だけに監視義務や制限がある。
つまり今の俺、A組という“女子の城”に爆弾として放り込まれたモノ扱い。
【俺:能力】
情報表示(ステータス閲覧)
裏能力:能力コピー(触れた対象の能力を一時模倣)
これは家族と彼女、ルカ以外には極秘。
……あ、ちなみに妹の澪奈はA組の風紀委員。能力は『人間操作』。
姉・咲は生徒会長。能力は『絶対反射』。
母・莉奈は『超再生』。全員強すぎて国家級。
俺はただの“男子”扱い。
【昼休み:教室】
俺「……メシ、食べるか」
(バッ!)
女子全員「距離取れ!!」
女子E「男子が“食事”って……汚染されない?」
女子F「床に座って食べたら?“同じテーブル”とか無理」
俺「――ウッセェ!!こっちは人間だわ!!」
ルカ(隣)「落ち着いて。ね? この漬物食べよ? 澪奈ちゃんが作ったって」
俺「妹製かよ! 完全に“姉妹による男子飼育”じゃねえか!!」
澪奈(後方)「にーに、机に人避けの塩まいといたから安心して♡」
俺「呪術かよ!! 俺が悪霊みてーじゃん!!」
【その日の授業:体育】
女子教師「男子は危険だから見学で~す」
俺「……なんで?」
教師「男子の“筋力暴走”で女子がケガした事例あるのよ。あと汗が不快だから」
俺「いや全男子が核兵器じゃねぇから!!」
ルカ「それでも何も言えないのが、この国の“ルール”なんだよね……」
【放課後:職員室】
悠真「なあ先生、マジで俺だけこの扱いって不平等すぎん?」
教師「男子って、いつも“被害者ぶる”よね?」
悠真「は??」
教師「女子の能力が高いのは“進化”で、男子が落ちてるのは“淘汰”。わかる?」
悠真「何その“生き残ったのが正義”理論……」
教師「そうよ? だからA組の女子は、あなたの存在そのものに不快感を覚えてるの。理解しなさい」
【通話:咲(姉)】
咲「どう? A組楽しい?」
悠真「コンクリの上に正座させられてるレベルの苦行だわ」
咲「よかった♡ 男子の社会適応力を試すにはうってつけの場所よね~」
悠真「お前が推薦書に“コミカルフォント”使ってなけりゃ信じたかもな!!」
【帰り道】
悠真(心の声)
――結局、俺は“存在そのもの”が罪な立場。
能力があろうが、家柄がどうだろうが、男ってだけで、信用されない。
優しくされれば裏がある。好意には罠がある。
でも――俺は、あきらめない。
一ノ瀬家の男として。
そして、ルカと澪奈、家族の誇りを胸に――このクソみたいな現実を、ぶち壊すまで。