第五十三話「リアウィング」
【地下ガレージ:深夜】
(ヴゥゥウウ……)
Z-REVOLVER Phase.IIが静かにエンジンを唸らせる。
こいつはもう、ただの“乗り物”じゃない――家族を乗せ、地獄から加速する希望そのものだ。
でも、まだ足りない。
俺「ハンドリングがな……まだ甘い」
ルカ「えっ、これ以上どこに不満あんの……?」
俺「ギア24速にしただろ? ハンドルも強化しないと、カーブで曲がれずに“未来”へ突っ込む可能性がある」
ルカ「いやそれもう車じゃなくて時空戦闘機だよね!?」
【作業台】
(ガチャリ、キィィィ……)
俺は手元の設計図を見ながら、次なる改修に取りかかる。
俺「まず、ハンドリングアシスト機能を追加する。操作力をAIが補正して、超高速でもぬるっと曲がるようにする。あと、メーターも改修だ」
ルカ「……ぬるっと?」
俺「うん、ぬるっと」
(タブレットに表示された設計図には“ニュルンッ補正”と書かれている)
ルカ「……名前からして不安なんだけど?」
俺「だが安心しろ、このAIには《咲モード》《澪奈モード》《ルカモード》の3段階補正機能がある」
ルカ「待って!?私も組み込まれてるの!?」
俺「《咲モード》は強制自爆回避。《澪奈モード》は温度管理付き運転。《ルカモード》は……ツッコミ強化」
ルカ「車がボケたら私がツッコむの!?斬新すぎる!!」
【メーター改造】
次はメーター。既存の表示じゃ24速MTに対応できない。
なので、俺は手製のLEDリングを設計。ギアを変えるたび、メーターの中心にあるインジケーターが発光し、回転数とギア段数が視覚的に連動するようにした。
俺「これぞ“ギアが光るクルマ”……!」
ルカ「厨二病の極みだな……。てか12速あたりで眩しすぎて前見えなくなりそうなんだけど?」
俺「だから“目を閉じても走れる補助AI”も搭載してる」
ルカ「いよいよ何がしたいんだお前!?」
【翼制作】
そして、今回最大の目玉――Z-REVOLVER用リアウィングの製作。
空気抵抗を抑え、接地圧を高め、ハイギア帯でも安定して走行可能にするパーツだ。
俺「問題は素材だ……市販品なんか使えねぇ。だからこれを使う」
(ガサッ)
ルカ「これ……パラボラアンテナじゃん!?ご近所の!?」
俺「貰ったんだよ。“N◯Kもう映さないから好きにしていいよ”って言ってたし」
ルカ「それ“契約しない”って意味でしょ!?翼にしちゃダメだろそれ!!」
(しかしパラボラアンテナを加工してウィング化。エアダクトと合成することで、逆流気流を逃がす構造に変換)
俺「仕上げは……このロゴ」
(Z-REVOLVERのリアに“FREEDOM RUNNER”の文字が浮かび上がる)
ルカ「え、なんで急に厨二タイトル……?」
俺「これはただの車じゃない。“自由を乗せて走る器”だ。俺の名前なんかいらねぇ。走る理由があれば、それでいい」
【翌朝:出発準備】
咲「えっ、今日それで登校すんの? 法律的にギリギリアウトじゃない?」
俺「いや、ギリ“セーフ”だ。ブレーキランプつけたから」
澪奈「にーにー、お願いだから捕まる前に帰ってきてね♡」
ルカ「助手席チェック完了! てかこのメーター、夜に走ったら宇宙船っぽくない!?」
俺「宇宙も逃げ場になるかもしれんからな……」
咲「お前、もう地球捨てる気じゃん」
【Z-REVOLVER Phase.II 起動】
ヴゥゥゥン……ギュゥゥン!
Z-REVOLVER Phase.IIが、朝日を浴びて唸る。LEDギアメーターが1→2→3と点灯し、ハンドルが僅かに自動補正を始めた。
俺「この街に希望は少ねぇ。だけど……」
(ギアをさらに上げていく)
俺「俺たちには、逃げ切るだけのギアがある!」
ルカ「そして私は、助手席でブレーキを叫ぶだけの肺活量がある!!」
(爆音を響かせ、Z-REVOLVER Phase.IIは校門へ向かって加速する――その速度、光より早く、教師の怒鳴り声より鋭く)
【ナレーション:俺】
――俺が走るのは、未来から逃げるためじゃない。
絶望という名の渋滞を、アクセルでぶち破るためだ。
ハンドルの先にあるのは、俺たちの“生き場所”。