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劣等超能学級  作者: 冬城レイ
第一章「天音との接触〜裏切り〜殺害まで」
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第四話「信頼という罠」

数日が経った。


柊 天音との“接触”以来、俺の日常は再び静かさを取り戻したように見えた。

もちろん、それは表面だけの話だ。

咲も澪奈も、そして理央も――俺を完全にマークしている。

放課後に呼び出されたのはあの日だけだったが、視線はより鋭く、無言の“監視”は明らかに強まっていた。

それでも、まだ表立って動いてこないのは、おそらく天音の介入のせいだ。

咲たちですら無視できない“裏の存在”。柊 天音はそれほどの影響力を持っているのだろう。

そして、そんな彼女が、俺に“協力”を求めた。


「この学校で近いうちに“何か”が起こる――その時、君の力が必要になる」


その言葉を、俺はずっと頭の片隅に置いていた。

警戒しながらも、どこかで――信じたかった。

初めて、俺を“利用”以外の目的で見た人間。

たとえそれが建前だったとしても、その一瞬の優しさに……救われたかった。

だが――それこそが、最大の過ちだった。

 


---



放課後。


天音に呼び出され、裏庭にある倉庫裏で待ち合わせた。


「急にごめんね。今日、ちょっと見せたいものがあるの」


そう言って差し出されたのは、黒く細長い端末だった。


「これは、学園のセキュリティログを解析する装置。私の“本来の任務”にはこれを使って、校内の“異常能力”を記録・保管することも含まれてる」

「……それを、なんで俺に?」

「君の力が、明らかに“異常”だから。そして、私は君に味方であることを証明したい。だから、これを渡す」


端末の中には、いくつかの映像ファイルが入っていた。

ひとつは――俺が澪奈の『人間操作』を無効化したときの映像。


「……どうしてこれを持ってる?」

「裏ルート。私たちの組織はこの学校の監視網に“第三の目”を仕込んでるから」


天音は軽く笑った。

その笑顔が、今となっては――冷たく感じる。


「見てほしいのはこっち」


別のファイルが再生される。そこには――

咲と理央が会話している映像。


《あの男、確かに危険よ。悠真……ただの男子じゃない》

《柊 天音にも気をつけなさい。あの女、政府の“下請け”とは違う動きをしてる》

《使えるうちに使って、捨てればいい》


天音が再生を止めた。


「見た通り。私は生徒会からも警戒されてる。だから――君と私は“利害”が一致してる。そう思わない?」


俺は、頷くしかなかった。

……この時点では、まだ。


 

---

 


それから、俺たちは何度か接触を重ねた。


昼休み、放課後、校舎裏――秘密のやりとり。

天音は“異常能力者”としての俺の扱いに慣れているようで、俺の質問にも丁寧に答えてくれた。

能力コピーの存在にも、ある程度確信を持っているようだった。

だが、明言はしない。俺も同じだった。

お互いに“詰めきらない距離”を保ちながら、協力という名の信頼を積み上げていく。

ある日、彼女が言った。


「近いうちに“能力テスト”がある。形式的なものだけど……裏では“選別”が行われる」

「選別?」

「D組の中から、“処分対象”を選ぶらしい。能力が無い、もしくは危険な男子を……“実験体”として」


その言葉に、俺は背筋が凍った。


天音は、続けた。


「でも、私が中から情報を操作すれば、君は外される。“私の推薦”という形でね」

「……代わりに?」


「君の力を、正式に貸してほしい。特定の“異能保持者”への干渉。その人の能力を、一時的に“無効化”してほしい」

「……誰に?」


天音は、ある少女の名前を出した。


「神楽坂 理央よ」


 

---



それが罠だと気づいたのは――当日だった。


 

能力テストの日。形式的に全生徒が対象で、A組からD組まで一斉に行われる。

だが、俺には“別室”が用意されていた。

天音曰く、特例だと。

白い部屋、無機質な空間。

その中央に、彼女はいた。

柊 天音。

だが、その隣に――もう一人の女がいた。


「……咲」


姉・咲が、腕を組んでこちらを見ていた。


「やっぱりね。“能力テスト”を名目にすれば、あなたは来ると思ってた」


俺は、後ずさった。


「……どういうことだ」


天音は微笑んだ。あの、いつもの柔らかい笑みで。


「ごめんね、悠真くん。私、あなたに興味があったの。本当に」


「……っ」


「でも、私は“任務”を優先するの。“能力異常者”を発見・確保し、上層部に報告する。それが私の存在意義」


咲が近づく。


「天音は、私たちとは違う組織に属してる。でも、目的は同じ。“危険因子”の排除よ」

「……騙してたのか、最初から」

「最初は“観察”のつもりだった。でも、やっぱりあなたは危険すぎた」


天音の目が、一瞬だけ揺れた。だが、それでも――その視線に迷いはなかった。

咲が手を上げると、数人の女子生徒たちが入ってきた。

全員、拘束装置を持っている。特製の“能力封じ”装置だ。


「あなたは今から、正式に“異能監視対象”として隔離される」


俺は――動けなかった。

全身が硬直していた。

騙された。

たった一人、信じた人間に。

俺は――やっぱり“孤独”だった。


 

---

 


「……やめろ」


その声は、俺の口から出たものじゃなかった。

部屋の扉が開き、入ってきたのは――天野だった。


「悠真は、危険じゃねえ。お前らが勝手に決めてんだろうが」


咲が睨む。


「あなた、何を――」

「うるせえ! 男子をモルモットみたいに扱いやがって、俺はもう我慢できねえんだよ!」


天野の目が赤く光る。

“熱転写”。彼の能力だ。

彼は俺の拘束装置を焼き切った。

熱転写は決して強い力じゃないが、ここでは役に立った。


「走れ! 悠真!!」


俺は――その手を掴んだ。

そして、逃げた。

走った。誰も信じられないこの学園で、唯一“信じてくれた”友の背中を追って。


 

---

 


コンテナに戻った夜。


肩で息をしながら、俺は拳を握りしめていた。


「……ありがとう、天野」

「ああ。けど、次はねえからな。もうこれ以上、隠し事すんなよ」

「……ああ」


俺は、心に刻む。

もう、誰も簡単に信じない。

柊 天音は“敵”だった。でも、それ以上に――俺が“弱さ”を捨てきれていなかった。

利用され、裏切られ、傷ついて――それでも。

この力は、俺だけのものだ。

奪われないために。

俺は、立ち向かう。

この腐った世界に――逆らってやる。

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