第四十二話「合法な諜報活動」
B組に来て、二日目。
俺はすでに三回死にかけている。
一回目:着席しようとしたら椅子に無数の針。
二回目:下駄箱に時限式水爆(おそらく模型)が仕込まれていた。
三回目:給食に“なんか青く光る何か”が入っていた。怖すぎる。
そして共通するのは、犯人の気配が一切ないこと。
B組の女子たちは、誰一人としてそんなことをした素振りを見せない。全員、武装と気品を併せ持った《処刑人》のような存在。つまり、今の俺は――敵の巣に放り込まれたネズミ状態。
しかも担任。
「ふーん。男子ねぇ……まぁ、せいぜい見せてくれるんでしょうねぇ?“お手並み”」
担任の名前は黒瀬 真理。「個人の思想には干渉しません」と言いつつ、明らかに男子への敵意全開。態度がチョモランマの天辺。
「男子がこのクラスにいるとか、私の指導歴でも初ですから。観察対象としては興味深いですねぇ?」
観察対象。哺乳類か。
放課後。俺は妹を召喚した。
「澪奈、今どこ?」
《家ー。え、また殺されかけた?》
「いや、未遂が三件。ちょっとお前の力、貸してくれないか」
《OK☆》
十秒後。俺の目の前に、妹がいた。
「……なんで俺の部屋に瞬間移動してんだよ」
「リモート召喚ONにしといた。兄の緊急信号で自動発動」
「設定変えとけ!!」
うちの妹――一ノ瀬 澪奈。
能力:人間操作。対象の意思を操作するチート性能。副作用でテンションがおかしい。
「誰に何すればいい? 理央を猫にするとか?」
「まだ殺すな。ちょっと抑止力が欲しいだけだ」
「猫モードセーフティON了解。じゃ、適当に一人操作するね~」
妹は廊下で偶然通りがかった女子に視線を向け、指をカチッと鳴らした。
「お兄ちゃんLOVEモードで」
「やめろバカァ!!」
数秒後、知らないB組の女子が俺の教室に入ってきて、
「一ノ瀬くん! お茶持ってきたよっ♡」
教室が凍りついた。
「……ねぇ、澪奈? これ、操作というか公開処刑に近くね?」
「だって恋する乙女って怖いじゃん?」
こいつ、怖えぇぇぇぇ。
帰宅。俺はバイクで風を切る。
《NSF-Ω》。
俺が組んだ究極バイク。スピード違反?知らん、宇宙まで走れるマシンだぞ?(※走れない)
青い衝撃波を撒き散らしながら、俺は住宅街を軽快に突っ切る。
「どけどけぇぇぇえええッ!!!」
エンジン:V12ターボ。加速:時速0→100km/hが0.6秒。
……こんなバイク乗ってる高校生、どう考えても異常者。
家に到着。俺の秘密基地:自作スパコン部屋
ドアを開けると、30台のモニターが並ぶ暗い部屋。自作のスパコン《Ω-Eye》が中央で起動している。
「起動完了。データリンク接続……完了。ネットワーク遮断解除」
壁一面に設置されたカメラ映像が表示されていく。
これは、街中の防犯カメラ映像を合法的に解析・収集するシステム。
※ちゃんと自治体と契約済。うちは合法だぞ(ギリ)。
「……B組の奴ら、何か弱みねぇかな」
俺は映像の中から、クラスメイトの情報を抽出していく。
・毎日自販機の前で一人踊ってるやつ
・校舎裏でカラスに説教してるやつ
・深夜の学校で一人ラップバトルしてるやつ
「……なにこの学校?」
変人しかいねぇ。
でも、掴めた。全員に“人には言えない趣味”がある。
「これで対等……いや、ギリギリで並べる程度か」
俺は吐息を吐き、背もたれに体を預けた。
深夜2時。妹が突然シーサーモードに入る。
「兄ちゃーん! 敵襲だぞォ!」
「は!?何が!」
部屋に突入してきた妹は、いつものゆるふわモードではない。髪は逆立ち、目が光り、顔が――
「……沖縄の置物じゃねぇか」
「シーサーだよ! 正式名称“怒髪天烈守護神”!」
怒りの感情で自動的に発動する“破壊モード”。
ちなみにこの状態の澪奈は、コンロを睨むだけで着火させることができる。嘘みたいな話だが、マジ。
「敵って誰だよ!」
「バイクにGPSタグつけてた奴がいた。たぶんB組の誰か!」
「マジか……」
俺は一瞬で冷静になり、《Ω-Eye》のGPSモニターを確認。
「……位置データ、漏れてる」
「つまり、スパイがいるってことだよねぇ?」
「そういうことだ。だが――」
俺はモニターの一つを指差す。
「特定完了。次に動いたら逆に“消す”。」
決意
B組で俺は“男子”というだけで嫌われる。
担任すら味方じゃない。
でも、妹の支援、情報収集能力、そして――俺の**能力『コピー』**がある限り。
「……俺は、ここで勝ち残る」
画面に映る、神楽坂理央の顔。
あいつは化け物だ。でも――壊れないと証明するのが、俺の反抗。