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劣等超能学級  作者: 冬城レイ
第五章「バイク(ギャグ編)」
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第四十話「中国本土走りますね」

二時間。次のレースまで、たったの二時間。


 俺は《NSF-Ω(オメガ)》を見つめていた。

 地球超速戦バベルループを完走したこのマシンは、正直、今にも壊れそうだった。

 外装はボロボロ、タイヤはほぼ溶け、フレームは熱変形を起こしている。エンジンは量子化の副作用で、たまに時空のノイズが漏れている。


「こりゃあ、整備ってレベルじゃねぇな……」


 そんな俺の肩を、誰かがぽんと叩いた。


「任せな、弟。姉がやってやらぁ」


 咲だった。

 目の下にクマを作り、既に三つくらい衛星を墜落させたような顔で笑っている。


「何したの!?」

「衛星軌道から資材降ろしたら衛星ごと落ちた☆」

「その☆じゃねぇよ!地球に優しくないな!」


 その間に、澪奈がヘリから爆弾を降ろしてきた。


「兄貴ー!この爆薬でボディ吹っ飛ばして、フレームから再構築しよう!」

「いや、もっと工学的なアプローチしようよ!?」


 ルカは手元のタブレットで、エネルギーリアクターの再設計を行っていた。


「今回は本気。エネルギー効率30倍、人格AIにはメンタルサポート追加、マフラーは六本出し!」


「いやマフラー多くね!?」


 そして母。


「バイクの魂には、やっぱり愛情よ!」

 そう言って渡されたのは――


「……煮物?」


「うん、バイクの燃料口に入れてあげて♡」


「絶対やだ」


 結局、家族総出で《NSF-Ω》は再構築された。


 ボディは超高分子合金の流体金属へ。

 パネルは空力可変式。タービンには超電磁ブースト。

 マフラーは左右3本ずつ計6本、最大時には炎が交互に交錯するように噴射する。

 そしてAIネコナビには新たなモジュールが加わった。


《ネコナビ:♡メンタルケアモード搭載♡マスター、心が荒れたら撫でてニャ♡》

「言ってて悲しくならない!?」


 整備が完了したのは、スタート30分前。


◆【スタート:万里のゲート】


 場所は――中国。


 広大な大地に、コースが浮かび上がる。

 天安門、長江、黄土高原、チベット、桂林、そして万里の長城。

 すべてが一本の道で繋がる。


「もうこれ、レースっていうか歴史観光だろ……」


 しかし、敵も手強い。


 中華四千年の力を結集した"兵馬俑ライダー"。

 高級電動チャリに乗る"白髪仙人系女子高生"。

 アヒル型水上バイクに乗る"謎の将軍"。


 そして再び現れた――農家の爺さん。


「たんぼ一号Mk-2。飛行モード付きじゃ」


「何で進化してんだよ!!」


◆【ローンチ:地鳴り】


 スタートの合図は――鳴り響くドラの音だった。


《ネコナビ:♡ローンチモード、起動♡》


 バイクが低く唸る。

 エンジンが赤く発光し、車体が地面を軋ませる。


「行くぜ、《Ω》!!!」


 ――ズギャァァアアアアアアッ!!


 六本のマフラーから爆炎が吹き上がり、俺は一瞬で視界から消えた。


 速度、1000km/h、2000km/h、3000km/h。


 《Ω》が地形に合わせて変形していく。

 山間部では低空飛行、都市部では垂直登坂、平原では地面ごと持ち上げながら疾走する。


◆【中盤:万里の混沌】


 万里の長城。


 そこは、もはや戦場だった。


 剣を構える兵馬俑。

 空から奇襲してくる紙鳶ライダー。

 壁面を駆け上がるチーズ屋の派生型《豆腐マスター》が襲いかかる。


「ブレーキどこ行ったああああ!!」


《ネコナビ:♡メンタルケア:深呼吸して♡》

「深呼吸してもぶつかるんだよ!!」


 だが、俺は止まらなかった。


「走る……走るって決めたからだ!!」


 エネルギーが限界を超え、ボディが金色に輝く。

 Ωの魂が、咆哮する。


◆【終盤:光速の地平】


 ラストセクションは、チベット高原から黄海へと抜ける一本道。


 澪奈が空から叫ぶ。

「兄貴ぃ!!ファイナルギア、差し込めェェ!!」


 14速目。音速を超え、光速に迫る。


 視界が反転し、時間が歪む。


《ネコナビ:♡もうこれレースじゃないニャ♡》


「俺もそう思ってる!!」


 そして――最後の直線。


 またしても横にいたのは、農家の爺さんだった。


「若造。農業の力、舐めるでねぇぞ」


 たんぼ一号Mk-2が羽を広げ、空を切り裂く。


「何で俺、毎回軽トラと戦ってんの!?」


 だが、Ωが叫んだ。


《ネコナビ:♡魂、リンク♡》


 Ωと俺が完全に同期。

 意志と速度が一致した瞬間、空間が砕けた。


 ――ゴール。


◆【ゴール後:風の向こう】


 目の前には、終わりのない地平。


「走ったな……」


 そして、主催者がまた笑う。


「おめでとうございます。」


 そして家族全員で叫ぶ。


「ブレイクダンス!!!」

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