第三十五話「V6バイク」
休校になって二週間。
家の復旧も終わり、スパコン“YUMAverse”は家族にフル活用され、俺はふと一つの真理に気づいた。
──俺、動いてなくね?
地下に引きこもってコード書いてばっか。スパコンが全部やってくれるから、最近は筋肉どころか骨までサボってる気がする。
「そうだ。バイクだ」
なぜか突然、そう閃いた。
人は旅に出る生き物。ロマンはいつも風に乗る。
ならば俺も──風になるべきだろう!!
「よし……作るぞ、最強のバイクを!!」
◆
まず、エンジン。
既製品? 却下。
V型6気筒エンジンを、自分で削り出す。カムシャフトもピストンもコンロッドも自作。削るたび火花が散り、母が台所から怒鳴ってくる。
「悠真ー! アルミ削るなら換気扇つけなさーい!!」
すまん母さん、排気効率を追い求めてたら忘れてた。
次、モーター。
最大出力300km/h。サブ電源としてリチウム空間圧縮電池を実装。物理法則には、だいたい喧嘩売ってる。
「これ、電動なの? ガソリンなの?」
「両方だ。あと魔力対応」
「意味わかんない!!」
おまけに、AIナビも当然搭載。声は、ネコ耳ボイス仕様。
《右折します♡……え?まだまっすぐ? ふーん、じゃあ左に曲がっちゃおっかな♪》
「うるせえ!!GPSに反抗すんな!!」
◆
バイクのフレームは、チタン合金とルカの謎3Dプリント技術で製作。
カラーは“深紺”──夜を切り裂く狼の色。
マフラーは特注低音型。エンジンをかけた瞬間、近所の窓が震える。
タコメーターはアナログ+ホログラム。
燃料ゲージには意味なく炎エフェクトが出る。
「バイクってか、もはや戦艦だな」
「失礼な。これは愛だ」
◆
そして完成──
全長3メートル、横幅90cm。
排気音は「ゴオォォオオオ!!」というより「ガァオォオオオ!!」に近い。
名前は《NSF-∞(ナイトストームファング・インフィニティ)》
通称、“走る棺桶”。
……というわけで、家族にも試乗させてみた。
◆【母・莉奈の試乗】
「……これ、車道走っていいの?」
「任意保険には入ってる」
「いやそういう問題じゃない」
乗った瞬間、あまりの加速に街一個飛び越えた。戻ってきたときのセリフがこちら。
「すっごく楽しかった!でもブレーキ利かなくてパン屋三軒潰したわ!」
被害は後で弁償した。
◆【妹・澪奈の試乗】
「うわ~これ超強そう!かっこいいー!」
笑顔でまたがると、神獣モードに突入。
「ドラグニル、乗る!!」
「それはペガサスじゃねぇ!!」
そのまま飛び上がり、国道から空へ飛び出した。
降りてきた時には背中に金の羽が生えてた。
能力使いすぎて、空間にヒビ入ってる。地球が心配。
◆【姉・咲の試乗】
「ふぅん、なかなかいいバイクじゃん。……でも遅いな」
「お前の基準おかしくね!?」
最初は普通に走ってたが、5秒後にはスタント走行始めた。
「見てこれー!片輪走行ーー!」
「やめろ死ぬぞ!てか後輪片方しかついてねぇよな!?」
姉はそのまま一回転して無事着地。
道路がクレーターになった。修復中。
◆【俺・悠真の試乗】
「さぁて、俺も本気出すか」
スパコンYUMAverseの自動走行制御をONにし、ヘッドセット装着。
アシスト機能と連携して、俺の視界にルート、交通情報、気圧、そして妹の機嫌まで表示される。
《澪奈のストレス値:7%(チョコで回復可)》
《母:やや怒り気味(風呂掃除サボった)》
《姉:圧倒的上機嫌(最近何か爆破した)》
スロットルを捻る。
ゴォォォォォォォ!!!!
風が、世界が、音速で流れていく。
体が、魂が、空とひとつになる。
それはまさに“生”の実感。全能感。地球最速の浪漫。
──これが、俺の作った《NSF-∞》。
夢と技術と狂気の結晶。走る爆弾。泣く整備士。
◆
夜。
「……最高だったな」
「でしょ?」
ルカが満面の笑みで隣に座る。
「でも、次はもっと速いのが欲しいよね。宇宙行くとか?」
「いやそれはさすがに──」
《次のプロジェクトを提案します。名前は“LUNAR BLADE”──月面走行対応型。》
「やっぱAI暴走してるじゃんかああああああ!!!」
◆
──こうして。
俺のバイクは完成した。
家族は元気。家は揺れる。地面は割れる。
でもまあ、それが“俺たち”の日常だ。
《次は、地底帝国とレースしませんか?♡》
「やめてくれマジで!!」