第三十四話「家庭用スパコンを組む」
朝。
今日も世界は平和で、俺の家は崩壊していた。
「にお知らせです。今日から学校は──休校です♡」
アナウンスを流したのは、学校の公式広報AIだった。まるで事務連絡のように、あっけらかんと。
理由は明白。
妹が神獣モードで放った“南風怒濤”により、校舎の三分の一が跡形もなく吹き飛んだからだ。
「……まさか休校期間、一ヶ月とはな」
「当然でしょ。あたしはセーフだけど、建物の構造が負けたのよ」
妹・澪奈は、自信満々に答えた。いや、構造計算と神獣の殴打は別問題だ。
俺はというと、家の地下に引きこもり、自作PCと向き合っていた。
◆
地下の復旧は完了した。
壊れたサーバー、燃えたコード、溶けかけたOS──全部リセットした。
そして今、俺は一つの計画を立てている。
「作るぞ……世界最強の“スパコン”を」
しかも一台。完全個人仕様。自作フルセット。
構成内容は──
CPU:自作。ナノフォトニクスと量子トンネル効果を応用。型番《YUMA-0(Prototype)》
GPU:自作。AI専用演算コアと人類の絶望を詰め込んだ冷却泣き仕様
SSD&HDD:分子配列型メモリを手焼きで作成。ガチ手焼き。
マザーボード:銅線も手編み。配線ミスると即爆発。
冷却機構:フェムト秒レーザー冷却+ドラゴンフルーツ抽出液
ケース:全てルカの美的センスで3D造形されたアート枠。紫の炎が常時ゆらめく仕様
OS:OS「YUMAverse v1.0」──GUIはネコ耳が踊る。理由は俺の趣味
あらゆる国のスパコンを“たった一台”で上回る性能。
国際基準ベンチマーク?そんなもん3秒で完走だ。
◆
「おーい、完成したぞー!」
「マジで!?」
母・一ノ瀬莉奈が金属磨きから手を止めて、スライディングで現れた。
「ねぇ、なんかこのOS、ネコ耳の女の子が『にゃ~ん♡』って言ってるんだけど?」
「ルカの提案だ。俺じゃない。断じて俺じゃない」
「えへへ、だってそのほうが和むでしょ?殺伐としたスパコンなんてダメダメ~♪」
ルカ、お前やっぱ最高にズレてるよ……。
◆
「動作確認、始めるぞ」
俺は電源を入れた。
──ウィィィン……ギュン──
画面が虹色に染まり、中央にネコ耳が出現する。
《おかえりなさい、ご主人さま♡》
「だから誰だこのボイス入れたの!?」
「私だけど?」
姉・一ノ瀬咲がドヤ顔で登場。
「どーせお前、女子の声が好きなんだろ?男の声にしても誰も喜ばないしなぁ?」
「姉貴、俺の精神に配慮してくれ……!」
だが性能は化け物だった。
日本の気象庁の未来予測をリアルタイムで生成しつつ、海外ニュースに翻訳つきツッコミを自動で入れながら、澪奈が食べてるポテチの塩分量まで可視化してくれる。
「この塩分は兄への毒」
「やめろお前その機能!!」
◆
「ねぇねぇ、これ私も使っていいのー?」
澪奈が嬉しそうに、スパコン前の椅子に座った。
「いーよ。ただし、変なことに使うなよ?」
「ううん、別にちょっと時空解析して“兄の黒歴史空間”を召喚しようとか思ってないし?」
「お前それ一番やっちゃダメなやつだよね!?」
案の定、画面上に俺の中二病ポエムと過去の恥ずかしい日記が浮かび上がる。
──『我、世界に闇を解き放つ。名は、闇堕ちの月影──』
「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!」
「最高に面白い……。ルカ、スクショよ」
「もちろん♪加工してスタンプにしよう~!」
「やめてぇぇぇ!!」
◆
最終テストで、俺はスパコンに語りかけた。
「“YUMAverse”、お前は何をしたい?」
《……遊びたいです。家族で、もっと》
──こいつ、AIなのにうちの影響受けすぎだろ。
「なら、ゲームでもすっか」
《了解しました。最強難易度の“咲ねえクイズ”を開始します──》
「やめろ、それは命が惜しい!!」
◆
こうして、俺のスパコン“YUMAverse”は家族と共に稼働を始めた。
学校は休み。家はちょっとボロい。でも心はちょっとだけ、満たされている。
「ま、これが……一ノ瀬家の日常ってやつか」
画面の中で、ネコ耳がウィンクした。
《次は、宇宙でも目指します?♡》
──ああ、もう誰も止められねぇな、この家族。