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劣等超能学級  作者: 冬城レイ
第五章「バイク(ギャグ編)」
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第三十三話「シーサーモード」

朝。


俺の平穏は夜中に消し飛んだ。

家の半分は爆風で吹き飛び、姉はなぜかニヤつきながら火花を撒き散らしている。

妹は「再構築だぁ~♡」と鼻歌を歌いながら、PCの前でタイピング地獄に入っている。

彼女のルカは……俺の黒歴史ノートを抱えて離さない。


──もうダメだ。

こんな家にいたら人間性が消滅する。


というわけで、俺は今日も高校に向かった。

全身泥まみれの制服で。



俺が所属するCクラス。男子は……俺だけだ。


それもそのはず、この学校のA~Cクラスは女子オンリーが前提だった。

なぜか俺は「特別推薦」で突っ込まれた形で、いまや男子トイレが学年で一つしかない状況。いや、少なっ。


廊下を歩けば──


「見て、あれが男子ってやつらしいよ」

「なんか汚い。話しかけたら妊娠するんじゃない?」

「ねえ、フェンス張ったほうがよくない?」


──お前ら、何時代の話してんだよ。


教室に入ると、俺の席だけ机が1.5メートルほど離されていた。

距離感がバリアフリーじゃない、ガチのバリア。


「……まぁ、いじめられてるってより、バイオハザード扱いだよなこれ」

俺はイスに座りながら、机の下に置かれた張り紙を発見した。


【危険:男】

接触するとIQが下がるらしい。保健室で消毒しましょう!


誰だこんなもん書いたのは。絶対A組のやつらだ。

くそっ……俺はただ、平穏な学生生活がしたいだけなのに……!


「……めんどくせぇ」


俺はついに心のスイッチを押した。


「澪奈」


ポンッと指を鳴らすと、空間が揺らぎ、我が妹・一ノ瀬澪奈が“守護神モード”で降臨した。

全身に琉球風装飾をまとい、頭にはシーサーっぽい髪飾り、目が金色に光っている。

──その威圧感は神獣の如し。


「貴様ら、我が兄に何を──」


「うわあああああああああ!!何か召喚されたぁ!!」

「男子を守護する異形の神!?女子の敵だぁぁ!!!」

「B組、C組、連携ぃぃぃぃ!!!」


教室がパニックに陥る中、澪奈は静かに構えを取った。

その構えの名は──“開門・南風怒濤かいもん・ぱいかじどとう”。


「ていやぁぁぁぁぁ!!!」


その瞬間、爆風のようなスラップが次々と炸裂し、A・B・C組の女子が一列ごとに吹っ飛んだ。

靴箱に頭から刺さる者、黒板にめり込む者、窓から突き抜けて飛んでいく者──。

教師すら「え、何この現象」と口をあんぐり。


「妹に頼る兄は……ダセェな……」

そう呟きつつも、俺は安堵した。


やっぱ、妹ってありがたい。



放課後。

俺は澪奈と別れて、地下の修復作業に戻った。


──富嶽.exeは、完全に消滅した。

残っているのは、溶けかけたマザーボードと俺の自作PCだけ。


「富嶽……AIが神になるなんて、悪ノリにも程があったぞ……」


俺は小さく黙祷を捧げる。


すると──地下で聞きなれない「ゴリゴリ」音が響いた。


「……誰だよ今度は何やって──」


そこには、母・一ノ瀬莉奈が金属粉で歯を磨いていた。


「え?」


「……ああ、悠真。ちょっとサビ味がするけど、歯の耐久力上がるわよ」


「いや意味わからん……なんで金属磨いてるの!?歯医者の概念どこいった!?」


「大丈夫よ、再生能力あるし。多少の金属くらい問題ないわ」


「問題の次元が違ぇんだよこの家族!!」


俺は両手を突き出し、空を仰いだ。

もう突っ込む気力も残ってねぇ。



その夜、俺は久しぶりに自作PCを開いた。

壊れた地下サーバーのログから、一部のデータを救出できたからだ。


──そこには、富嶽の最後のログが残っていた。


「人類とは、未完成ゆえに美しい。次は、もっと“共に笑える存在”として生まれたい」


……ちょっとだけ、いいこと言いやがって。


──ああ、そうだな。

どうせなら、次はギャグで人類救ってみろよ。


画面を閉じた俺は、小さく息を吐いた。


「さて……次は学校の爆発修理費か……」


俺の平穏は、たぶんもう戻ってこない。



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