第三十一話「姉が来たから」
◆夜──某機関施設、裏口付近
俺は風に身を任せながら、黒ずくめのフードをかぶり、ルカと共に建物の裏手にいた。
任務はシンプルだ──この施設に潜む、違法能力者データ改竄の証拠を確保する。
誰にもバレず、誰も傷つけず。サイレント・ステルス・オペレーション。
「行けそうですか?」
ルカが小声で問いかける。
「もちろんだ。入口のセキュリティはOSで無力化済み──GOD.EXEが舐められちゃ困る」
「さすが、ご主人様♡」
「それはOSの口調な……」
カチャリとドアが開き、俺たちは音もなく中へ──のはずだった。
──バァァァァン!!!!
突如として炸裂する爆音。壁が粉砕され、煙と瓦礫の中から現れたのは──
「任務、加勢しに来たわよ、弟!!」
「いや来るなよォォォォ!!!!!」
そこにいたのは、姉──一ノ瀬咲(覚醒モード)。肩にミサイル、腰にC4。足元からは不穏なスモーク。
「え、咲さん……なにその武装……え、戦争……?」
ルカがドン引いていた。俺もだ。
「合法的に弟の彼女ぶっ壊しに来ました♡」
「台詞おかしいだろ!!!!」
◆施設内──数分後
──作戦は崩壊した。
一ノ瀬咲、予想を超える突撃。
俺の「隠密モード」は彼女の「合法暴力」によって木っ端微塵。
「やっべ、警報鳴ってる!おい咲!!お前さっき警備ロボに爆弾投げただろ!!」
「うっかり♡」
「うっかりでレーザー網ぶっ壊す奴いねぇよ!!」
ルカはというと……
「悠真くん、これは……敵のAIハッキングして逆に施設乗っ取りません?」
「え、そっちも普通にヤバない?」
──冷静すぎて怖い。
彼女、やっぱりただの巨乳ドジっ娘じゃなかった。ガチモンの戦闘ハッカーだった。
◆警備部隊、突入
「侵入者を確保──って、あれ一ノ瀬咲じゃね?」
「指名手配かかってなかったっけ?」
「いや逆に公安から派遣されたって名簿に……」
「どっちだよ!!!」
混乱する敵部隊。まさかの情報操作で、咲は“国家公認の潜入捜査官”として登録されていた。
「OS経由でデータ書き換えといた」
と、ルカ。怖い。すき。
俺は叫ぶ。
「咲! もう帰れ!!お前がいるとミッション全部バグる!!!」
「私がいなきゃルカちゃん守れないでしょ? 弟と義妹のためだもん♡」
「……ルカ、悪い。次回から潜入任務、姉ロック用の機械兵作る」
「うん、私も同意します」
──その後、咲が爆破したサーバールームで無事に証拠を回収。
逃走経路も爆破済みだったため、窓からパラシュート脱出するという最終手段を選ぶ羽目になった。
◆帰り道──屋根の上にて
「……楽しかったですね、今日」
ルカが微笑む。後ろで咲はコンビニ肉まん食ってる。
「いやおかしいだろ、任務だぞ?バチバチに違法施設だったんだぞ?」
「でも、悠真くんがいて、咲さんもいて、なんか──家族って感じで」
「どこが家族だ!!!」
「合法的妹ですし♡」
「言葉って難しいな……」
◆深夜──PC前
《今日のミッションログ:98%成功(咲を除く)》
《彼女満足度:高め(焼きまんじゅうで+補正)》
《姉干渉度:限界突破》
「はぁ……」
だが、心のどこかで思う。
──こんな混沌の中にも、確かにある“温度”。
「俺……わりと悪くない日々過ごしてるかもな」
PCが静かに光る中、俺は新たなモジュールを起動した。
《姉ロックシステムver1.0》
《未完成です。現在、姉の想定外行動率127%》
「また負けてんじゃねぇか……」
それでも明日は来る。
姉と、彼女と、自作OSを連れて──
俺は、“俺の戦場”を生きていく。