第二話「コピー」
数日後。
学校にも少しずつ慣れてきた。
慣れてきた…なんて言葉、虚しいだけだけどな。
毎日、教室に入ると女子達から睨まれる。
「D組男=役立たず」の図式が出来上がってる。
先生も、俺たちに“期待”してないのがバレバレだ。
でも、俺は無理に笑うことをやめた。
気を使ったところで、どうせ「無能男」と見なされる。
だったら、黙って耐える。
今はそれが、唯一できる抵抗だった。
昼休み。今日もフードコートは混んでた。
昨日の件があって、みんなビクビクしてる。
俺の友達――同じD組の天野ってやつが小声で言った。
「なあ、今日の昼どうする? コンビニで済ませるか?」
「……そうするか」
俺がそう言いかけたとき、突然背後から声がした。
「へえ、今日は逃げないんだ? 弟くん」
妹――澪奈だった。
A組の連中を引き連れて、こっちを見下ろしてる。
その口元に、あの嘲笑が浮かぶ。
「今日もフードコート占拠ですか?」
俺はあえて軽く返した。
でも、声は震えてたかもしれない。
「ちがうわよ。今日は“実験”しに来たの」
澪奈は、俺の肩に指を乗せた。
「『人間操作』って、どこまで効くか、ちょっと気になってて。――お兄ちゃん、私の言うこと、ちゃんと聞ける?」
……体が勝手に立ち上がった。
「!?」
「ふふ、やっぱり効くのね。“血縁”だと効果が倍増するって本当だったんだ」
心の中で、怒りと恐怖がせめぎ合っていた。
こいつ、妹だったはずなのに。
何でこんなに冷たいんだよ。
「はい、じゃあ今からフードコートの床を……雑巾がけしなさい」
「……やめろ」
「や・め・な・い。だって、“命令”だから」
また、体が動こうとする。
でも俺は、歯を食いしばった。
動くな、動くな、俺の体!
その瞬間――視界に表示された。妹の「情報」が。
【澪奈 一ノ瀬】
能力:《人間操作》
ランク:S
制限:精神抵抗値により一部無効化可
状態:能力発動中/対象:一ノ瀬 悠真
見えた。妹の“能力データ”が。
表示だけじゃない、今までとは違う感覚があった。
(……今なら、コピーできる)
俺は静かに、心の中で“引っ張った”。
まるで手を伸ばすように、情報の奥にある「力」へ。
……掴んだ。
(――これが、俺のもう一つの能力)
次の瞬間、妹の支配が“ふっ”と切れた。
「えっ? うそ……」
妹が驚いた顔をするのを、俺は初めて見た。
「命令、届かないんだけど? ちょっと、どういうこと――」
「もう、やめろ」
俺は冷たく言った。
まるで妹の言葉を“命令として”受け取っていないかのように。
「……もしかして、能力使った?」
「……さあな」
それだけ言って、俺はその場を去った。
背後で妹が何か言ってたけど、もう聞かなかった。
帰り道。
空はどんより曇っていた。
能力をコピーした瞬間、確信した。
この“裏能力”――《能力コピー》は、本当にやばい。
相手と接触し、能力の“情報”を視認できたときにだけ発動。
ただしコピーできる時間は30分。
その間、能力の性能は本人と同等。
でも……それは同時に、全能力者を敵に回せる力だ。
だからこそ、誰にも言えない。
これを知られたら――間違いなく“消される”。
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その夜、母の声が聞こえた。
「澪奈、聞いたわよ。あの子、能力に耐性があったって?」
「うん、なんか効かなかったの」
「へぇ……おかしいわね。Dランクのくせに、私の娘の能力に耐えるなんて。まさか、隠してる?」
俺は部屋のコンテナで、布団にくるまりながら震えていた。
(……バレたか? いや、まだ大丈夫)
でも、ここにいても安心はできない。
いずれ、もっと強い能力者が現れる。
もっと、踏み込まれる。
それでも、俺は――
(この力だけは、絶対に……渡さない)
拳を握った。
“奪われる”側で終わる気はない。
“奪い返す”側になる。
それが、この世界で生き残る唯一の方法だ。