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劣等超能学級  作者: 冬城レイ
第四章「Cクラス移動編」
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第二十五話「すごい」

――翌日、俺の学園生活は再び揺れ動く。


始業チャイムと同時に、教室の扉がバンッと開いた。


「はじめましてッ!! 本日よりCクラスに転入してきました! 天峰あまみねルカです! よろしくお願いしますッ!!!」


……うるさい。


教室中が軽くどよめいた。

それもそのはず、声量が完全に拡声器。あと、語尾の“ッ”が強すぎて鼓膜に刺さる。


前に出てきた彼女は、ぱっと見「ザ・健康優良女子」だった。


セミロングの黒髪をポニーテールにまとめ、身長は160cm台後半。体育会系の立ち振る舞いに、どことなく天然オーラが漂っている。


しかも――


(……でけぇ)


つい目がいってしまった。胸が主張しすぎて制服が悲鳴をあげている。


だが俺は冷静に見極めた。


(……咲には、勝てんな)


姉の圧倒的装甲には及ばない。そこだけは断言できる。


「よし、ルカさん。空いてる席に座ってくれ」


担任が促し、ルカは俺の斜め前の席にドサッと腰を下ろす。


一瞬、ちらりとこちらを見て――


「……お、お兄さんだ!」


「は?」


「え、あ、違うか! 似てた! すみませんでした!」


何がどう似てたんだ。俺はお兄さんじゃねぇ。しかもそのテンションで謝られると逆に怖い。



昼休み。


ルカは弁当箱を開けるなり、うめき声を上げた。


「うっ……うぐっ……」


「どうした?」


「おかず全部、昨日の残り物です……」


「……それ、普通じゃない?」


「違うんですぅ……昨日って、カレー三日目なんですぅ……もうルゥが固体化してるぅ……」


女子にしてはだいぶワイルドな弁当だった。

なのに、彼女は本気で泣きそうになっていた。


「まあ、栄養はあるだろ。食え」


「兄貴かよ……」


「誰に言ってんだお前」


だがそんな彼女には、もうひとつ大きな特徴がある。


――能力。


授業後の実技演習、ルカはその実力を見せつけた。


対戦相手はBクラスの推薦組。

男子であればトップ層に入る実力者、いや実力バカだ。


「……いきます!」


彼女が構えた瞬間、空気がビリビリと震えた。


次の瞬間。


――ドゴオォォォォォォォン!!


地面が砕け、模擬戦フィールドに深さ3メートルのクレーターが生まれた。


煙の中からルカがひとり立ち、相手は――埋まっていた。


(えぐ……)


能力名:《圧縮打撃クラスター・ストライク


空気を一点に圧縮し、拳や足に“重力質量”をまとわせるタイプの近接特化型異能。しかも彼女の場合、コントロール精度が異常に高い。


「やべぇ……」


「いや、あいつ何者だよ……」


周囲の女子たちも、若干引き気味。


だが、それでもルカはまっすぐこちらに近づいてきて――


「先輩! 今の、見てくれましたか!?」


「いや、なんで俺に言う?」


「なんとなく……一番褒めてくれそうなオーラだったので!」


「俺、今日一言もお前のこと褒めてないけどな」


「ツンデレタイプですね!? 大好物です!」


……こいつ、大丈夫か?



下校時。


一ノ瀬咲が俺を待っていた。例によって高圧オーラを纏っている。


「……どう? 転校生、馴染みそう?」


「ポンコツだけど、まあ能力はすげぇわ。ぶっ壊れ」


「でしょうね。実はあの子、“異能適応年齢”を過ぎても能力が発現しなかった“失格者”扱いだったの」


「え?」


「でも、16歳になって突然発現。しかも、異能協会が震えるレベルの出力。……正直、あの子が男子じゃなくて助かったわ」


「お前それ口に出していいのかよ」


「建前はともかく、現実は力で評価されるのがこの学園よ」


咲は一瞬だけ表情を曇らせる。


「……あなたにも、もっと“強さ”を見せてほしいわ。コピーした能力で戦うだけじゃない、“あなた自身の力”を」


「……それって」


「気づいてるんでしょ? あなたの“本当の能力”」


俺は黙ったまま、咲の視線を見返した。


そう。確かに気づいている。


“コピー”は、ただの副産物だ。

“表示”も、表の顔に過ぎない。


俺には――まだ、誰にも話していない「何か」がある。


それが何かは、自分でもまだはっきりしない。


けど、この学園、この時代、この戦いの中で。

きっと、見えてくる気がする。



帰宅後、俺は部屋で自作PCを起動した。


静かに唸るファンの音が、今日の喧騒を洗い流していく。


――静かで、熱くて、確かに“俺だけの空間”。


その中で、ふと画面のログに気づいた。


《未確認データ:能力情報構造に異常接続を検知しました》


「……異常?」


警告ログには、ルカとの接触後に発生したデータの断片が記録されていた。


(……まさか、ルカの能力、俺に何か影響を?)


その瞬間、背筋に冷たいものが走る。


これはただの“転校生”の登場じゃない。


――なにか、もっと大きな変化の“始まり”だ。


そして俺は、その中心に立っている。


明日からの日々が、また一段と騒がしくなりそうな予感を抱きながら――


俺は、自作PCのLEDが脈動するのを、じっと見つめていた。



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