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劣等超能学級  作者: 冬城レイ
第四章「Cクラス移動編」
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第二十二話『それでも、僕はここにいる』

朝のチャイムが鳴るよりも早く、俺は教室の前に立っていた。


久しぶりの登校。

再びこの学校に戻ってきた――ただ、それだけのことなのに、足が前に進まなかった。


廊下の窓から射し込む陽光は、以前と変わらずまっすぐで、どこまでも清々しかった。

だが俺の中にあるのは、重く淀んだ、出口のない空気だった。


意を決して扉を開けると、すでに数人の生徒が席に着いていた。


そして、その視線が一斉に、俺を刺す。


「……あいつ、戻ってきたのかよ」

「信じらんねえ。平気な顔して、よく来られるよな」

「まだ処分されてねぇんだ……」


言葉にはしなくとも、彼らの目は語っていた。

俺が「おかしな奴」だと。「危険」だと。「人間じゃない」かのように。


笑われることも、罵倒されることもなかった。

そこにあるのは、ただの沈黙と、無関心を装った明確な拒絶。


「……おはよう」


なんとかそう声をかけても、返事はない。

目を合わせる者すら、いなかった。


俺の席はまだそこにあった。誰にも奪われずに、ぽつんと空いていた。


“あえて誰も座らない”その不自然さが、逆に俺の「異質さ」を際立たせる。


「――ここ、座っていい?」


唯一、俺に話しかけたのは、理央だった。


彼女は静かに俺の隣に座り、その目で俺を見つめた。


「……なんで戻ってきたの?」


言葉に棘はなかった。ただ、まっすぐな問いだった。


「逃げたくなかったんだ。全部を。……自分自身からも」


俺はそう答えるしかなかった。どんな理屈も、言い訳も、今の俺には意味を持たない。


「……ふうん。でも、みんなそう簡単には忘れてくれないよ。“例の事件”のこと」


「わかってるよ」


あれから何度も考えた。


柊 天音を殺したあの日。

妹や姉、そして母と衝突した夜。

爆破されたVOID-COREの残骸の中で、自分の存在の意味を問い続けた日々。


――俺は、結局のところ「普通」にはなれないんだろうな。


力がある。秘密がある。

それだけで、他人は恐れ、距離を置く。

この世界は、そういう風にできてる。


「……それでも、俺はここにいるよ」


理央はしばらく黙っていたが、やがて小さく呟いた。


「……あんた、変わったね」


「そりゃ、まぁ……いろいろあったからな」


彼女は窓の外を見ながら言った。


「私は……変わらなかったかも。けど、変わらなきゃいけないって気づいたよ。あんたを見てて」


教室の空気は、どこまでも重い。

けれど、その中に一つだけ、小さな温もりが生まれたような気がした。


それが、救いだった。


昼休み、俺のロッカーに何かが入っていた。


――《消えろ》


紙切れ一枚。乱暴に走り書きされたそれは、俺をじわじわと削る。


「……くだらねぇ」


でも、悔しいことに、傷ついてる自分がいた。


そんな時、スマホが震えた。


画面を見ると、VOID-COREからのメッセージ。

《フミコver2.1アップデート完了。説教ボリューム機能追加。使用しますか?》


……思わず吹き出しそうになったが、俺は電源を切った。


今の俺に必要なのは、祖母の怒鳴り声じゃない。


自分自身の言葉だ。


放課後、校門を出ると、咲が待っていた。

あの日以来家族が差別をしなくなった。


「よ。……ちゃんと、生きて帰ってきたじゃん」


「……まぁな」


「別に迎えに来たわけじゃないけどさ、あんたが変な目で見られてるの、ちょっとムカついたから」


彼女は俺の肩を軽く殴った。


「痛っ」


「これでチャラ。……頑張りなさいよ、弟くん」


咲のその言葉が、今日一日で一番救いだった。


俺は――きっと、まだ壊れてない。


そして、まだ終わってない。


どれだけ拒絶されようとも。

どれだけ恐れられようとも。


それでも、俺はここにいる。


この場所で。

この世界で。

この、腐った高校で――


俺は、俺として、生きていく。

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