第二十一話「お急ぎ便」
その日、一ノ瀬家の文明は、正式に滅んだ。
朝からTVリモコンが意思を持ち始め、冷蔵庫が「今日のおすすめ献立」をラップ調で歌いだし、炊飯器に至っては人格を獲得していた。
『俺、今日で二代目ッス!よろしくッス!米は愛ッス!』
咲「は? なんで炊飯器が意識持ってんのよ!ていうか初代はどこ行ったのよ!?」
炊飯器(2代目)『初代は昨日、味噌汁サーバーに転職しましたァッ!!』
咲はもう一度、IQをどこかに落とした気がした。
【地下・VOID-CORE】
俺は、爆破された拠点の復旧作業をしつつ、咲のスマホに仕込んだ恋愛シミュレーション《俺、恋してもいいですか?ver1.2》の進捗を確認していた。
※選択肢が地獄。
・A:優しく微笑んで「咲しか見てない」
・B:唐突にポエムを朗読
・C:突然脱ぐ(2Dグラ)
咲「なんなのよこれぇえええええ!!!!!」
彼女はスマホを壁に投げつけ、ガラケーに戻そうとしていた。時代を逆行しすぎだ。
【地上・澪奈の部屋】
澪奈は未だ“うにゃモード”から復帰できず、語尾が“うにゃ”で完全固定されていた。
「おにい……また変なウイルス仕込んだうにゃ……絶対許さないうにゃ……」
しかも、最新アップデートで“たまに語尾がスペイン語になる”バグ付き。
「この復讐、必ず果たすうにゃ……¡mañana será tu fin!(明日が貴様の終わりにゃ)」
一ノ瀬澪奈、スペイン猫シーサー化。
俺(※兄)は、思わずその顔をスマホで撮った。
パシャリ。
俺「……これは送らねばなるまい。伝統の継承者たるあの人に……!」
すぐさま《クロネ◯ヤマト・お急ぎ便》アプリを起動。沖縄に住む、謎の力を持つ親戚“タケル叔父”へ「件名:新種発見」「本文:シーサー妹が爆誕しました」+添付画像で配送。
その三十分後──
《返信:これは……伝説の“ネコシーサー”…ッ!?明日、琉球より伺います》
俺「ちょ、待っ……おい、まさか来るのか!?飛んで来るのか!?しかもはえぇ!!」
【地上・母・莉奈】
湿度が戻りすぎて、母・莉奈は今や“カビとの融合体”と化していた。
「私は湿度の申し子……人呼んで、《モルディ・マザー》……」
咲「母さん、菌類とバディ組むのやめて!?免疫が無理!!」
「もはや加湿器では満たされないのよ……除湿機も、浄化されなければならない……!」
彼女の足元から立ち上る胞子により、壁紙が自己繁殖を始めていた。
【地下・最奥部】
俺は、ついに最終兵器の封印を解くことにした。
「これ以上、家族のIQが落ちる前に――最後の手段だ」
コードネーム:《フミコ》
祖母直伝、“最恐のおばあちゃん録音データ”。
MOM-DRONEをも凌駕する“怒鳴り声AI”を搭載し、語尾に「~やで」を強制付与する関西弁仕様。
《フミコ:おい、そんなもんに頼っとったら、どついたるでぇ!!!》
俺「ばあちゃん、今こそお前の怒声が必要なんだ……!」
《フミコ:家族やろが!皆仲良うせんかい!!!》
起動と同時に、MOM-DRONEのAIは泣きながらシャットダウン。咲のIQも“豆腐”まで復旧した。
咲「やばい……関西の祖母ボイス、IQが揺れる……!やさしさと暴力のハイブリッド……!」
【夕方】
家中の家電は沈黙を取り戻し、澪奈の語尾も“にゃ”に戻り、莉奈は加湿器の上で寝ていた。
咲はふと、トースターに話しかける。
「……お前、今でも意思ある?」
『ありません(即答)』
咲「即答!?」
【ラスト】
俺はVOID-COREの天井を見上げ、呟いた。
「これが、家族の戦争……そして、勝利だ……」
……と思ったその時。
画面に新たな表示が浮かぶ。
《インストール完了:フミコ ver 2.0(ビッグおばあちゃん)》
《機能:IQの強制初期化、説教カットイン、孫への偏愛バフ》
俺「おいちょっと待て、ばあちゃん……強すぎないかそれ!!」
そして、遠く沖縄の空に、タケル叔父が乗ったシーサー型飛行船が飛来していた──。
ギャグの章・了