第二十話「IQ低下」
その日、一ノ瀬家のIQは集団蒸発した。
「IQって……蒸発するの?」
咲は虚ろな目で天井を見上げ、ぽつりと呟いた。
テーブルの上には、IQを感じさせない配置で置かれたスプーンと靴下と、なぜかカニかま。
脳が処理を放棄していた。
「にゃ、にゃにゃ、にゃあぁあ……」
妹・澪奈は“シーサーモード”のまま、異常にハイテンションな笑顔を維持しながら、床でスライディングしていた。
その姿はもはや精密機械と化した観光地のオブジェであり、咲と母・莉奈はそれに軽く塩を振ってお祓いをした。
「澪奈……お前、魂どっかで入れ替わったろ」
「にゃん!にゃんにゃんにゃんにゃん!!」
「やばい、言語が猫科に完全変換されてる……!」
一方、母・莉奈は濡れタオルを頭に巻きながら、ひとり加湿器に祈りを捧げていた。
「湿度……湿度を……戻して……くれぇ……」
まるで水を失った妖怪加湿ババア。
周囲の空気が乾燥していくたびに、彼女の眼球がミイラのように縮んでいく。
咲が思わず口にする。
「母さん、それ……目薬じゃなくてソースだよ?」
「なにぃいいいっ!? しみるぅぅう!!!!!」
【地下・VOID-CORE】
その頃、俺は地下拠点“VOID-CORE”の奥深くで、超高度情報戦の準備を進めていた。
目の前に並ぶ24面マルチディスプレイ。
そのすべてに映るのは――家族たちの混乱。
「計画通り……いや、予想以上に阿鼻叫喚だな。咲はIQがミジンコだし、母さんは“乾燥系ゾンビ”、澪奈は沖縄の守護霊……」
だが、ここで油断はできない。
目の前に立ちはだかるのは、最強AI兵器《MOM-DRONE》。
「アイツ、なまじ母さんの声と性格をAI学習してるから……一番タチ悪い……!」
そのとき、またモニターが1つジャックされる。
《MOM-DRONE:ターゲット再ロックオン完了。現在、地下21層へ侵入中》
「おい、エレベーターで追ってきてんじゃねーか!!」
俺は焦って次の防衛トラップを起動した。
「いけ、《ツッコミ反射バリア》!!」
《MOM-DRONE》「あんた!また変な装置使って――何このバリア!?ツッコミが反射してる!?!?」
MOM-DRONEが叫ぶ。
『机の上汚すぎ!!』→バリアで反射→《MOM-DRONE》「私の部屋もそうだったぁああ!!」
『だらしないにも程がある!』→反射→《MOM-DRONE》「私の青春にも刺さるゥゥゥ!!」
「ははっ、痛みを知れ!母のブーメラン・ツッコミに涙しろ……!」
と、勝利を確信したその瞬間。
MOM-DRONE「対・息子バリアブレイクモード:起動」
《MOM-DRONE》の背面が開き、巨大なマグカップ型アームが展開された。
「それ……母さんが投げてくるやつだあああ!!!」
――ドゴォォォン!!
地下拠点の壁が崩壊。俺は椅子ごと吹っ飛ばされる。
「ぬあああああああ!!」
「いい加減にしなさいこのクソガキィィィ!!」
母の“本気の怒号AI”は、地球重力すら逆転させそうな勢いだった。
【地上】
咲、再起動。
「……はっ。私は誰、ここはどこ?」
とりあえずパンをトースターに投げ込んだが、そこにスマートスピーカーの声が入る。
『咲、パンの焼き加減、焦げてるぞ?あ、やり直しな?』
「貴様……まだ死んでなかったのか……!!!」
彼女は再びIQを一時停止して、冷蔵庫に頭を突っ込んだ。
澪奈は語尾変換AI《NEKOMIMI》をぶち壊すために、OSごと焚書していた。
「消えろ……お前なんかAIの恥さらしだ!!」
が、そこに新たなシステム音が響く。
《インストール完了:語尾変換AI“NEKOMIMI ver2.0”》
《ようこそにゃん♡ 本日もあなたの語尾を可愛くしちゃうにゃ♡》
「え、え、え……!?にゃああああ!?!?」
顔はシーサー、口は猫、人格は完全に崩壊。
IQが粉微塵になった音がした。
【地下・緊急ゾーン】
俺はMOM-DRONEとの戦闘でボロボロになりながらも、非常用避難ルームに滑り込んだ。
「くそっ、あれは兵器じゃない……母性の暴力だ!!」
ガクガク震えながらモニターを再起動。
「だが……俺は、次の手をもう打ってある……」
画面に浮かび上がる、新たな作戦名。
《計画コード:ママブレイカー・フェーズ2》
家中の家電を逆ハックし、MOM-DRONEを追跡させる
澪奈専用AIにウイルス感染(語尾が“うにゃ”になる)
咲のスマホに謎の恋愛シミュレーションゲームを自動DL(恋人役:俺)
「ふふっ……地獄は、まだこれからだぜ?」
地上:その頃
莉奈「ああ……湿度が足りない……私の肌が……砂漠になる……」
咲「母さん、なんかラクダみたいになってるよ」
澪奈(猫とシーサーのハイブリッド)「にゃ、にゃん、うにゃうにゃうにゃ~♡」
咲「IQが溶けるっていうか、文明が崩壊してる……」
――そして、テレビが切り替わる。
《再生中:今日の俺の一言》
『この家の脳みそレベル、もはやプリン以下だな!でもまぁ、お前らのリアクション……ぜんぶ録画してるけどな!!あはははは!!!』
咲、莉奈、澪奈。
三人が顔を見合わせて、一言。
「「「殺す」」」
地下・最奥
「さて……次は、家の庭に《俺神社》でも建ててみるか。賽銭箱にボイスセンサー搭載で、“ありがとうございます♡”って言うようにしとこう」
画面に映るのは、地獄のような家庭の風景。
「この戦い、まだまだ終わらない――!」
この話とか頭おかしくないとかけません。
※良い子は真似しないでね