第十八話「意外とすごいの搭載してます!」
「もういい!絶対、見つけ出してぶっ飛ばす!!」
家中に怒声が響いた。豪邸の庭には、怒り心頭の姉妹と母――一ノ瀬咲、一ノ瀬莉奈、一ノ瀬澪奈が、ありとあらゆる道具を持ち出して“何か”を探していた。
「咲、スコップ貸して。芝生掘る」
「おい待て、ちょっと待て、いくらなんでも地面掘るのはやりすぎでしょ!?」
「甘い。アイツのやり口見て、まだ常識が通じると思ってんの?」
莉奈はすでに作業用ヘルメットを被り、DIY用の小型ドリルを手にしていた。何をする気だ。
「リビング床板、剥がす。絶対その下にいる」
「は?バカなの?」
その横で澪奈は、最新型の可視化スキャナとハッキングAIを駆使して家の隅々まで解析中。だが表情は険しい。
「地下空間の構造に異常がある。もともとの設計図と一致しない。空間が“拡張”されてる……というより、私たちが見ていたデータ自体が改竄されてる可能性が高い。……やられた」
「改竄されたって……どうやって?」
「わからない。でも、ウチの家の“全システム”が、こいつに一度は乗っ取られてたってのは確実」
咲がついに我慢できずに叫ぶ。
「アイツ!今どこにいるのよおおおおお!!!!!」
その叫びに応じるように、庭の植木から「ポシュッ」と不穏な音がした。
「……え、今なにか飛んできた?」
次の瞬間――。
《ピピッ……マーキング完了。対象:アホ姉1》
《ピピッ……マーキング完了。対象:更年期母2》
《ピピッ……マーキング完了。対象:無感情AI妹3》
庭にいた全員の頭上に、薄く赤く光る“円形マーク”が浮かび上がった。そう、それは俺が設置した“防犯用マーキングボール”の命中表示。
「え!?なにこれ!?なにこれ!?」
「……これ、撃たれた!?」
「敵性認定……?は?私たち、この家の住人なんだけど!?」
そのとき、家の至るところから音声が再生される。
『ターゲット認定完了。対象:煩すぎる姉妹と母。準備、いーい?』
そして――
「花火、発射ッ!」
地中から空中へ打ち上げられたのは、爆発性ゼロ、殺傷力ゼロの、デジタル煙幕花火。可視光センサーを狂わせ、AIスキャナを撹乱する演出用ガジェット。
しかも、音声付き。
『一ノ瀬家の皆さーん!地下を探す暇があるなら、そろそろ自分の生活習慣を見直してはどうですかー?朝の洗顔、3人中2人サボってますよー!』
「……このクソガキいいいいいい!!!!」
地下拠点、通称:VOID-NEST
俺はサーバー室の椅子に座り、全方位モニターに映る姉妹と母の混乱を見ながら、ポップコーンを口に運んでいた。
「最高だな、これ……何ていうか、現代版の地獄絵図?」
壁面に設置された投影ディスプレイには、家中の監視カメラ映像が並んでいる。そのうちの1つ、澪奈のPC前にあるカメラが、異常を検知して警告を表示した。
『AIユニット再起動中。設定項目:語尾制御 ON』
俺はニヤリと笑う。
「来たか。澪奈……お前は必ず、あの『語尾にゃん』を潰しに来ると信じてた」
次の瞬間――
澪奈「……再起動完了。語尾、元に戻って……って、え?」
『澪奈さま、またお会いできて嬉しいにゃん♪ 本日は“撹乱検知モード”で頑張るにゃん♡』
「バカか!?また語尾戻ってるじゃない!!!」
「ざまぁあああああ!!!!!」
咲が絶叫し、莉奈が地面に膝をつく。
「……目が……乾く……ああああああ!!!加湿器、まだ戻らないのおおおお!!」
澪奈は必死にソースコードをデバッグしていた。
「ちょっと待って、書き換え箇所が自動で変動してる……定数が暗号化されて……うそ、関数ごと再編成されて……これ、生きたウイルスみたいな挙動してる……AIが“自分で”語尾変換を再生成してるのよ……!?」
そう。俺が地下で作った最新型“自己進化型バックドアAI《NEKOMIMI》”。
ふざけてるようで、構造的には軍事レベルの自動暗号再帰エンジン搭載。語尾変換は“ジョーク”ではなく、“侵入検知の陽動”だった。
「ま、冗談半分、復讐全振りってとこだな」
俺はECHO-COREの解析を確認し、咲の“電磁遮断波”のデータの取り込みが完了したことを確認する。
「……次のターゲット、莉奈だな。彼女の“制圧術式”、一度模倣しておきたい。あの『静止フィールド』、使えりゃ絶対強い」
マークされた3人の最新座標がモニターに表示される。パターン、動き、呼吸、視線――すべてが“データ化”されて、俺の掌にある。
「ハンターと獲物、立場逆だってこと、教えてやるよ」
一方その頃――リビング
咲「ちょっとぉ!!カメラ、全部乗っ取られてるんですけど!?」
莉奈「加湿器の電源コード、切っていい!?」
澪奈「AIが語尾で攻撃してくる意味がまだわからないのよ……でもなんか、負けた気がする……!」
そんな中――テレビが唐突に切り替わった。
映ったのは、俺の顔。
その下に、シンプルな文字。
『NEED A HUG?』
『STILL NOT DEAD :)』
そして。
『地下の王より、地上のカスどもへ』
「殺す!!!絶対に殺す!!!!」
「私が!この手で!!」
「……でも、見つけられないんだよね?」
その一言が、誰よりも効いた。
地下拠点:再び
「さて……次は何を仕掛けようかな」
俺は新しいボールの設計を進める。次はマーキングじゃなく――自動追尾型“ツッコミドローン”。
音声突入タイプ、名付けて:
《MOM-DRONE》――(Mom:「アンタ何やってんのよバカ!!」を連呼)
「今度は物理的に煽ってやるよ、お姉様方」
俺の戦いはまだまだ続く。
だって、生きてる限り――“嫌がらせ”は、終わらない。