第十五話「コンテナハウスなくね?」
――残り、五秒。
《制御ブロック:一時解除まで、残り――5、4、3……》
(来る……来るぞ)
脳内のカウントダウンと共に、意識が鋭く研ぎ澄まされていく。
――2、1、0。
その瞬間、ドクンと体内で何かが跳ねた。
視界が一気に開け、全身の感覚が再接続されていくような感覚。
(……戻った。いや、違う。上書きされた)
情報が脳に流れ込む。
この数分間、俺の《演算蓄積》はただ耐えてたわけじゃない。干渉されていた情報波形を全て記録し、分析し、模倣可能な状態にまで落とし込んでいた。
つまり――
「俺に干渉してた力、こっちのモンだわ」
《情報表示》、起動。
現れるのは“さっきまで俺の能力を封じていた何か”の正体。
《干渉型制御特性:領域ジャミング》
発動者:不明(推定:俺の妹)
ステータス:擬似再現済み
(……やっぱりか。あいつ、まだ完全に殺す気で来てるってことだな)
立ち上がる俺を見て、女子二人がギョッと目を見開く。
「お、おい……また立った……!」
「今の殴打、まともに喰らったでしょ!? なんで……!」
そりゃあ痛いよ。あばら三本くらい逝ってるし、左肩も外れかけてる。あと、吐きそう。
でもな――
「こっからは、俺のターンだ」
指を鳴らす。ガチで鳴らす。ボキボキじゃなくて、パチン、って音で。
次の瞬間、空気がねじれる。
「な、なにこれ……っ、体が……動かない!?」
「うそ……私の《拘束蔓》が、自分に絡まって――」
「ほら、返却しといた。ついでに、《爆裂制御》も若干増幅させといたから、気をつけてね?」
叫び声と共に、自爆モード突入の一人が吹っ飛んでいく。自分の拳が自分に炸裂するって、なかなか見れない光景だな。R指定モノの惨状だけど。
残り一人。
俺はゆっくりと歩み寄る。
「ち、近寄んなっ……お、お願い、もう降参だから……!」
「うーん、どうしよっかなー。でもさ、朝言ったよな。“男子なんてゴミ”って」
女子が青ざめた顔で首を振る。
「ご、ごめんなさい! あれは、その……場のノリというか……!」
「へー。じゃあ俺がこれからぶん殴るのも、**“場のノリ”**ってことで」
「ぎゃああああああああ!!」
ドサッ。
勝負、終了。
場内、静寂。
空気が止まったような感覚。誰も声を発せず、ただ呆然と俺を見ている。
そして――
「うぉおおおお!! 男子勝ったぁあああ!!」
「やっべぇええええ!! あれマジで人間かよ!」
「ちょ、さっきまでボコられてたのに、何あれ、主人公ムーブじゃん!!」
……ははっ、なんか、いい気分だな。
ボロボロの体で立ち尽くしながら、俺は空を見上げる。
(……でも、気を抜くな。あいつらは、俺を消すまで止まらねぇ)
そう、今の一連の能力停止――
あれは俺の妹による干渉だった。
あの時の奇襲、そして家での殺害未遂。全ては段階的に進行していたんだ。今度は能力ごと俺を**“使えなくする”**作戦ってわけか。
(上等だよ……妹)
そろそろ帰るか――と思って、自分の“家”に向かう。
そう、例のコンテナハウス。
物置みたいでショボいけど、俺にとっては“拠点”であり、唯一の安息地だった。
だった。
「……は?」
そこに、俺の拠点はなかった。
跡形もなく、消えていた。
コンテナがあった場所には、立ち入り禁止のロープが張られ、「撤去済み」と書かれた立札が無造作に立てられている。
(……マジかよ)
「……どんだけ用意周到なんだ、アイツ……組織もグルってことか」
俺は肩を落とし、額に手をやった。
けどな。
そんなこともあろうかと――
俺はコンテナの真下、土の一角をポン、と叩いた。
カン、という金属音。
そこに、仕込んでいた“隠し扉”が反応する。
「ふっふっふ。俺を誰だと思ってんだ。こうなるの、予想してなきゃやってらんねーよ」
パスコードを入力する。生体認証もオッケー。
――カシャン。
地面が静かに開き、冷たい階段が地下へと続いていた。
ボロボロの身体を引きずりながら、俺はその中に姿を消す。
(……妹がどんなに先を読もうと、こっちはさらにその上をいく)
(次は、絶対に――“こっちから仕掛けてやる”)
ガチで、そろそろ戦争だな――
俺の地下拠点で、静かにその幕が上がった。