第十四話「俺…詰んだ」
「お、おい……次……誰行く?」
「ま、待って。あいつマジで強くない……?」
「いや、でも所詮男子でしょ? 私たちで囲めば――」
「……あのさ、さっきの見てた?」
女子五人のうち、一人が既にノックアウト。
残る四人は、さっきまでの“余裕しゃくしゃくの女王様ムーブ”どこ行ったってくらい、眉ピクピクのびびり顔でこっちを見てる。
いやいや、今さら怯えたって遅いって。
お前ら、朝に俺のこと「ゴミ」とか言ってたじゃん?
「さーて、次は誰かなっと」
指をポキポキ鳴らしながら、俺は軽く足を踏み鳴らす。
体内に溜めていたエネルギーを《動体加速》で一気に解放し、空間をひずませる動きで距離を一瞬で詰める。
「うわっ、はやっ!? こ、来ないで――!」
「はい、そこ。《感情干渉》もデータコピー済み。恐怖心、逆流でお返ししまーす」
「――う、うえええぇぇ!?」
女子一人、過呼吸モード突入。勝手に気絶。はい、二人目脱落。
残り三人、顔が完全に“ヤバいやつ見た”目になってる。
「あれれ? もしかして、戦うのやーめたって顔してない?」
「な、舐めんなぁっ!」
その瞬間、後ろから不意打ち。錯覚系の技で姿を消して近づいてきてたらしい。
だが――
「……後ろ、見えてんだよなぁ」
俺は軽く身をひねり、カウンター気味に肘鉄。
「ガフッ」という音と共に、三人目、沈黙。
「よし、残り二人」
「ふ、二人って……お前、さっきの含めてもう三人倒して――」
「いやー、俺的には一人一人倒すのも飽きてきたんで、二人まとめてどうっすか?」
「お、おい……あいつ、バケモンだろ……」
それな。俺も割とそう思ってる。いや、違うか。
正確には――
《情報表示》+《挙動模倣》+《演算蓄積》
この三つがある限り、初見殺しだろうが集団戦だろうが対応できる。
つまり、相手の特性は「俺のための素材」でしかないってわけ。
「よし、そろそろ締めようか」
跳躍性能を高めて宙を舞い、重力を操るような制御で落下速度を調整。
両手を広げ、フィールド中央に降り立つと同時に、全方向への《音響衝撃》を発動――
する、はずだった。
「……っ、あれ?」
え?
え、ちょ待て、マジで。
今、《音響衝撃》出なかったんだけど??
いやいやいや、手順は合ってる。内部エネルギーも十分。演算処理も問題な――
「――出ない、手が動かない……!?」
やべぇ。
心臓がドクンと跳ねた。
これはただの“失敗”じゃない。《演算蓄積》で確認しても、出力は正常、機能構成も変わってない。
けど、作動しない。完全にシャットアウトされてる感覚。
(なにかが……干渉してる? 外部から?)
その時、脳裏に浮かんだのは――
あの姉妹。
あの異常な情報制御を持つ姉妹。特に、姉のほう――柊 天音を殺したあとも、妹が“何か仕込んでいた”としたら……
「……チッ、タイミング最悪だな」
しかもこっちは、敵前だ。
目の前の女子二人も、どうやら気づいたらしい。俺の様子がおかしいって。
「お、おい、今だ! 出力が止まってる!」
「やっちゃえ!!」
一人が拳に爆発性の力を溜め、もう一人が地面から植物のような束縛を繰り出してくる。
やばい、マジでやばい。今の俺は“ただの人間”。
何も使えない以上、まともに食らえばマジで即死コース。
(逃げろ……逃げられるか?)
いや、逃げても無駄だ。四方は囲まれてるし、脚も重い。さっきまでとは違う、明確な“無力”の感覚。
そして、
「……ほら、男子なんて結局、雑魚じゃん」
そう吐き捨てる女子の一言に、観客席がざわつく。
「うわ……やっぱ男子ってこうだよな」
「最初だけ粋がって、結局使えなくなるんだよね」
――ちげぇよ。
俺は心の中で怒鳴った。悔しい。情けない。でも、それでも。
負けるわけにはいかない。
この学校の理不尽を、少しでもぶっ壊すために。
あの姉妹に、もう二度と好き勝手やらせないために。
「立てよ、俺……」
その時だった。
《制御ブロック:一時解除まで、残り――3分》
頭の中に、機械的なカウントダウンが浮かんだ。
(……なるほど、これは“完全封印”じゃない。一時的なロック。なら――)
「三分で、なんとかするしかねぇか……」
拳を握り、地面を蹴った。
体はボロボロ。何も使えない。でも、戦える。
これは、俺の戦いだから。