第十三話「男子黙れ? いやお前らこそ黙れよ」
目が覚めると、天井がいつもよりボヤけて見えた。
「……んぐ、いててて……」
肩が抜けたまま寝てたらしい。てかこの体、まだ生きてるのが不思議なレベルだわ。肋骨はヒビ、足は打撲、内臓はまあ……ぎり動いてるからヨシ。
それでも、学校には行く。
いや、別に“皆勤賞”が欲しいわけじゃねぇ。
現状の把握と、次の一手の準備。それが目的だ。
なにより――
「ここが、“敵地”だからな」
女子八割、男子二割のこの高校。
建前は共学、実態は“女尊男卑”が過ぎた不平等学園。
教員も女子びいき。男子はミスれば吊るされ、女子は暴れても“元気でよろしい”の一言で片付けられる。
今までは面倒だから静かにしてた。けど、今は違う。
あの姉妹が動き出した今、ここも安全圏じゃない。
それに――
「この不平等、ちょっとはマシにしてぇよな」
そう思う程度には、俺の正義感も捨てきれてねぇらしい。
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「うわ、男子じゃん。マジ無理」
「え、今日の掃除男子の当番? サボっていいよ? 私たちがやるから」
「……え? お前らがやるって言ったのに、後から“サボってた”って言ってくるだろ?」
「なにそれ、被害妄想? 男子ってすぐ被害者ぶるよねー」
……朝からこれである。
心の中の警報が鳴る。ああ、やべえやつらに絡まれたなって。
それでも、俺は冷静に、そしてやや棒読み気味に返す。
「うるせぇゴミ共。口開く暇あったら箒持て。あと給食係、白衣逆だぞ」
「……は?」
案の定、女子グループが一瞬で氷点下になった。
「おい男子、今の聞いた? は? “ゴミ”って言ったよね?」
「てか給食係とか言って、偉そうに指摘してきた。男子のくせにさ」
「もう一回言ってみろよ? 誰のおかげでこの学校まわってると思ってんの?」
「いやいや、男子の奴隷精神のおかげでしょ? 感謝しなさいよ」
ははっ、すげぇな。頭に豆腐でも詰まってんのか。
俺は深呼吸して、心の中でカウントを取った。
(……3、2、1、今)
「《情報表示》」
目の前に、こいつらの“能力”と“スキル構成”が表示される。
――ふむ。大したことない。ちょっとした物理強化と、他人の動きを鈍らせる感情操作か。
「コピー完了っと……よし、次」
こっそり能力。もちろん誰にも気付かれないように。
見た目はニコニコしているように見せかけて、内心では静かに指を折る。
「――五人目。とりあえず、これで“こいつら全員の技”は頂いたっと」
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「で、今日の実技試験だけど、各自“任意の能力”を使って模擬戦をやるわ」
昼過ぎ、担任がそう宣言する。
「ただし、男子の使えるエリアは“外の砂場”のみ。道具の持ち込みは禁止。女子は体育館。まあ……いつも通りね」
はい来たこれ。こういうのが、この学校のスタンダード。
「砂場って……小学生かよ」
隣の男子がぼそっと言ったのが聞こえる。わかる、その気持ち。
だが今回は、違う。
「……先生? 一つ、提案があるんですけど」
俺は手を挙げた。
「男子vs女子で、公開模擬戦、やりません? 公平な条件で」
クラスが一瞬で凍り付く。
女子「は?」
男子「ちょ、お前……」
担任「はあ?」
「もちろん、同意があれば、ですけど? せっかくの異能持ちだし、こう……実力試したくないですか?」
俺は笑ってみせた。
「それとも、怖いんですか? 男子に負けるのが」
完全に火に油。炎上確定。
「……はっはーん? いい度胸してんじゃん」
「上等よ。泣いても知らないから」
「先生、やらせてください。公開模擬戦、いいでしょ?」
担任は少し困った顔をしていたが、女子の圧に負けてか、渋々と了承した。
「……まあ、やってみなさい。どうせ女子が勝つだろうけど」
はいはい、そう思ってろ。
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試合開始。
砂場と体育館の中間に作られた特設フィールド。観客席には他クラスの生徒たちも集まってきた。
女子代表は、さっきのイキってた五人。いわゆる“学内ヒエラルキー女子”。外見スペックだけは高いが、頭はアレだ。
俺は男子代表に立つ。が、周囲の男子はドン引き気味。
「お、おい……マジでやんの?」
「お前、死ぬぞ……」
「心の中で応援してるから……」
もうちょっと声に出してくれ。
審判の号令と共に、試合は始まった。
「《動体加速》、そして《共振波》!」
女子が真っ先に動く。足が速い。声波でこちらの動きを鈍らせるつもりか。
「無駄だよ」
俺はコピーした“共振波”を“逆位相”でぶつける。波が打ち消し合って、こちらの影響はゼロ。
「なっ……?」
「そして、《筋力増幅+跳躍強化》――オリジナルより、こっちの方が上手く使えそうだな」
一気に距離を詰めて、相手の懐に滑り込む。
「ちょ、おまっ、来んなってば――!」
「はい、一本」
腹に掌底。重力を調整して吹っ飛ばす。
残り四人。全員驚きの顔だ。
「なんで……同じ能力なのに……!」
「……“同じ”でも、使い方が違うんだよ」
オリジナルが雑に使う能力も、俺の《蓄積演算》を通せば、最適解が導ける。
一度で足りなければ十手先を読む。それが俺の“力”。
「次。まとめて来いよ?」
女子たちの顔が一斉に青くなったのを見て、俺は確信した。
――今度は、俺のターンだ。