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劣等超能学級  作者: 冬城レイ
第三章「うざい人粛清編」
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第十二話『あの女、ガチで殺りにきた』

目が覚めたとき、コンテナの屋根にポツリと雨音が響いていた。


外は曇天。体は重く、昨夜の“透明いたずら大作戦”の疲労が残っていた。が、あれはあれでスカッとした。

姉と妹の寝顔を見ながら、「ざまあ」と呟いて眠りに落ちた俺だったが、どうやら――それがまずかったらしい。


ガチャ。


ドアが開く音がして、俺は反射的に身を起こした。


「……よく寝てたわね、クソ弟」


咲だった。

しかし、いつもと違った。

服装は私服じゃない。黒の戦闘スーツに、背中にはあの槍――いや、もっと禍々しい何かを背負っている。


目が笑ってなかった。


「……お、おはよう?」

「おやすみを言いに来たの。永遠にね」


いやいやいや、殺意高っ!


「いや、ちょっと待てって、咲さん!? 寝起きに殺しに来るのやめません!? ほら、妹さんと一緒に起きて――」

「みおな? あの子なら家で寝てるわ。今回は私のターン」


そう言って、咲はスマホを取り出して通信を始めた。


「こちらコードB-07、対象位置確認。即座に殲滅許可を」


……え?


「え、え、まさかとは思うけど、それ、姉の仕事仲間とかじゃないよね?」

「うん、殺し屋チーム。うちの組織の精鋭。全部“私の判断”で呼んだ。だって、あんな“恥”かかされたんだもん」


……あ、これ詰んだわ。


それから数分後。


森の中の廃道に誘導された俺は――地獄を見ていた。


「ターゲット確認。戦闘開始」

「了解。右から制圧入る」

「捕獲優先だが、致死は許容」


四方八方から現れたのは、黒尽くめの連中。見た目はどう見ても“対異能戦闘部隊”。中二病が喜びそうなやつ。


《透明化》で逃げようとしたが、赤外線センサーとか音波探知とか、物理で対策されてて通用しない。


くっそ、今までどれだけの異能者を狩ってきたんだ、コイツら。


「《閃光封鎖》。対象視覚阻害」

「《拘束弾》。行動範囲制限」


次々と襲いかかる光弾と鎖。俺はギリギリのところで回避するが、次第に削られていく。


「くそっ、こんな……!」


《情報表示・能力コピー》を駆使して何度か反撃を試みたが、相手の連携がやばすぎる。誰かが前に出れば、誰かがフォローに入る。狩り慣れてる。まるで軍隊だ。


そして――ついに。


「《絶対反射・応用展開》……"対能力型拡張槍"、展開」


咲が前に出てきた。その手には、前回の槍とは比べ物にならない漆黒の武器。


「覚悟はできてる?」

「ま、まっ――」


その瞬間、体が宙を舞った。


反射された攻撃を、さらに増幅してぶつけてくる。俺の防壁術式も瞬時に砕け、爆風と共に吹き飛ぶ。

肺に風が入らない。地面に転がった瞬間、意識が白くなる。


「……ぐ、ぁ……」


視界がぼやける。足が折れてる。たぶん肋骨も。口の中に血の味が広がる。


「“ちょっと叩いてやった”程度で調子に乗るから、こうなるのよ」


咲の声が、遠くで聞こえた。


「いい? 悠真。アンタ、これでわかったでしょ? この世界に“舐めていい人間”なんていないの」


言葉が刺さる。

だが、俺は……目を閉じるわけにはいかなかった。


「……っ、まだ……終わってねぇ」

「……は?」

「俺は……ただのコピー屋じゃねぇ。偽物でも、限界でも、どうせお前らの下位互換でもいい」


ぼろぼろの体で、俺は膝をつく。


「それでも――ここで死んでたまるかよ」


俺の掌に、光が集まる。


コピー能力《蓄積演算》。前に手に入れた、“分析強化”系のスキル。

一度で駄目なら、百通り考えて、千通りの選択肢を掴む。たとえ今は無力でも、情報は俺の武器だ。


「やる気ね……なら、とどめを――」

「待って、姉さん」


静かに割って入ったのは、みおなだった。

だが、そこには涙も動揺もなかった。

咲の横に立ち、俺を見る。その目は、冷たい。


「……今、ここで殺すのは得策じゃない。情報が足りない。悠真が何を見て、何をコピーしているか。それを解明してからでも、潰すのは遅くない」

「……戦略的判断?」

「ええ。姉さんの“恨み”はわかるけど、私情で動けば、また隙を突かれるよ。前回の“透明いたずら”みたいにね」


咲はしばらく黙っていたが、やがて槍を消す。


「……了解。なら今回は見逃す」


みおなが咲を見た。


「ありがとう。理性、残っててよかった」


そして、俺に向き直る。

その顔は、もう“妹”のものじゃなかった。


「次はないよ、お兄ちゃん」


その言葉が、何より冷たく、何より鋭かった。

咲とみおなは、そのまま背を向けて消えていった。

俺はその場に崩れ落ちた。

どくどくと、鼓動が全身に響いていた。

生きている。それだけが、確かな事実だった。



---



その夜。


コンテナの中で、俺はぼろぼろの体を横たえていた。


「はは……痛ぇ……けど、生きてる」


笑えてくる。姉も妹も、“情”じゃなく“理屈”で生かした。それが、逆に恐ろしくもあった。


「……次は、こっちの番だ」


姉の組織。咲の正体。みおなの判断。

全部ぶっ壊すには、もっと力が必要だ。

俺は、再び目を閉じた。


まだ、終わっちゃいない――この人生も。

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