表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
劣等超能学級  作者: 冬城レイ
第三章「うざい人粛清編」
12/66

第十一話「仕返し」

夜の路地を、俺は走っていた。


息が荒い。心臓は喉元で暴れ、汗が背中を濡らしている。

……家族に殺されかけた。

姉と妹が本気で俺を殺そうとしていた。

コンテナのあの狭い空間に、確かに“死”がいた。温もりも愛情も、一片もなかった。


――忘れよう。


そんなもの、最初からなかった。

だが、忘れない。殺意だけは。


「ふざけんなよ……!」


俺は、足を止めた。

もう十分に距離は取った。街灯もない山沿いの歩道、薄暗い森が周囲に広がっている。

ここなら、一時的にでも姿を消せる。

……そう思った矢先だった。


「なんだお前、こんなとこで迷ってんのか?」


突然、耳元に声がした。


「……!」


驚いて振り返るが、誰もいない。


「ビビんなって。ここだよ、ここ。透明なんだよ、今」


幽霊かと疑ったが、次の瞬間、空中から何かがゆっくりと“現れた”。

男。ボサボサの髪に、くたびれたジャージ。年は二十代前半だろうか。どこか世捨て人のような雰囲気が漂っていた。



「お前、逃げてたよな? 女に。しかも二人」

「……見てたのか」

「ああ。妹と姉、両方ってすげーな。モテモテじゃん。殺意向けられてたけど」

「……冗談に聞こえない」

「だろうな。ま、助けてやってもいいぜ?」

「助けるって……お前、能力者か?」


男は薄ら笑いを浮かべた。


「俺の能力は《透明化》。姿も気配も音も、完全に消せる。ただし、持続時間と範囲に制限はあるけどな」


男で透明化はレアだ。

だが一瞬で、俺の脳内に警告が走る。


――強力すぎる。


この能力さえあれば、さっきの襲撃だって無効化できた。先手を取れば、誰にでも勝てる可能性を秘めている。


「……試させてもらう」

「は?」


俺は、男の手を掴む。


《情報表示・能力コピー》起動


【対象:無所属能力者《木崎きざき とおる》】


▼能力名:《透明化》

▼概要:視覚・聴覚・気配など存在の情報を対象から消す。自分を中心に一定範囲内に効果を及ぼす。

▼制限:持続時間30秒、再使用クールタイム1分。戦闘に不向き。


「――コピー、完了」

「な、なんだよお前!? コピーって、それ、マジで言ってんのか!?」

「今は説明してる暇はない。礼はあとだ」

「いや、それ、犯罪――」


言い終わる前に、俺は《透明化》を起動した。

視界が消えた。自分の手も見えない。音も足音も、霧の中に沈んでいく。


――これなら、やれる。


俺は、ふたたびコンテナへと戻った。


---


「……あれ? もう逃げたと思ったのに」


みおなが、コンテナの内部を探っていた。


「さすがに逃げ足だけは一丁前ね。ビビリの男ってホントつまんない」


咲が、壊れた窓の外に立っていた。

だが――俺は、すでに中にいた。


「こんばんは。帰ってきたよ」

「ッ!?」


みおなが驚愕の表情を浮かべる。が、俺の姿は見えない。


「だ、誰!? 悠真……? いるの……?」

「気付くのが、遅かったな」


俺は、透明状態のまま彼女の背後に回り込み――パンッ、と頭を軽くはたいた。


「きゃっ! なにっ!? どこ!? だれっ!?」


咲も構えるが、俺の気配は掴めない。


「透明化能力だよ。そっちの糸じゃ捉えきれないだろ」

「……っざけんなァ!!」


咲が咄嗟に槍を突き出す。が、俺はコンテナの天井に跳ねて避けた。

――そして今度は、咲の背中を平手で叩いた。


「調子に乗るな、クソ姉貴」

「ぐっ……!? な、なにこれ……!」


視界に映らない敵に、二人はただ混乱するしかなかった。

その間に、俺は何度も“いたずら”を繰り返す。

髪を引っ張る。膝裏を蹴る。頬をつつく。

正面から戦えば勝てない。でも――これなら勝てる。


「調子に乗るなよ、姉妹そろって。こっちだって……黙ってやられるわけじゃないんだ」


俺は《透明化》を解き、姿を現す。


咲とみおな、二人とも膝をついていた。


「き、気配が読めない……無理……」

「悠真……お兄ちゃん、こわ……」


二人はその場で気を失った。

俺は、息をつく。

勝った。

たかが“いたずら”だ。でも、これが今の俺にできる最大の反撃だった。


---


翌朝。


俺は、コンテナの破損箇所を修理していた。

工具は自分で揃えてあった。壊されることはよくあったから。


「……戻る理由なんて、もうないな」


家族はもう、家族じゃない。

でも――この場所だけは、“俺の居場所”だった。


「だったら……ここくらい、自分で直してみせるよ」


俺は、太陽の下、ひとり黙々とコンテナの壁を打ち直した。

静かで、穏やかで、孤独で。

だけど、決して――弱くなんか、なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ