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劣等超能学級  作者: 冬城レイ
第二章「能力テスト編」
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第九話「闇より来たる者」

観客の歓声が、演習場を揺るがしていた。


テレビ局のカメラが三機、空中を浮遊しながら選手を映し出し、モニターに巨大な姿が映し出される。その一つに、俺――悠真の姿があった。


「先ほど、D組の悠真選手が激闘の末、A組の理央選手を撃破! 異例の勝ち上がりを見せています!」


場内アナウンスがそう叫び、スタジアムのボルテージは最高潮に達していた。

その声を、俺は静かに聞いていた。騒がしさの中に身を置きながらも、頭の中は驚くほど冷静だった。

……次の相手は、“クラス外個体”。

人間でない“何か”。もしくは、何かを内包した存在。

俺の情報表示には、名前と所属すら曖昧に表示されていた。


《対象:???(仮称:ミラ)》

《能力:混在型/形態変化性質あり》

《警告:情報精度に著しい欠損が確認されています》


情報が“曖昧”という時点で、何かが異常だ。

通常、相手の構造が視える俺の能力でも、これは初めてだった。

その瞬間、扉が開いた。


「出場者、試合開始位置へ!」


俺はゆっくりと立ち上がり、会場中央へと歩み出す。

足を一歩踏み出すたび、観客の歓声が耳に突き刺さるようだった。

――だが、それ以上に刺さるのは、対面から歩いてくる“それ”の視線だった。

白髪に近い銀の髪。男女の区別がつかないほど整った顔立ち。瞳だけが、異様なまでに暗い。


「よろしく、悠真くん」


まるで旧友に語りかけるような、やけに柔らかな声。


「……お前、何者だ」

「秘密だよ。それを暴こうとした人たちは……みんな、いなくなっちゃった」


にこり、と笑ったその表情に、ゾッとするほどの“人外性”を感じた。

観客はそれに気づいていない。だが、俺には見える。

情報の歪み。存在そのものの“空白”。

この対戦相手、ただの異能者じゃない。


「両者、準備はいいか?」


審判の声が響き、俺と“それ”は無言で頷く。


「試合開始!」


開始の瞬間、爆音と共に空間が歪んだ。

ミラが放った一撃は、何かの“触手”のようなもので構成されていた。


「……っ!」


咄嗟に跳躍し、間一髪で避ける。

着地と同時に《予測演算・強化》を起動。視覚・感覚を全て戦闘用に切り替える。

――だが、ミラの動きは予測を超えていた。

触手の一本が地面に叩きつけられ、破片が砕けて空中を舞う。

それらが空中で“変形”し、刃のように飛来してきた。


「多重構成の術式か……!」


構造の全体が読めないまま、俺はなんとか身を捩って回避。

だが、背中にかすった一撃が肉を裂く。


「ぐっ……!」


場外から観客の悲鳴が上がる。

テレビ中継のカメラも、容赦なく俺の苦悶の表情を映し出しているはずだ。


「痛い? 大丈夫?」


ミラは無邪気に言う。まるで、遊んでいるだけのように。


「その顔……もっと見せて?」


ゾクリとした。これは“戦い”じゃない。

“狩り”だ。こいつにとっては。

なら――


こっちも“遊び”を終わらせる。

情報が完全には読めないなら、使える“欠片”だけでも利用する。

ミラが使った“構成変化”の魔術。

一瞬だけ視えたその術式片を、俺は脳裏で再構成し、解析にかける。


《仮想術式構築・中枢推定:進行中……》

《警告:精度40%未満》


足りない。

だが、もう一つ、使える手がある。

ミラの術式が構築される瞬間、その触媒となる“形状の変化”は、物理的なものだ。

つまり――“視覚”よりも“触覚”で読む。

次にミラが動いた瞬間、俺は自ら接近戦を仕掛けた。


「来るなって言ったのに」


ミラの声と共に、腕が刃状に変わる。

その瞬間、俺の身体は反射的にその軌道を“読む”。


《直感補正:全解放》


身体をかすめる風を感じながら、回避。腕を取り、踏み込む。


「“お前の力”、もらった」


その囁きは、マイクに拾われないよう小さく。


《能力コピー・構造一致:変化系構造取得》


内部で、確かに何かが“加わる”。

けれど、これはあくまで“内部利用”。

外には絶対に見せない。

次の瞬間――俺の手に、黒い“糸”が生まれる。

変形の一部を再現した、即興の攻撃手段だ。


「喰らえ……!」


その糸を投げつけ、ミラの足を絡め取る。

だが――


「……あら」


ミラは身体を“分解”するようにして、その場に“液体”のような形で崩れ落ちた。


「っ!? 身体そのものを……変質させた!?」


再構成され、別の場所に再出現するミラ。

完全に、物理法則から逸脱した動き。


「やっぱりすごいね、悠真くん。僕、こういうの好き」


――ヤバい。能力の応酬に見せかけて、これは完全に“実験”されている。

この戦い、試されているのは俺だ。

どこまで“再現”し、どこまで“読める”のか。

向こうは、俺の戦い方そのものを解析しようとしている。

それでも、俺は――負けるわけにはいかない。

何度倒れても、立ち上がったのはそのためだ。

柊 天音の死も、理央との戦いも、全部――


「ここで終わらせるためにあったんだよッ!!」


ミラが笑った。その顔が、少しだけ“興奮”していた。


「もっと、もっと見せて。君のその、渇いた目を」


俺は一気に距離を詰める。

そして、見切った。

この“液状化”構造は、一定時間での“再固定”が必要になる。

そこに、タイミングを合わせる。

再構成の直前、術式のエネルギーが集中する“収束点”。

そこを――


「もらった!」


俺は全身の力を込め、拳を叩き込んだ。

ミラの身体が地面に叩きつけられ、術式が一瞬だけ乱れる。

そして、審判の声が響いた。


「勝者――D組、悠真!」


観客席が割れるような歓声に包まれた。

カメラが寄ってくるが、俺はそっぽを向いてそれを避けた。

ミラは、無言で立ち上がる。

唇の端に、うっすら笑みを浮かべながら。


「また会おうね、悠真くん」


そう言い残し、静かに去っていった。

そして俺は、誰もいない控室に戻ると、椅子に腰を下ろした。

全身が痛む。

頭も、まだ重い。

だが――


「俺は……ここにいる」


その呟きは、誰にも聞かれなかった。

でも、確かに。

この世界に“爪痕”は刻まれた。

次の戦いへ――


俺は、まだ立っている。

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