第三夜
真っ暗な大穴をのぞき込んでいた。
底は見えないほど深い。
私は何をするでもなく、ただその穴を眺めていた。
すると向こうから同級生がやってきて、四つん這いになって大穴をのぞき込もうとした。
「あまり近づくと危ないよ」と言おうとしたが、その前に彼は手を滑らせて穴の中に落ちていった。
叫び声はなく、終始無音であった。
私がその瞬間を目撃していなければ、彼が穴に落ちたことに気づく人はいなかっただろう。
私はあわてて先生の所へ駆けて行って、「人が落ちました」と報告した。
すると先生は、「ああ、だから近づくなと言ったのに。仕方ないね。もう帰りましょう」と言って、全員を集合させて引率の支度を始めた。
呆気にとられた私は再び大穴に引き返して、今度は少し離れたところからのぞき込んだ。
大穴は変わらず沈黙を保っている。まるで何事もなかったかのようだ。
私は徐々に、先ほどの出来事は見間違いか、幻だったのではないかと思い始めていた。
そうして大穴を見つめているうちに、吸い込まれるような錯覚を覚えた。
このままではまずいと本能的に感じて、目を逸らし踵を返して先生のもとへ戻った。
ただ、その後もどうにもあの大穴のことが気になって仕方がない。
夢から醒めても、私の心にはいつもあの深淵があって、ぽっかり口を開けている。




