第二夜
街を歩いていたら、交差点の向かいに立て看板が見えた。
そこには「死亡事故発生現場」と書いてあった。
あそこで人が死んだのだなと思った瞬間、その場所が闇を纏ったような気がした。
立ち止まって信号を待つ間、道路の向かい側にいる人々をぼうっと見つめていると、異様な女の姿が目に留まった。
ひどく丸まった背に、腰のあたりまである黒い髪は乱れきっている。ぼろぼろのワンピースから覗く手足はやせ細っていて、まるで枯れ枝のようだった。
直感的に目を合わせてはいけないと感じて、視線を逸らそうとした瞬間、女が血走った目でこちらを睨みつけた。
まずいと思ったがすでに遅い。女は髪を振り乱しながら、鬼気迫る勢いでこちらに向かってきた。
信号は赤だというのに、だれも止めようとはしない。それどころか、誰一人女の存在に気が付いていないようだった。
人通りの多い交差点なのに、その時はなぜか車は一台も通っていなかった。
生暖かい風が吹き抜ける。
女が目前まで迫ってきたとき、すぐ横にいた老人が一歩進み出て、女に向かって「お前のいる場所はここではない」と言った。
驚いて女の方へ目線を戻すと、もうどこにも姿はなかった。
そして信号が青に変わって、行きかう人の波の中に自分と老人だけが飛び石のように取り残された。
助けてもらった礼を言おうと老人の方に向き直ると、こちらをぎろりと睨まれ「お前もだ。お前もここにいるべきではない」と言われた。
そこで目が覚めた。
あの老人がいなかったら、私はどうなっていたことだろう。