1/3
第一夜
三叉路の前に立っていた。
一番左の路には赤だか黒だかよくわからない色の着物を着た青年がいて、「こちらは地獄ですよ」と言ってほほえんでいる。
辺りは墨を流したように真っ暗で、空を見上げても灯りになるようなものは何もないのに、彼の周りだけは提灯に照らされたようにぼんやりと薄暗く光っていた。
どこかで見た覚えのある顔だったが、その記憶を思い出すことはないだろうという確信めいた予感がした。
地獄へは行きたくない。ならば残りの二つの路はどこへ続いているのかと問うても、男は静かにほほえむばかりで答えない。
それでしばらく思案してふと思い至った。地獄とくれば続くは現世、極楽ではないか。
どちらが現世でどちらが極楽の路かはわからないが、地獄でなければどこでもいいと私は直感的に真中の路を選んだ。
足を踏み出す寸前、「よろしいのですか」と尋ねる男の声が聞こえたが構わず歩みを進めた。
そこで目が覚めた。
いつもと何も変わらない朝だ。
私が選んだのは現世の路だったらしい。