第16話 我、人気がない
ケイネスたちとの戦いが終わり、数日が経った。
今の所、あれから、あいつらが絡んでくることはなかった。
……まあ、そもそも、別に何かを賭けていた勝負ではなかった上、お互い、重症者もいるのだ。体に鞭を打ってまで絡むこともあるまい。
しかし、それ以外のものは、意外と変化したものも多く……。
「うっす! クリスさん! パン買って来ました!」
「クリス様! 肩でも揉みましょうか!」
「クリスちゃん! サインください!」
あの戦いを経て、クリスのファンが爆増したのだ。
今も昼休みだと言うのに、クラスのほとんどのものが、クリスの机の周りにガヤガヤと集っていた。
「も、もう、いいってば! パンも肩も大丈夫だよっ!」
ここまで注目されることに慣れていないのか、クリスは困惑した様子で対応している。
対する我はどうかと言うと……。
「グレイの兄貴ぃ……暇だな」
「…………うむ」
相変わらず、隣にはクロマのみだった。
「なぜだ……なぜ我のところへは誰も来ないっ……!!」
我も活躍してたのに……!
我が疑問に思っていると、ふと視線を感じる。
振り返ってみると、生徒の数名が、こちらを見てヒソヒソと話をしていた。
(ほう? さては、我が偉大すぎて、話しかけるのを躊躇っているのか)
どれどれ、仕方あるまい。ここは我から話しかけてやるか。
「おい、貴様ら――」
「ひぃっ!? 話しかけられたっ!?」
「逃げろっ! 俺たちも木っ端微塵に殺されるぞぉ!!」
……そんなところにいないで、こちらに近寄ってもいいのだぞ。
そう声をかけようとするのも聞かず、こちらを見ていた生徒たちは、怯えた様子で教室から逃げ去ってしまった。
「……ぐすん」
「あ、兄貴! 大丈夫だ! 俺も女子にはあんな反応されるからっ!」
クロマの、慰めになっていない慰めを受け、我は頭を抱える。
「どうしてだっ……!? 我の予定では、我の活躍を見た生徒たちが、『わー、魔王様〜』と、我の下へ集うはずだったのに……!!」
「活躍っていうか……あの戦い方は……引くって」
引く……? 我、引かれてたのか……?
「なんつーか、異次元すぎて、『あ、違う生き物なんだな』ってレベルだった」
「くぅ……! な、ならば、なぜクリスはチヤホヤされている!?」
「そりゃあ、クリスちゃんのあの活躍は人間味があったからな……、強敵に剣一本で挑むあの感じ……まるでお伽話の中の勇者みたいだったぜ!」
……勇者、か。
たしかに、あの時のクリスは、ヤツと重なるものがあった……。
「あ! そうだ、いいこと思いついたぜ!」
我が懐かしさにふけっていると、クロマがなにかを閃いたようだ。
「なんだ、言ってみよ」
「良い人って思われればいいんだよ!」
「良い人……?」
どういう意味だ?
「グレイの兄貴は、今皆んなから、怖いやつ、って印象の方が強い!」
「む……」
「けど、良い人って思われれば、今の知名度と重なって、人気者になれる! ……多分」
いや、多分て……。
「そんな簡単にいくものか……? 第一、我は魔王だぞ? そんな良い人と思われることを望んでるのでは……」
「けど、人気はあるに越したことなくね?」
「む……」
たしかに、『人気』という言い方をしてしまえば低俗に聞こえてしまうが、『人望』と思えば、一理あるかもしれない……。
「……まあ、いいだろう。貴様のその案、乗ってみようではないか」
「よし来た! それじゃあ、さっそく明日にでも始めてみっか!」
「そうと決まればクリスにも……」
声をかけよう。そう続けようとした我の言葉を、クロマが遮る。
「いや、クリスちゃんを連れ回すのはやめといた方がいいんじゃないか?」
「む、なぜだ? クリスも我が配下だぞ」
「いやいや、ほら、見てみろってあの怪我」
そう言われクリスの方を見ると、たしかに、先日の戦いの傷は癒えておらず、包帯を巻いていたり、あちこちに絆創膏を貼っていた。
「まだ安静にしておいた方がいいんじゃね?」
「ふむ……たしかに、無理をさせるのも良くないな」
「ま、このクロマ様がついているんだ、任せとけって!」
そう胸を張り、誇らしげに鼻を鳴らすクロマ。
……まあ、若干不安は残るが、任せてみるとするか。
*
「おい、Cクラスごときに負けた恥晒しだぜ?」
「ほんとだ、よくもまあ、まだクラスに居られるよな……」
「……チッ!」
あの団体戦が終わってからというものの、私たちへの風向きは非常に悪くなってきた。
それも全て、あの忌々しい自称魔王とクリスのやつのせいだぁ……。
「け、ケイネスくん、オイラ、すげぇ気まずいよ……」
「黙るんだよぉ! 元はといえば、君が自称魔王くんに勝っていればぁ!」
「いでっ! いだっ! ご、ごめんよ、ケイネスくん……」
苛立つ感情を発散するため、コッセに蹴りを入れ続ける。
(クソッ、クソックソックソッ!! ちょっと劣等生たちで遊んでやるつもりが、どうしてこんなことにぃ!!)
第一、クリスがあの自称魔王を連れてきてから、なにか変だったんだ……。
街中で戦った時は、ちょっと黒い炎を出すだけの個能かと思えば、コッセと戦った時の、あの馬鹿げた身体能力は一体なんだっていうんだ?
個能とは、1人につき1つ神に与えられるもの……あの自称魔王の力は、ただの鍛錬で得られるようなものじゃない、まさか、2つも……いや、それはあり得ないかぁ?
「ケイネス、くん! も、もう、やめ……!」
「…………そこまで」
聞き馴染みのある声に振り返ると、予想通り、ドロームが立っていた。
「……ハッ、なんだぃ? 自分だけは勝ったから、余裕だってかい?」
「…………上からの伝令だ」
「っ!?」
上から……まさか、『組織』からか!!
「…………近日中に、『計画』を実行するとのことだ」
「っ! ……ケ、ケヒャ、ケヒャヒャヒャ!!」
ついに……ついにっ! あの『計画』が動き出すのかっ!!
待ち遠しかったぞぉ……この時をっ!
「…………詳細は、追って連絡が来る」
「ゲホッ、ゲホッ……へ、へへ! これでオイラたちの時代が来るわけだね!」
あぁ、念願の時……そして、自称魔王とクリスに復讐する、絶好の機会でもある……。
「ケヒッ、楽しみにしてろよぉ?」




