ボクは魔法が使えない魔術師です!
ボクはポール。冒険者…になる予定の魔法使いである。まだ魔法は使えないけど…。生活学校に入学して冒険者になりたいと思っている。入試は2回受けたことがあるからたぶん今回はダイジョーブ。今日は学校帰りの友達のマイクと待ち合わせをしている。
「それにしてもマイク遅いな。」
マイク、走ってポールに声をかける。
「ごめんごめん!遅くなった!で、今年はどうなんだい?早く魔法学校に入学してくれないと卒業しちゃうぞ!」
ボクは魔法が使えないせいで学校に入学できていないのである。しかし入試には二回もチャレンジしているため、謎の自信があるのだ。
「今回はダイジョーブ!自身ある!」
「…。どの口が言ってんの?おまえ、3年間魔法の練習をしているのに、今だに魔力ゼロじゃんかよ。」
初期魔力というものは、ほとんどの人間は10~20と、微弱である。魔法の練習をすることによって魔力は自然に得られ、魔法は使えるようになる。ただし、たまに魔法が一切使えない人間が生まれてくることはある。魔法が使えない人間は迫害や差別の対象になる。だが、努力次第で魔力ゼロの人間も魔法が使えるようになるのだ。『自分はは努力すれば必ず魔法が使える!』と信じてボクは3年間魔法を練習しているのだ。
「…。まあ否定はできないが。で、でも!まだあと入試まで2か月もある!」
「…。」
マイクはボクに冷たい視線を向けている。まるで呆れているかのように。
「なんだよその目は!」
「…。なら、俺の担任の先生を紹介してやる!ほぼ全ての魔法を使えるスゴウデの人なんだ。」
「ふーん。すごいやん、俺の紹介よろしくな!」
「いや軽いな!?」
そして、そのままボクたちの話は盛り上がってしまい、この3時間後にようやく解散になった。
そして数日後…
ボクはマイクとの約束の時間に公園にやって来た。すでにマイクと先生らしき女性はベンチで待っていた。ボクはそれに近づき、「おはよう!」と、挨拶をした。ベンチに座っていた二人は挨拶を返すと、立ち上がって、
「この人がその先生ね。」
と、マイクが簡単に女性の紹介をしてくれた。ボクは「よろしくおねがいします」と挨拶すると、
「ああ、話は聞いている。ポール君。でいいのかな。私はメリーナ。」
先生は明るい声で自己紹介をしてくれた。先生はボクのことを知ってくれているようだ。先生は続けて
「ところで、君はなんの魔法が使えるんだ?」
と尋ねたが、ボクは迷わず答えた。
「何も使えません。」
先生は一瞬気を失ったのかと疑うほど分かりやすく呆然としているのがわかる。
「ん?ん??ん???」
先生は全然理解できていないようだ。ボクは思わず大きな声で
「だーかーら!何も使えません!」
と、先生に訴えた。
「すみません。こいつはこんなやつなので。一応、オレと3年間魔法の練習をしていたので努力はしているんですよ。」
マイクがボクを弁護をするかのように答え、
「ま、まあ、こんなことは結構あるよ!実技テストギリギリでいきなり新しい魔法が使えるようになるやつもいるし、それこそ、魔法が使えなくても筆記で得点をかせげばいいじゃないか。」
と、先生はようやく理解?をしてくれたようだ。
「ありがとうございます。しかし、ボクは文字が書けないので魔法が使えるようになりたいです。」
ボクは何も隠さず、正直に答えた。
「あ、そ、そうなんだね…。じゃあ実技でなんとかしないとね。魔法を使えるように指導してみるからよろしく。」
と、魔法の指導に力を入れてくれるようだ。
「よろしくお願いします!頑張ります!」
俺が挨拶をすると、
「努力はする。」
と、先生は自信に言い聞かせるかのように小さな声で呟いた。
そしてボクは先生に空き教室に招かれ、色々な方法で魔法の習得を頑張った。普通、人間は魔法を使う前の詠唱を唱えることによって魔力を獲得する。しかし、ボクは魔力ゼロのままだ。そこで、先生は魔法陣を描く授業をしてくれた。魔法陣とは、決まった絵柄を書くことによって魔法が発生するものだ。描いた魔法陣に単純な魔力を流し込むと使えるため、使いまわしが可能である。初心者向けの指導にも使われる。しかし、この方法でもダメであった。先生は他にも色々な方法で魔法を使えるように指導してくれたが、結局ボクは全然魔法が使えないまま…いよいよ入試まであと一週間になってしまった。
ボクは教室でいつものように紙に魔法陣を描いていると、
「こんにちはー!様子を見に来ました!魔法は使えるようになりましたか?」
と、マイクが訪ねてきた。ボクたちの様子を見に来てくれたようだ。先生は座っていた椅子から立ち上がり、
「私では全然ダメだ。助けてくれ!毎日練習をしているのに全く上手くいかない。あと…一週間なんだ。」
先生はマイクに訴えるようにため息をついた。ボクにも聞こえるほど大きな音であった。
「ええ!!先生でもダメでしたか。」
マイクは驚きを隠せていないようだ。普段の学校生活では先生は何事にも真剣で授業をしてくれる人だと聞いている。しかし、今弱音を吐いているということは、ボクに学生など似合わないということだ。
「ボクは二人で学校に通いたいだけなのです!でも、ボクには才能がなくて…。先生。今までありがとうございました。」
と、ボクはお礼を言って帰ろうとした。
「…。わかった。お前の期待に応えてやろう!今から教えるのは、魔力ゼロの人間でも使える秘伝の魔法だ!」
ボクは足を止める。
「え?そんなものが?」
「どうだ?特別授業を受ける気はないか?」
「え?!は、はい!ありがとうございます!」
「じゃあ、さっそく教えてやる!ついてこい!」
「は、はい!」
ボクは戸惑いながらも返事をし、先生と共に走っていった。マイクは走っている二人の後ろ姿を見ながら「心配でしかない」とボソッと呟いた。
試験当日の面接室…
面接官が二人、椅子に座っている。
ボクは面接のときの動作で椅子に座った。右に座っている面接官は男性、左に座っている面接官は女性である。男性が
「それでは、さっそく面接を始めていきます。」
と声をかけると、女性は
「面接のときに実技試験を行います。と、記載されておりますが、どのような実技でしょうか?」
と、続けた。
ボクは「はい!」と、自信のある返事をしてからトランプを取り出す。
「ではさっそく。まず、ここにあるトランプを一枚引いてボクに見えないように見てください。」
男性がカードを一枚引く。
「カードの数字が確認できたらトランプを戻してください。」
男性がカードを戻したらボクはトランプをシャッフルした。そして、
「あなたが引いたカードはこれですか?」
ボクは男性が引いたカードを当ててみせた。これはもちろん魔法ではなく、マジックである。先生が最後の手段として教えてくれたものだ。
「す、すごい!見たことのない魔法だ!」
男性にはバレていないようだが、
「いやいや!これは」
と、女性にはバレてしまったようだ。
「も、もしや、これは上級魔法のテレポートか?!」
「はいそうです!これはテレポートです!」
男性の質問に思わずテレポートだと言いきってしまった。
「いやこれは手品」
「キミはきっと優秀な生徒になるぞ!」
「聞け!これは手品だ!」
「キミは合格だ!」
二人の面接官は言い合いになりながらも、
「…もういいよ。こいつには後で説明しとくから、キミは帰っていいよ。」
と、女性は諦めてくれたようで安心した。
「じゃあね!キミは絶対合格になるから!」
「は、はい。ありがとうございました。」
ボクは喜んで挨拶をして面接室から出ていった。先生の指導によってボクは魔術師になったのである。罪悪感より達成感で満たされ、この日は久しぶりに爆睡できた。
この後、試験は無事合格してボクはマイクと一緒に学校に通うことはできましたが、手品だということがバレて問題になり、数日後には退学になりましたとさ。