第五話
地鳴りみたいな声が聞こえてくる。不思議と死の恐怖を感じたが敵が来るのは怖くない。
被害状況の確認かホーバス中隊長が歩いてくる。
「よーし、弾はな行儀がいい奴が好きなんだ! だから丁寧に地面に伏せてたら弾が避けてくれるぞ! シュトラ二等兵は味方を撃つなよ! 撃つのはディーグ兵のみだぞ!」
「ここでも言いますか!?」
ホーバス中隊長の冗談を僕が言うと周りの兵士たちが小さく笑ってくれた。緊張が走る現場ではこうゆう冗談は周りを明るく余計な力を抜く事がある。
去って行くホーバス中隊長の背中を睨んでおく。
「中隊長もお前を気に掛けてるだよ。ほら敵が来るぞ」
宥めようとするアルベルさんに免じてホーバス中隊長は許そう。だかこっち向かって来るディーグ兵は許す事は出来ない。
視界に写るのは大地を覆い着くような沢山の兵士たちだった。こっちを殺さんと言わんばかり気迫があるが、そんな敵に死ぬ恐怖より怖くない。
「各員撃て!」
まだ相当な距離があるのにホーバス中隊長から射撃命令がきた。だけど当てられる距離でもないのに射撃命令とは疑問を感じた瞬間、隣で構えていたアルベルさんから銃声が轟いた。
撃ったアルベルさんを見るより前の敵兵見たら崩れる兵が見えた。
「当てた?」
ボルトの前後の音が鳴り、銃声が鳴ると倒れ逝く敵兵が見える。信じられない目をしてアルベルさんを見ると怖くなった。優しく顔から目が細くなり無表情で敵兵を殺していく。
敵の頭が視認出来る距離になると腕に自信がある兵士たちが射撃を開始した。さらに近づくと機関銃が火を吹いた。
「僕だって!」
上下に揺れる敵兵を予測して引き金を引いた。肩に掛かる衝撃と共に狙っていた敵兵が倒れる。やった…僕が当てた。
深呼吸してボルトを引き薬莢を排出して、ボルトを戻して装填する。次に狙いは拳銃を振り回して声を上げている指揮官(?)に定めて撃つ。また同じ事をして5発目を撃って変わった。照準から見えたのが頭が弾け飛ぶ脳の一部が飛び出る姿。それを見て、その場を降りて吐いた。今さら実感してしてしまった。さっきまでは怖くないと思ってたが、頭を弾ける敵兵を見て正気に戻った。
僕は何をしていた? 人を殺していた、何の感情を抱かず撃っていた。
そして気付いた。今だに右手にライフルを握っている。その手から離そうとするが手が離れない。
「あれ? なんで…なんで……なんで離さない」
左手でライフルを握る右手を離そうと掴むが意味がなかった。頭が回らない、涙が溢れて必死に外そうとする僕にソッと手を伸ばしてくる人がいた。
「ほら、ゆっくりでいい力を抜け」
アルベルさんがソッとライフルを掴む右手に両手を添え、マッサージするかのように指を動かしてくる。やがてキツく握っていた右手はゆっくりと開いていく。
ガシャとライフルが地面に落ちて溢れた涙も収まってくる。
「これ以上は戦う必要はない。お前は休んでいろ」
崩れるように座る僕にアルベルさんは僕の小銃用パウチから弾薬がついたクリップを抜いていく。まだ涙目の僕をどこか罪悪感紛れな顔で見ていた。
そこからは記憶があるがどこかボーッとして、周りは突撃してくる敵兵を撃ってゆく味方を見ていた。
「新人! 座る暇があるなら機関銃の弾薬を取ってこい!」
カラフさんからの指示で立ち上がるまでフラフラと立ち上がりゆっくりした歩行から走る事が出来た。
前世でFPSはゲームの中では僕は無敵で敵NPCを殺していたが姿は消えていく。でも今は無敵ではなく殺した敵は姿が残っている。それは自分が殺したという事実が残る。
そして同時に思った。なんで周りは平気で殺せて、僕はこんなにも後悔罪悪感が残るのか。その事が戦闘終わるまでグルグルと巡った。