第二十九話
周りが明るくなってゆく間も僕は第二陣の部隊共に塹壕に待機している。明るくなるので光を放つ信号弾だと見えなくなると言うのに何も反応がない。成功してるのか不安になってしまう。
「先攻部隊が心配か?」
「パット……良くしてくれた人たちが多いから」
「何、お前が昇進してないくらいまで優秀なんだろ。信じろよ」
「信じたいけど、日々砲弾の破片や銃弾で味方が簡単に死んでるだよ」
初めて塹壕戦を経験してからは多くの死傷者を見てきた。簡単に死んでしまう戦場で生き残るのは運の良さと経験の勘が必要だと思った。
「レーナは仲間を信じろよ。仲間を信じてチームだろ」
訓練場でもよく挫けそうになる仲間を見て、良く言っていた言葉だ。それは前世、ゲームで使った。『FPSのチーム戦は、仲間を信じてチームだ』と。それは本当の戦場を知らない子供騙しの言葉だった。
「でも実際は言うのは簡単だった」
「訓練場ではお前は皆の為に頑張っていたよ。実際スピットは負傷した仲間の為に囮となって死んだ。スピットは俺の腕の中で仲間の為にと呟きながら死んだ」
逆にそれがスピットを殺してしまったように思える。なんでこんなに感傷的になるかは分からない。パットと入ると前世での相棒を思い出すから?
「仲間の為か……それならパットは僕の為? だって野外訓練時に告白してきたし」
「なっ!?」
訓練していた時に川で水を補充してる時にパットから告白を受けた。まぁ、前世では男だったし…パットとは気のいい仲間だと言って断ったけど。
周りで聞いていた兵士は面白そうに聞いている。年頃の男女の青春が楽しいだろうね。余裕がある僕とは違いパットは若干余裕がないようだ。
「でも驚いたな~パットの好みって僕みたいな幼げな子なんて」
「黙ってろ!?」
フゥーとため息を付きながら頬に手を当てると周りの兵士が笑い声が聞こえてきた。パットは両手で顔を押さえて俯く。それが余計に笑いを誘った瞬間に砲弾が落ちる特有の音が聞こえてきて、笑いが止まった時に塹壕が爆発していった。
今までみたいな散発的は砲撃ではなく塹壕を的確に狙った砲弾だった。
砲撃を受けたのは僕のいた塹壕も例外じゃない。突如の爆発の浮遊感とそして地面に叩き付けられた。
実感が戻ってくると目は開けれず耳がキーンと響き、身体中が痛い。体に負傷がないか手で探るが手足や傷がない事が分かるとゆっくりと目を開けた。左目だけが視界がボヤける。左手で左側の頭を触るがヘルメットの感触がなく頭部に触って見ると赤い液体が見えた…血だ。周りを見回したら塹壕ではなく、塹壕に近い地点に落ちたようだ。
「レーナ! レーナ! どこだ!?」
ようやく耳も周りの音を拾えるとパットが焦っているように声を上げている。弱々しくも声に答えつつ腕を伸ばした。
「パ…パッ……ト…こ…こに…いる」
塹壕から体を出したパットが僕を見つけては伸ばしていた腕を掴み、塹壕へと引っ張ってくれた。そしてようやく呼吸が出来て、塹壕へと意識が出来た。その際はパットが包帯とガーゼで頭の傷を手当てしてくれていた。水筒の水で濡らしたガーゼで左目側を拭いてくれた。
そこは地獄かと思った。叫び声、僅か呻き声、助けを求める声、怒涛に指示する声が聞こえる。
「レーナ無事か!?」
「頭を負傷してるからどうかな?」
「それだけ言えれば大丈夫だな」
お互いに笑顔を浮かべた。近くいた第二陣の隊長に声を掛けられた。左目もちゃんと見えるようになっていた。
隊長の右膝から下と左腕の肘から下が無かった。思わず、死人のベルトを引き抜き右膝の傷口の上を縛った。それを見ていたパットも同じよう肘を縛った。
簡易的ではあるが止血が出来た。これでこの人は生き残る確率は上がると思う。




