第十三話
ミクーさんは妻子がいて常識的な人なんだろう。こんか小娘……小さい子……なんかに言葉を選ぶ辺りが。
「ミクーさんは行かないですか?」
「僕は妻と娘がいるし…あと弱いから」
「娘さんがいるんですね」
「そうなんですよ!」
待ってました言わんばかりに胸ポケットから写真を取り出した。もしかしたら、地雷踏んじゃった?
そこからは家族自慢が始まる。同じ中隊員の人が見えるが苦笑している。僕と同じ事をしてしまったんだね。奥さんとはどう出会ったとか娘の可愛さを語ってくる。そしてフッと寂しそうな顔した。
「本当は戦争さえなければ、首都で教師を続けてました」
「先生だったんですね。イメージ通り過ぎてなんとも」
眼鏡を着けて似合ってる辺りが予測していた。そして家族が恋しいだ。それが前世でも今世での僕に取っては羨ましい。
「家族の為に志願したんですか?」
「そ…そうですね。娘の未来の為にですね」
写真を見つめながら照れてるミクーさん。だけど、同時にこうゆう人は軍人は向いてない……せめて後方がいい。でも、ミクーさんは辞めないだろう。せめて忠告するのは、身近の人がいいかな?
「本当ならレーナさんにも除隊を進めるですが」
「『も』って?」
「古参の仲間からもお前はやめた方がいいと」
「なら素直に受け取った方が」
「娘の為です」
頭を抱えてしまう……もう仲間から言われてるですね。思わず敬語になってしまう。FPSや映画でもこうゆう人から死んでゆくと言うか…フラグ…そうゆうモノがある。今は帝国になっても国境でも小競合いがある。そこで戦うなら死んでしまう前の言葉も知っている古参もいるよね。
「ならせめて自分の命を守る為気を付けて下さいね」
「戦場だから保証は出来ませんが、気を付けますね」
空笑いするけど安心出来ない。どこか信用出来ない気分。敢えて言うなら僕が観客でアニメや映画を見てハラハラする感じだ。この戦場に来て何度か思う…最初は混乱して後方で覚悟が決まる僕。どこか自分の生が薄い感じもしている。まるで主人公みたいだ。だが違う……一発の砲弾一発の銃弾一個の爆弾で死んでしまう。前世での平和な時代に憧れ…願いすら持たない。死んだ兵士の意思を継ぎ、どこまで戦えるか興奮する僕も心のどこかで存在する。つまりどこか狂っているんだ。
「もし娘さんを戦場に送らない事も一つの戦いです」
「気を付けてますね」
「そうですね、しんみりしたのは嫌だですし、折角ですから歌います!」
楽器の演奏はないけど、『エーリカ』を歌った。前世や今世でも戦場へ思う歌が好きで覚えた。『エーリカ』故郷と故郷に残した恋人を思った歌。ミクーさんには家族だけど。
異世界なので言葉は通じないが本意は伝わるのかミクーさん以外でも食事を取っていた兵士たちも聞いていた。
極楽もない食事から突如歌い出す兵士がいて、僅かな極楽にもなる。頷きながらテンポを取ったり指を動かしたりして楽しんでいる。歌い終わると拍手に包まれる。ちょっと調子に乗った僕はコートの両端を手で摘み上げてカーテシーをしてみた。
「異国の歌ですか。どこか故郷や家族を思い出しますね。帰ってこの事を話したいです」
周りの兵士たちから囃し立てられて、続け様に孤児院で覚えた歌を歌っていく。
「レーナさん、そうするから歌姫と言われるですよ」
ボソッと呟くミクーさんの声は楽しく歌う僕に聞こえてこない。




