98話 私の矜持
リリアンにとってこれもまた初めてとなる建国祭を翌日に控えリハーサルとまではいかないが、どういった進行でどこに立つのかなどを現地で宮内相マルタンから教えてもらっていた。
建国祭に合わせ、両親も来ている。
しかし父や母はバルコニーには出ずパーティーに出席するだけなので先に予行演習の必要はなく今日は宛てがわれた部屋でゆっくりすると言っていた。
リリアンはここにエマとパメラを伴なって来ているがフィル様はシリル様達と別の所にいてここにはいらっしゃらない。パトリシア母様が念のために段取りの確認に来られているだけだ。
フェテドフルール宮殿、通称花離宮のバルコニーにリリアンが立つのは花祭以来2度目だ。
なんだか懐かしい、あれから半年位しか経っていないのに遠い昔のことのような気がする。背が伸びたせいか見える景色も違うみたい。
ううんそれだけじゃないわ、あの時はまだベルニエ領から初めて出て来て知らないことばかりだったもの。もちろん今だって知らないことはいっぱいあるけど、きっとあれから色んな事が変わって色んな事を学んで私も成長したからだわ。
「並び順はこのようになっていまして、まずはこちらに立って下々の者に顔を見せて手を振ってやって下さい」
「はい」
「それから王太子殿下のリードでこちらに移動してリリアン様は・・・」
マルタンの説明を聞きながらも、そう感慨に浸る余裕さえあった。
宮内相を相手に立つ姿さえ堂々として、銀に輝く髪のせいもあるのだろうか凛とした美しさを放つリリアンを離れた所から見守っていたエマは感嘆の声を漏らした。
「なんて堂々として既に風格さえ感じます。あんなにお小さいのに」
エマは誰に話しかけた訳でもなかったが、少し離れた所にいて同じくリリアンの様子を見ていたパトリシア王妃が返事を返した。
「リリアンは既に王妃教育を受けその資質を見せている。小さいかどうかなど関係ない。本人の気持ちがどうあるかそれだけだ」
ただの侍女が王妃に話しかけるなどあってはならない事だった。
例えば王妃とリリアンが一緒に衣装合わせでもしているような時でさえ許可なく話しかける事は出来ない。そういう時は王妃付きの侍女を通してお伺いを立てるのだ。
「も、申し訳ございません。私のようなものが王妃殿下に声を聞かすなど、あの、とんだ無礼を」
エマは小さくなって謝罪した。
「もちろんただの侍女風情が私に話しかけるなど許されない。しかし、お前は婚約者候補リリアンの筆頭侍女であり、王太子従者で参謀のエミールの妻となるのであろう。
そのようにおどおどとしてお前の主人達を辱めるつもりか、お前の矜持はどこにある」
「え?」
「もうお前は自分の事だけ考えていれば良い立場ではない、と言っている。分からないのはお前の中に、何かが足りないせいだ。よく考えることだ」
そして「もう段取りは分かった。引き上げる」と言って自分の侍女達を引き連れて去って行った。
ど、どうしよう王妃殿下を怒らせてしまった・・・。エマの身体は冷え切り顔は真っ青になった。
エマの元へリリアンが戻って来た。
「エマ、打ち合わせが終わったから部屋に戻りましょう」と微笑んで言ったがエマの様子がおかしいのに気が付いた。
「顔色が悪いみたいよ、ちょっと座って休んだ方がいいわね」
「いえ大丈夫です。申し訳ありません」
「嫌、少し休んだ方がいい。椅子を」とパメラはエマを支え、他の護衛に椅子を取りに行かせた。
体調が悪いわけでもないのに皆んなに迷惑をかけてしまった。リリアン様を立たせて自分が座って待たせるなど申し訳なくていたたまれない。
しばらく休んで部屋に戻ったリリアン達はまだエマの体調を心配してくれている。
「それが、体調が悪いのではなくて・・・私、王妃殿下を怒らせてしまったのです。今から追って謝罪に行ってもお寛ぎのところを邪魔して余計お気に触る事になるのではと思えてしまって、どうしたら良いのでしょう」
心底困った顔のエマにパメラは呆れる。
「アホな事を。王妃殿下を追いかけて行って謝るなんて逆に怒られるよ。
パトリシア王妃殿下は穏やかな方だから大丈夫だろうけど、何代か前ならそれだけで打ち首かもよ?お咎めがあるならその場で仰られる、そのまま行かれたのならそれについてはもうお終いって事だ」
そんな事を話している内にもう一つの問題に気がついてしまった。
「それにもう1つ困ったことが。結婚祝いにと沢山のドレスや靴、アクセサリーなどを贈って頂いたと聞いているのにエミール様がお礼を言って下さっただけで、先ほどお目にかかったのにお礼を伝えてません。重ね重ね失礼な事をしてしまって、もうどうしよう」
「何で?友達なら顔を合わせたら礼を言えばいいけど相手は王妃殿下だ。
それらの贈り物は兄上と結婚するエマに贈られたものだから、家長になる兄上が正式に礼を言ったのならそれでいいじゃないか」
「そんなのでいいの?」
「王妃殿下もあそこでエマとそんな話をするつもりはなかっただろうし。それを身につけて御前に立った時にこれは素晴らしいとか、とても気に入ったと言って感謝の意を伝えたらいいだろう」
「御前に立つ時ってパーティーのこと?」
「そう、王妃殿下は日常の場で気安く声を掛けてよい相手ではないのだし、これからはパーティーに兄上の同伴で出席するのだからそこでご挨拶をする機会がある。
大体、学園で最初に習うことだよ王族方に接する時の事については。いったい何を勉強してきたのかな?」
「当時はとても自分に必要な事のように考えてなくて。
パーティーって私も出ないといけないんですかね?リリアン様のお世話があるから出る暇ないんですけど」
「うわ〜、よく言うよ。その為に兄上は侍女を増員したんじゃん。
その程度の知識レベルで宮殿に上がってるだなんて神経太いよ、エマ。
これはバセット家の名にかけてエマをイチから再教育せねば!エマは私の家族だからね」
「ええ」
エマはハイという意味ではなく、嫌そうな声を出す。
確かに必要なんだろうけど気が重いし今更という感じがしないでもない。
それにマナーは貴族の家格も覚えておかなければならなくて小難しくて苦手だ。
「エマ、有難いことよ。是非そうしていただいたらいいわ」
だけどリリアン様は後押ししてくる。うえ〜。
そこへジョゼフィーヌが訪れた。
「お母様、いらっしゃいませ。あら、お父様はご一緒ではないのですか」
「ええ、部屋に置いて来たわ。リュシアン様が来られてるから大丈夫よ。
相変わらずキャンプの話で盛り上がってるわ、冬の焚き火を前にケネスのお酒を傾けながら夜明かしをしたいんですって。クレマンは良くてもリュシアン様のお身体に障ったらどうするのよねぇ、この寒いのに」
そんな事を呆れたように言いながら実はこのタイミングでリリアンの部屋を訪れたのは、パトリシアにこっそり頼まれたからだった。
今は王宮のリリアン付き侍女だが元々はベルニエ伯爵家のジョゼフィーヌ付き侍女だから、ジョゼフィーヌはエマを誰よりよく知っている。
王妃であるパトリシアは立場上あれ以上噛み砕いてエマに話をしてやることは出来ない。
エマは真面目で邪心なく侍女として主人であるリリアンの世話をする為の能力も高くその点では不足はない、その忠誠心も高いと認めている。その一方で高位貴族としての常識や教養が足りていない。そもそも貴族としての心構えが足りないのだ。
リリアンと王宮の奥に籠っていた今までは良くても、これではリリアン筆頭侍女として十分な働きは期待できず宮殿での立場に支障が出るし何よりエミールの妻としての務めは出来ないだろうと感じていた。
社交の出来ない妻、それは高位貴族中の高位貴族であるエミールの足を酷く引っ張ることになるのだ。結婚祝いに社交用のドレスを10着ほど贈ったのもその辺りを慮ってのことだった。
ジョゼフィーヌはソファに座り、エマがお茶を出してきた時に声を掛けた。
「エマ、あなたはもうすぐ結婚するのよ、エミール様の良き伴侶であらねば。バセット家で色々な事を教えてもらいなさい」
「でも奥様、そんなお手を煩わせるわけにはいきません。それにそんな時間もありませんし」
「そうかしら?それにしてもあなたって内弁慶よね。よく知ってる人の中だと伸び伸びしていられるけど慣れない人がいると途端に萎縮してしまうでしょう。どうしてだか分かる?」
「え?」
エマはそんな自分に気づいていなかった。確かに慣れない人に囲まれるのは苦手だから内弁慶と言われればそうなのかな。
「奥様、どうしてでしょう?」
「自分に自信がないからだと思うわ」
知識がないから自分に自信が持てなくて萎縮してしまうんだけど、逆に知識がないから怖いもの知らずに王宮にも飛び込めたのよね。全く因果なものね〜!
「自信ですか?」
でも、リリアン様の朝の支度から始まって、寝るまでのその身の回りのお世話をするのが仕事で何をするべきかは一から十まで知っている。だから新しい侍女が入ってきても自信を持って仕事を教えていたつもりだけどな。
「それに覚悟もね」
「覚悟?」
何の?どんな覚悟?
「貴族というものは子供のうちからそれぞれが自分はどうあるべきかを学び自分に問いながら成長するの。大人になった時に自信と覚悟が無いと貴族としての義務を果たすのは難しいからよ『貴族の誇りはその矜持に有り』よ」
「はあ」
「ではリリアンに訊くわ、あなたの矜持はなんですか?」
エマがよく分かってないのを見てとったジョゼフィーヌは代わりにリリアンに問う。
「そうですね、私は将来フィル様の横に並び立つに相応しい女性になる為のあらゆる努力を怠らない、そして強い心を持ち続けると決めました。
その努力を誰よりもしているという自負、それが今の私の矜持です」
「そんなにお小さいのに!」とそんな事を突然聞かれても間髪入れずにスラスラと答えたことにエマは驚いた。
しかしリリアンは首を横に振って言った。
「エマ、年齢など関係ないの。フィル様の横というのは即ち、王妃になる事を目指すという事なのよ」
「えっ?」
リリアン様が王妃になる、そんなの当たり前だけど?
「私は先日の公務で思ったの。
公務の終盤でフィル様は私に新婚旅行はどこにする?とおっしゃった。私が7歳の子供でもアイルサ王女様達の前で婚約者として扱って下さったの。
そしてそれに対して最初は子供だと見向きもしていなかった私のことを是非ケネスにお越しくださいと、アイルサ王女様もキース様も次期王妃として扱って下さった。私との会話で取引が進んだとおっしゃって今後も交流を持つ相手として望まれるほどに評価が高く変わったのです。
そういう事なのだと。
年齢ではないのです。
彼ら王族方には年齢よりもっと優先されるものがある。
それは王妃の資質。
きっと、フィル様に選ばれるのは高い教養を持ち、共に国を背負って立てる自信と覚悟を持った『もっとも王妃にふさわしい者』であるに違いないわ。
今まで少し期待しては何度もガッカリして心が折れそうになっていたけれど、そこに一縷の望を持って決してあきらめないことにしたの!
求められる教養やマナーのレベル、それに年齢や家格を考えるととても高い壁ですけど、超える努力をしなければ超えられるものではありませんから私はその為に出来る限りのあらゆる努力をしなければなりません。そうしてこそフィル様に私を選んでくださいと言えるのです」
そうリリアンはキッパリと言い切った。
エマはしばらく呆気にとられ、返す言葉も見つからなかった。確かに王太子の婚約者候補のリリアンはいずれ王妃になるものとそもそも周囲に思われていて、自分もそうなるだろうとごく簡単に思っていた。
だけど寝て待っていれば成れるものではない、現実として考えると物凄く大変な事だったのだ。
確かに王宮に来て最初の頃は王妃教育に付いて行って後ろで聞いていたが、序盤から内容が高度かつ要求が高過ぎてエマには既に理解不能だったのだから。
リリアンはわずか7歳で覚悟を持ってその高みを目指すという、そこはエマには高すぎて霞んで見えない所だ。
そこでふと気がついたようにリリアンが頬を染めモジモジしながら頼んできた。
「あっ、その、今まで言ってなかったけど私、お兄様と呼びながら実はフィル様のことをお慕いしていて・・・えっと、その、好きで・・・あの、でもこのことと王妃を目指してるということは誰にも内緒にしておいて下さい」
「えっ?」「は?」
なんとリリアンはエマとパメラに自分の恋心が今までバレていないと思っていたようだ。
ウソ!
ちょっと前に母ジョゼフィーヌとそんな事を話して「私、がんばる!」とか言ってた時に私たち同じ部屋にいたよ!?
ジョゼフィーヌは苦笑いだ。
それも王妃の資質かな?いつも侍女を侍らす王妃は繊細すぎては務まらない。同じ部屋にいても使用人を空気のように感じるその図太さも資質の1つと言えるだろう。秘密の話をするにはちょっと脇が甘い気もするけど。
そして次にジョゼフィーヌはパメラに向いて言った。
「リリアン専属女性騎士のバセット様にもあなたの矜持はなんですかと問うても良いですか?」
「ええ、もちろん。私の矜持はリリアン様の専属女性騎士であるということ。
王族付き専属騎士になるのは幼い頃からの夢でした。まだ女性に騎士という道さえ開けていない時から鍛錬を積んできましたがずっとその道は閉ざされていました。
それを叶える場所に立てたのは他でもないリリアン様の存在あればこそです。これから学園にお通いになる7年間、完璧にお守りすることが私の使命です」
2月からパメラは学園での警護に集中する。
今まではリリアンが起きてから寝るまで護衛に付き、私室にいるときも同じ室内に立って警護をしていたが、今後は王宮の外で危険な目に合わないように常にリリアンと一緒に過ごす事になっている。
フィリップが1年の時にシャワー室で女生徒に抱きつかれた事件を考えても一瞬の気の緩みで危害を加えられたり誘拐など大事になる可能性がある。どこでも付いていけるのは女性であるからだから他に護衛が何人いようともパメラの責任は他の誰より重い。
これまでより一層神経を使う仕事になる為にパフォーマンスを落とさないように休養日が増えるし鍛錬の時間を朝と夕にしっかりとれるようになった。リリアンの護衛は王宮からの登校から下校までの間だけになる。
「ねえ、だったらパメラはレーニエ様との結婚はいつするの?」とエマ。
そう言えば一緒に住むとかなんとか言っていたからもう秒読みなんだろうけど結婚という単語を2人から聞いたことがないような気がして素朴な疑問を抱いて聞いてみた。
「結婚はしない。レニと結婚は出来ない」
「え、どうして?あんなに仲がよくて、一緒に暮らそうと言っているのに?」
「私はこれから学園での任務に就くと言っただろう。子供は作れない。
レニは父親は現王立騎士団総長、祖父は前軍事相のエリート中のエリート騎士一族の嫡男なんだ」
「その人達に反対されているの?」
「いいや、そうでもない。狂犬と言われ疎まれている私だが逆にレニの妹が身体が弱かったから丈夫で良いじゃないかと言われる始末。
ゴダ兄が薬を提供していたこともあって歓迎されているよ。お陰で結婚はしないと言っているのにこうして付き合うことを反対されなかった。だけどレニには程々で身を固めるようにと言ってたよ」
「だったら結婚して子供は自分で作らず養子を貰ったらいいじゃない、そういう家だっていっぱいあるもの」
「エマ、お前は本当に貴族というものが分かっていない。
高位貴族はその血が子々孫々まで繋がっていくことが最も大事なことなんだ。アルノー家の男子はレニのみ、彼の血を引く子が必要なんだ。それを産めないのに妻となる訳にはいかない。
レニが誰かと結婚するまでの今この時を共に過ごす、その時間が持てた事それだけで満足だ」
「他の誰かだなんて、そんなの酷い!
だったらレーニエに待って貰ってリリアン様がご卒業したら結婚すればいいじゃない」
「それでは遅い。
現在の女性の最初の出産年齢の平均は17歳。エマの言うようにしたとして24、25歳。
すぐに妊娠するとは限らないし通常、結婚したら跡取りの子を得る為に出産を5回から7回繰り返す。跡取りは丈夫な男子が望まれ多ければ多いほど良いし出産は早ければ早いほど母子ともに死亡率が低く健康な子になりやすいと言われている。高位貴族は数年待って妻が子を産めなければ離縁して再婚だ。愛人の子は誰の子か分からないから認知することはまず無い。
もし、私たちがそこまで待って子に恵まれなかったら一族を路頭に迷わせることになるんだ自分勝手な選択は出来ない。これは私だけでなく職業を持った女性には同じく降ってかかる問題だし何も特別なことではないんだ」
「でも、それじゃあ一生懸命仕事をしているパメラが可哀想。レーニエも辛いわ」
パメラは溜息をついて言った。
「何度も言うが、それが貴族というものだ。
自分の家系、使用人、領地、領民、自分達が養う者達を永続的に守る事、それが貴族の務めで義務だ。自分だけの事を考えていれば良い立場ではない。その為に特権があるんだ我々には責任がある」
黙って聞いていたジョゼフィーヌも口を開いた。
「エマ、そこなのよ、あなたに足りないものは。
自分の家で考えてみたら丁度いいわ。あなたが侍女の仕事を真面目にしているのはよく知ってるわよ、でもそれ以前にあなたもあなたの親も、貴族の義務を果たさなかったから貧乏でドレスどころか食べるものさえ困っていたのを忘れてない?
はっきり言うと先祖が悪いんじゃないわあなた達親子に貴族の自覚がなくて自分に甘すぎたのよ。その証拠に今、あなた達の領地は私が経営して10年、すでに借金は返し今は潤ってる。
他の貴族達のことをいい家に生まれたからと羨んで勝手にひがんで萎縮しているけど、それはあなたにコレはという矜持がないからよ。そう思わない?貴族はその日暮らしじゃ務まらない。
貴族の責任を負わないと、家系も領地も失ってしまう。
エマ、あなたが今持ってる技術は無一文未経験で転がり込んできたあなた達母子に私が一から教えたもの。田舎のベルニエ領では充分だけど、これからバセット家の女主人になるにはそれだけでは足りないのよ。覚悟を持ってあなたの立場に何が必要かを学んでいかなければ」
「う・・・」
確かに貧乏で奥様や旦那様に助けていただいた。そのご恩は忘れてないけど矜持、矜持って何で皆んなに急にここまで言われないといけないんだろう?
仲良しのパメラにいつも優しい奥様まで。
そんなに私ってダメかな?上手くやってるからエミール様は私を好きになってくれたんじゃないの?
下を向いてるエマにはそんな気持ちがまだ拭きれないようだ。
「パメラ、エマの事お願いね!バセット家でガンガンに教育し鍛え直してあげてちょうだい」とリリアン。
ぐふっ、リリアン様まで無慈悲!
「エマ、ここはそういう世界なの。
身分制社会。封建制、世襲制の世の中なのよ。もう覚悟して勉強しなおしなさいな。色んな事が分かってくると仕事も生活ももっと充実して楽しくなるわよ」とジョゼフィーヌ。
「エマ、バセット家までブーシェ家の二の舞にしないでよ。その立て直しにあれ以上兄上に仕事をさせたら兄上自身が倒れてしまう」とパメラ。
エミール様には仕事を離れたところでは寛いで貰いたいし、安らぎを与えたい。彼にはムリをさせたくない。今から色々と学ぶのは面倒だけど、そう言われると流石に何かしようという気も起こる。
「分かりました。ではパメラ、とりあえず教育の方よろしくお願いします」とエマは頭を下げた。
「とりあえず・・・ねぇ。
よし、とりあえず承った。エマ、楽しみにしておいてね」と指をポキポキ鳴らして悪い顔をするパメラ。
「ひぃ〜」ギャグで怖がる真似をするエマだがまだ彼女はパメラの本当の怖さを知らないようだ。
パメラとエマを見て笑っていたリリアンが首をコテンと傾げて皆に聞く。
「ねえ、ところで赤ちゃんってどうやって出来るんですか?
パメラは仕事をしていたら出来ないって言うけどどうして?出来る時と出来ない時があるのは何で?誰の子か分からないってどうして?赤ちゃんってどうして出来るの?」
ブフゥッ!
話がひと段落して紅茶に口を付けたところのジョゼフィーヌが吹き出す。
パメラとエマが(やっちゃった〜)と天を仰ぐ。その手の話はリリアンの前ではご法度だった。
ジョゼフィーヌは吹いた紅茶を自ら拭き、咳払いをするとリリアンに向き直って言った。
「リリアン、それはねコウノトリのシュバシコウちゃんが連れて来てくれるのよ。お仕事をしてるとママの居場所がどこか分からないのかな〜?きっと迷って他所に連れて行っちゃうこともあるのかな?
これ以上詳しいことはいずれ学園で習うからその時をお楽しみに〜」
「シュバシコウちゃん・・・?」
「そうそう、いつかリリアンも見ることがあるかもしれないからそれは覚えておくといいわ。赤くて長いクチバシでね、白い鳥なんだけど、羽の先は黒いのよ。脚もとっても長いわよ〜!
あ、そうそうそれと巣がね、煙突の上とかによく作るのよ。あとね、揺りかごに運んでくるから赤ちゃんが欲しい時は揺かごを用意しておいた方がいいわね、シュバシコウちゃんが赤ちゃんを連れて来た時にどこに下ろそうかな〜って困っちゃうからね」
いつもの煙に巻く方式で語り出すジョゼフィーヌ。
(その話し方のお母様は、と〜っても怪しいです)
それ以上は追求せず「ふーん、そうなんだ〜」と言いながら心の中では母の言う事を本当かどうか疑っていたリリアンだった。
今回は長めの話になりました。
リリアンは恋心を隠し、あくまでも妹として振舞っていたつもりらしいです。
例え口に出さなくても周りにはバレバレですけどね!
でもその心には確かな目標がありました。
そしてパメラの決意が明らかに。
レニに近づきたくて騎士になったのに騎士でいると結婚出来ないなんて・・・なんて因果な!
_φ( ̄^ ̄゜)グスン
いつも読んでくださいましてどうもありがとうございます
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それが燃料で励みになってます
ブクマ200達成でルネの猫の続編upしようと決め準備してすでに2ヶ月、予想以上に遠い道のりで今の所お蔵入りしてます。次からは50刻みにしようかな〜。




