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9話 フィリップと家族会議

 サロンに来た。

 ここは本来なら小規模なパーティーや会合を行う部屋で宮殿のパブリックエリアにある。2階にあり広く明るく上品な内装に美しい庭園を見下ろせる広いバルコニーがある。


 リュシアンは気候の良い時期になるとよく夕食後のゆったりしたプライベートな時間をここでパトリシアと過ごす。いくら広く豪華に作られていても安全を優先して窓が広くとられていないプライベートエリアの私室や寝室より、風がよく通り開放感があるここはお気に入りの場所なのだ。


 飲み物だけ用意させると室内から引き取らせドアが閉められた。護衛騎士がドアの前やバルコニーの下で警護に当たっているだけだ。


「さて、フィリップ。話したいことを言ってごらん」


「もう待ちきれなかったわ、気になって、気になって!」

 パトリシアは前のめりだ。


「はい、今日ベルニエでニコラの妹に会いまして気に入ったのです。彼女と仮の兄妹のように接したいと思いました。それで伯爵やニコラと話し合って『仮の妹』では立ち位置が周囲に分かりにくく体裁がよくないかもしれないということになり、では『婚約者候補』ということにしたらどうか、という話になったのです」


「んー、妹って?結婚したいとかじゃなく?」


「はい、妹です。結婚なんてそんなこと!あの澄んだ瞳に可愛らしい笑顔に愛らしい動き。一生懸命話す時のあの様子!もう可愛すぎてどんな天使や妖精も彼女には敵わないと嫉妬しますよ。なんてたってもう可愛すぎて抱っこしたり、膝にのせて頭を撫でたり、頬ずりしたり、もうずっとしていたくなる可愛さなんですから!」


「何か途中から女性にするには不穏なことを言ってるけど大丈夫かしら?」


「おいおい、やっぱり血は争えないな、訳の分からないところが昔のお前を見ているようだよ。だけどフィリップ、それを未婚の令嬢にするのはダメだな。

 それからその妹というのは何歳だ?ジョゼフィーヌの第二子出産はかなり最近聞いた話だと思ったが」


「リリアンは6歳です」


「・・・・」リュシアンは固まった。

「・・・・」パトリシアも固まった。


 リュシアンが動けるようになった。

「まさかと思って『実はベルニエの侍女を見初めた』のかな?とか色々想定していたんだが、そうかそっちか」


 パトリシアも動き出した。

「でも、でもジョゼの娘なら可愛いし、性格も良いに決まってるわ。ジョゼの子ですもの」


「まあそうだな。ジョゼフィーヌもクレマンも性質が良い。ジョゼフィーヌは余り飾りたがらないが地は良い。それこそ学園ではお前と2大美女と言われていたのだし。正確には『2大残念美女』だったが」


 一言多いとパトリシアが口を尖らせている。


 その頬を指でつついて笑ってからフィリップに言った。


「ベルニエの娘か。いいだろう。

 女性を苦手としていたお前にはリハビリが必要だと言えば6歳でも皆文句は言えないだろう。文句ある者達こそその原因を作ったのだから。婚約者候補として皆に通達する。

 その前にクレマンに会おう。城に呼べ。娘も連れて来いと」


「せっかくですもの、ジョゼも呼んでよ。庭園でおしゃべりしたいわ」


「2人が素でしゃべりだすと誰も入れないし止められなくなるぞ。2、3泊させるとは言い出すなよ寝不足になる」


「多分大丈夫よ。私も王妃ですもの、節度はあるわ」


「なるほど。では私が3人を呼ぼう。パトリシアとフィリップも当日は同席するように」


「はい、もう一つ。フェテドフルール宮殿への招待状とリリアンに当日着るドレスなどを贈るつもりです。準備を初めてよろしいですか」


 フェテドフルール宮殿は通称『花離宮』とか単に『離宮』と呼ばれ、花祭の時に王族が訪れることで知られている。花祭りのメイン会場であるセントラル広場に面した宮殿だ。花祭中その離宮の庭園は貴族達に解放されるがバルコニーは限られた者しか立ち入れないことになっている。


「あと20日しかないからな、すぐに取りかかれ。

 そうか、氷菓も時間がなかったな。ま、あっちはレモン味だけでもいいし何とかなるだろ」


 「では」ここでフィリップは辞去した。



 翌朝、王太子の執務室に入る前に王宮内の宝飾職人の元に向かった。


 王族はそれぞれを象徴する石が決められていて剣の柄やベルト、ペンの装飾などあらゆるものに細工を施す。

 フィリップの場合はアウイナイトという稀少な青い石で特に色の濃い美しい物がフィリップ用に蓄えられてある。この国では他の者はこれを身につけることが許されない。例えばフィリップの婚約者などという立場以外の者は。


 デザインはフィリップが使っているモチーフの一つから選んで作らせることにした。


 雫型で多面体にカットしたアウイナイトを細い方を下にして、これを下から受けるように、飛ぶカモメのようなVを広げた形のプラチナの台座に小さなダイヤモンドを隙間なく並べる。なるべく小さく華奢にしてもらうがそれでもとても豪華なペンダントヘッドだ。


 これを身につければ誰の目にもフィリップの特別な相手と分かるものでサラサラのストレートの銀髪に澄んだ水色の瞳のリリィに絶対に似合うはずだ。


 ああ、色合いだけ聞くと冷たい印象を持ちそうだが全くそんなことはない。血色の良い頬に活き活きとした表情、感情豊かな大きな目が活発で聡明で愛くるしいリリィを作っている。神様の奇跡だとしか言いようがない。


 本当は指輪にしたいがあの小さな細い指には重そうだから、もうちょっと大きくなるまで待とう。


 このペンダントヘッドのネックレスは虫除けだ。侯爵家のお茶会に行くときに身につけて貰いたい。


 花祭のドレスには赤いリボンをつけて欲しい。アクセサリーは繊細な細工のシルバーで花の形にしたパーツの中心に小さなダイヤモンドをあしらったネックレスにした。

 デザイン画を渡し、これに似合うドレスと靴を今一番人気の高級オートクチュール『ベル ルミエール』に作ってもらうよう手配しなければ。



 これから今まで以上に忙しくなる。

執務に入るがリリィと会う時間を捻出するためと思うと今日はやたらと仕事が捗った。



 昼前に宰相のモルガンが婚約者候補のことや引見時の事について確認したいとやって来た。話をしていたら近々リリィが侯爵家のお茶会に呼ばれていると知って、ぼやぼやしていられない先手を打たねばと急いで去って行った。


 その後早馬を出したらしくベルニエ伯爵にもう約束を取り付けて戻って来た。ネックレスの製作も急がせるらしい。


 私とは仮の兄妹の関係だと思っているリリィが「少しのタイミングの差で年の近いアレに好意を持ってしまい婚約者として受け入れてしまったらどうします?さすがに婚約者のいる令嬢には殿下であってもそうやすやすと近づけませんよ」と言うのだ。それはそうだ父上に許可を得てもまだ全然安心できる状態では無かった。


 「明日ベルニエ伯爵親子が謁見にくる」と改めて報告に来たモルガン宰相と宰相の補佐をしながら修行中の息子マルタンは

「あの殿下が小さいけれど大きな一歩です!」

「応援します、全力でバックアップしますから!!」

とそれぞれ握り拳を作って激励してくれ満面の笑みで帰って行った。


モルガンはいつも難しい顔をしているのに、どういう風の吹き回しか今日はやけに熱かった。でも彼らが協力してくれるのは心強いことだ。

父上の許可出ました!

そして宰相モルガン親子奮闘中!

_φ( ̄▽ ̄ )



登場人物紹介


モルガン 宰相です 37歳

 国王リュシアンより1歳年上です

 宮殿勤めで王都住まい

 いわゆる領地は持っていません

 側近の中で一番地位が高いです


マルタン 宰相補佐です 親子です 19歳

 フィリップより3歳年上です


 

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