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87話 冬なのに春到来!?

 パメラは思う。

 兄上がうかうかしてるから、ほらライバル登場だ。


 レーニエはリリアン専属護衛隊の1人だ。


 彼がエマのことを名前呼びするのは、彼らが配属された時に隊長のアレクサンドルがまだ6歳だったリリアンに親しみを持って貰おうと皆んなお互いに名前で呼び合う事にした時、いつも一緒に行動するエマも仲間意識を高め結束しようという事になって名前で呼び合うことにしたからだ。


 もちろん私も仲間だから護衛隊とはお互い名前呼びではあるが、とにかくレーニエはエマが名前呼びする相手だ。


 そしてこれがまた御誂え向きに専属護衛隊イチのイケメンで未婚だ。


 外を歩けば「騎士様〜、格好いい!素っ敵〜!」と黄色い声が掛かるらしい。そう護衛隊仲間に聞いたが確かに彼は背が高く見栄えが良い。それに騎士は実物より3割増しに格好良く見えるものだから納得だ。


 殿下がリリアン様が惚れてしまわないかと最も警戒する男だが、外敵から守る為には強くなくてはならないので苦渋の決断でメンバー入りさせたというほどだから、騎士団の中でもトップクラスに腕が立つのもポイント高い。


 そして感じが良い。

 師匠がイケメンなのに街中で声を掛けられることがないのとは大違いだ。


 彼は兄上の最強のライバルになるだろう。




 エマに体調が悪いのかと問う声を聞いて大丈夫かと一旦足を止めた一行だったが・・・。


「それならエマ、この間言ってたアレ、今晩辺りいかがです?」とレーニエ。


「え、今晩ですか、どうでしょう?」とパメラを見るエマ。


「いいよ、今晩やろうか」とパメラ。


「いいですねー、私は仲間に入れなくて残念です。パメラは明日が非番だから羽を伸ばせて調度良かったですね」とリリアン。


「はい、今夜は羽を伸ばしまくります!」早くも宣言するパメラ。


 彼らはまた歩き出した。



 リリアン護衛隊のメンバーは20人もいて、リリアンのスケジュールの都合に合わせて王立騎士団と掛け持ちしたり交代で休みを取ったりしていたが、パメラはそれとは関係なく連続勤務が続いていた。

 それを宮内相指導に入ったオスカーが就業規則に反するから平時であればちゃんと休みを取らせるようにと王立騎士団に改善要求を出したのだ。


 もちろん同じようにエマに対しても休むよう言ってくれたのだが、当分は特例扱いになった。交代要員を入れ休みが取れるようになったら長期休暇を取れるよう計らってくれるらしい。


 パメラは仕事を趣味や遊びのレベルで楽しんでいるので連勤は苦にならなかったのだが、まあそういう訳で明日は休日ということになっている。


 ということで今晩は退勤後に談話室で親睦会という名の飲み会だ。パメラはまだ飲めないから美味しい物を足るだけ食べる係だ。



 そこへ研究肌タイプの才女、ビジュー・オークレアをあっさりいなしたエミールが声をかけて来た。


「皆さん楽しそうですね。リリアン様、先ほどのデザイン画を修正しましたので王妃殿下の了承が得られればまた後でお持ちしますからご覧ください。

 それから明日は午前中にニコラとソフィー嬢が来られると先触れがありましたよ。了承の返事を出しておきますね?」


「まあ、そうですかありがとうございます」


「え!師匠達が?休んでる場合じゃない!!兄上、休日の振替えはどうすれば良いですか」



「そんな明日の事を今言うな。交代要員に迷惑がかかるし、とにかく母上に顔を見せにたまには帰れ」



「母上はすっかり元気になったとコレットが知らせて来ました。ご指導を仰げるチャンスを不意にするわけにはいきません。明日の室内警護の交代要員はここにいるジローです。ジローいいよね?」


「ええ、私の休みと交換すればちょうどいい。私が明日休むからパメラは明後日休んでもらえれば申請書が一枚で済むから話が早い」と優しいジロー。


 彼らの勤務は普段からシフトの変更が多いのであまり気にならないようだ。


「ジローありがとう、そうさせて貰う」


「妹が我儘を言って申し訳ない。

 もう、お前はしょうがないな。振替方法は彼らに教えて貰え、申請書も詰所に有るだろう」



「はい、いいですよパメラ。次の休憩時間に申請書を出しに行くのを手伝いましょう」と親切なレーニエ。


「ありがと!レーニエ」



 向こうではビジュー・オークレアがまだこっちを見ていた。私からは急ぐからと逃げたのに・・・と。


 怖っ!それに気づいたエマは「ではもう行きましょう」と皆を促してそそくさとその場を去ったのだった。




 その晩、約束通り談話室で親睦会が行われた。


 お酒は基本的に持ち込みのはずだが有志が寄付してくれているものが色々と溜まっていてカウンターの上は充実の一途を辿っているから手ぶらでも大丈夫らしい。

 今までになく甘いカクテル用のお酒も並んでいるのはもしかするとパメラという女性騎士が誕生したのを意識してかもしれない。


 料理は午前中に使用人達向けの厨房にお願いしておけば、ここへツマミになるようなそれらしい料理を出前してくれる。

 それは下っ端の練習を兼ねた仕事になるから時々とんでもない物が出る事があるが、それはそれで面白い話の種になり酒のツマミとして語り継がれる伝説となる。



 男性陣は今日の日勤担当レーニエ、サイモン、ベルナールでジローは明日休みになったからもう家に帰ると欠席した。彼は愛妻家で子煩悩なのだ。

 女性陣はパメラとエマ。


 ワイワイと剣術や体術の話で盛り上がっているのは主にパメラだ。


 エマは大人しくパメラの隣でお酒を飲んでいたが普段は全く飲まないので適正なペースも酒量も分かってなかった。やはりというか何というか、空きっ腹にごくごくと勢いよく飲んですぐに酔っ払った。



「エマ、ちゃんと食べてる?

 うおっ!もう酔いつぶれてるじゃん、大丈夫?」


 パメラがふと横を見るとエマがお酒が空になったコップを持ったまま突っ伏していた。まだそんなに時間は経ってないのに沈没が早すぎる。


「エマ、ごめんちゃんと見てなくて。もう部屋に帰ろうか。ね?エマ」と言いながら起きてと肩をゆする。



「うう、エミール様が、エミール様が、ううっ・・・」変に刺激してしまったのか、泣き出したエマ。


「うわ、泣き上戸?困ったな、みんな耳塞いで!!」



「エミール様が、エミール様が、モテて・・・、


 みんな、


 ズルい


 急に騒いで、

 釣書なんて送ったりして〜、


 そんなの、うえっ・・・ズルい、ズルい、私なんて、私なんて、うう・・・うえ〜ん」



 誰かに絡む訳ではないが、そんな調子でグズり始めた。



「あーあ、そんなに兄上の事を?面白がってる場合じゃなかったねエマごめん。ちょっと部屋に連れて帰るから誰か手伝って・・・」


「私が連れて行くからその必要はない。お前ら皆んな飲んでいるんだ危ないから座っとけ」


「あ、兄上!」


 まさかのエミール登場!!


 他にも飲んでるグループが何組かいて談話室が騒めいた。さっきからエマがエミール様エミール様とくだを巻くのが聞こえていたのだ。



「エマどう、気分悪い?大丈夫か?吐きそうになってない?」とエミールは屈んでエマの顔を覗き込む。


「ん〜、だいじょうぶ、だいじょうぶ」


「それ絶対大丈夫じゃないやつだね、医務室に連れて行く。パメラそこのバケツとタオル持って付いて来て」


「はい!」


 ここは酒飲みの集う談話室、バケツとタオルを利用者が自主的に常備していた。それを持って兄を追いかける。


 騎士のような訓練を積んでいるわけでも無いのに、エマを抱いて歩く兄の後姿は足取りもしっかりしてお姫様を守る騎士のようだ。


 エマはエミールに抱かれているのが分かっているのか、いないのかまだグズグズ言っていた。



「うう、エミール様、嫌だ、誰かのものにならないで・・・。


 みんな、みんな、勝手でズルい・・・

 エミール様、エミール様・・・ぐすん、ぐすん」



 あれは多分、分かってないな。




 誰も居らず閑散とした医務室の灯りを点けてエマをベッドに横たわらせる。


 パメラに吐かないか見とけと言いつけて暖炉に火を入れる。火口になる麻縄を解して団子にした物に火をつけて小割りにしたのと細めの薪を空気の通り道を作ってくべておき、一旦ベッドの横に戻った。


「後は私が見るから、戻りがけに王太子執務室に寄って私は今日はもうそこへ戻らないと、それから第一医務室に居ると殿下に伝えておいてくれないか。

 明日はエマはリリアン様の支度に行けないとも伝えておいてくれ。殿下経由でリリアン様にも伝えてもらう。

 朝はお前が行って支度をするか、無理なら宮内相に侍女1人寄越してくれと言うんだ。もうこんな時間だし、もしかしたらエマが行けるかもしれないから朝になってからでいい」


「はい、分かりました。一緒にいながら監督不行き届きでした。こんなに酔わせてしまって申し訳ありませんエマをよろしくお願いします」と兄に言って医務室を出た。




 兄に頼まれた色々を済ませすっかり遅くなった。

 談話室の片付けもせずに出て来たことを思い出して、もう解散したかもしれないけど一応戻ってみた。


 テーブルは綺麗に片付けられ、皆はすでに引き上げてレーニエだけが1人まだ残っていた。



「もしかして私が戻るの待っててくれた?ごめん、遅くなって。エマは多分大丈夫。じゃあ引き上げようか」


「いいよ、バタバタと大変だったんだろ。

 ちょっと座ったら?熱いお茶でも淹れてあげるよ」


「ホント?助かる。なんかさっき食べたエネルギー全部使い果たしちゃってさ、そうだ!ここ、オヤツがあったんだった!取って来〜ようっと」


 すっかり腰を落ち着けるつもりなのか、立っておやつコーナーを物色しに行き、あれもこれもと手を伸ばす。



 お茶を用意してくれた席に戻り、レーニエと向かい合って座るとお菓子を1つどうぞと差し出した。


「そういえば兄上がごめん」


「どうして?エミール様が介抱して下さって助かったよ。酔ってはないけど一応飲んでるからね」


「でも、レーニエはエマのこと気に入ってたんでしょ?前から親睦会しようって誘ってたもんね。

 それを兄上が邪魔をして連れて行ってしまって悪かったなと思って」


「いいんだよ。パメラの兄上様がエマを気にしてるって知っていたから聞こえるようにあのタイミングで誘ったんだから。キューピッドのつもりだよ」


「キューピッド?そうなの?」


 彼はキューピッドのお兄さんのつもりだったらしい、いやイケメン・キューピッドか?ふふっ!


 いや失礼、・・・どちらにしても笑えるのだが。



「それに今日のメンバーが早終いなのも知ってたし。

 うん、今日は何もかもが丁度都合良く進んだ。

 私が本当に誘いたかったのはパメラだよ。エマを誘えば君も付いて来るでしょう」


「は?なんでそんなまどろっこしい事を?護衛隊の親睦会くらい普通に出るけど?」



「分からない?

 そうだな〜、その令嬢ぶらない気さくなところ、気の強いところも、それでいて思いやりがあって正義感の強いところも、訓練の真剣な凛々しい顔も剣を振って楽しそうな顔してるのも無邪気で可愛くて全部全部好みなんだよね。


 だから2人きりで話がしたかったんだ。



 ねえ、パメラ。からかってなんかないし酔っ払ってもない。



 私なんてどうかな?




 本気だよ?」




 ングッ!!



 イケメン見つめてくんな!



 ゲホッ、ゲホゲホ・・・ゲホッ・・・ゲホッ


 パメラは盛大にむせた。


イケメンのキュービッド

見てみたい

_φ( ̄▽ ̄ )


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