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83話 がんばっていいですか

 フィリップが来たのは、リリアンの母であるジョゼフィーヌに来季から色々と変わった学園の事について一通り説明しておこうと思ったからだ。


 父上が今朝、ジョゼフィーヌに「リリアンの合格発表は週明けの予定だったが今日の午後には結果が分かるぞ」と声を掛けたら「何の事でしょう?」とポカンとされたと言っていた。



 既に新しく決まった法律と王立学園の規則を各家に通達を出していたし、来期のカリキュラムも追って出していたのだが、本邸と王都を行ったり来たりしていたジョゼフィーヌはそれをまだ見ていなかったらしい。


 本邸家令エリックは、溜まった仕事を日付順ではなく優先順位が高いと思われる物からジョゼフィーヌが確認出来るようにしていた。

 それは国王名義の通達であったにも関わらず内容が学園関係だったので急いで知らせる必要を感じなかったのだ。まさかリリアンが早期入学にチャレンジするとは思いもかけなかったから仕方がない。




「ベルニエ夫人はリリアンの進学について知らなかったと聞いたのだが、来季から王立貴族学園は早期入学が可能になったんだ。定員はあるが試験を受けて合格すれば何歳からでも通えるようになった。

 更に各学年ごとに履修すべき必須科目が決まっているが、それを先の学年分まで優先的に漏れなく取る事で学年もスキップできるようになる。

 学園を卒業したものは成人したとみなされ結婚も出来るし、高等部を卒業したら爵位を継ぐことも出来る。

 要するに優秀な者は早く社会に出られるようにしたんだ」


「随分変わるんですね、それでリリアンはその試験を受けたと」


「そう、今年は初年度なので女生徒のみの募集で50名が試験を受けて定員は10名」


「競争率は5倍、難関ですね」


「そうかな、ちなみに受験者の年齢構成は7歳1名、8歳1名、残りの48名は10歳だった。

 リリィとアングラードの次女ルイーズは国王からの要請があったから受験したが、残りの48名については皆が面接で王太子婚約者候補と同学年で親交を持ちたいからと動機を話していたと聞いた。

 初年度は様子見という見方もあるが一般的には早く入学したいという希望はあまりなさそうだな。来季からは男子生徒も受け入れるからもっと希望者がいると考えているが。まあ、そんな感じだ。」


「同級生は皆、年上になるのね」


「まあね、でも年上に混じってもリリィは能力的に何をしても引けを取らないだろう。普段から年上に囲まれて生活しているしルイーズも護衛のパメラもいるから心配はいらない。

 リリィ、今日の午後には文科相室の前に合格者が張り出されるらしい、ベルニエ夫人も来ていることだし一緒に見に行ってみるかい?」


「はい、明後日の発表が早まったのですか?」


「ああ、採点がすぐに終わったからとっくに結果は出ていたらしい。それを聞いた父上がそれなら早く出せと」


「うふふ、リュシー父様らしい。私も合格してるか心配だからドキドキしてて、早く結果を知りたいから直ぐに見に行ってもいいですか?フィル兄様」


「ああ、ドキドキするのはいけないね早く見に行こう」




 ジョゼフィーヌはリリアンと話しながら隣を歩いているが、リリアンの右手はフィリップに繋がれている。



 王宮内の移動中も手を繋いでいるのか君達は。


 これでまだヒロインの登場を恐れているなんて、嘘だ〜!と思ったジョゼフィーヌだった。(2回目)




 随分と手前で両目を閉じたリリアンはフィリップが肩に手を置き誘導してくれるまま告知板に張り出された合格発表の前に立った。


 ジョゼフィーヌは心の中で「スイカ割りか」とツッコミを入れるも今の所この国ではスイカは知られていないのでこの世にあるのか無いのかも分からず説明に困るので声に出すのは止めておいた。




 ジョゼフィーヌもフィリップも微笑みながらリリアンを見守る。



 1位 リリアン・ベルニエ 筆記100/面接100



 だって、もう大きな字でトップにリリアンの名前が書いてある。成績評価順となっていて、リリアンは試験対策勉強会の甲斐もあってトップの成績で合格したらしい。



「リリィ、目を開けて?一緒に喜ぼう」


 フィリップが声を掛ける。

 前に立ったのにリリアンはいつまで経っても目を開けようとしないから。



「はい」


 そ〜っと目を開けるも後ろから名前を探し、一番前に見つけると「あっ、あった!」と喜びの声をあげた。



「おめでとう、リリィ」


「フィル兄様、どうもありがとう」


「良かったわね、リリアン。お勉強大変だろうけど頑張ってね」


「はい。どうもありがとうお母様」



 その後はフィリップが元の部屋まで送ってくれて、もう後期試験が始まっているからこれで寮に戻るねと帰って行った。

 今日は災害対策会議の打ち上げがあったので顔を出しに来ていたらしい。フィリップ的には合格発表をリリアンと一緒に見ることが出来たので来た甲斐があったというところだ。




 振り向いて優しい笑顔で手を振るフィリップを、部屋の外まで出てやはり手を振って見送りながらリリアンは考える。


 先ほどフィル兄様がお母様にした説明の中で、早く卒業したら早く成人を迎えて早く結婚できるようになると言っていた。


 確かに最初に学園の話を聞いたとき、リュシー父様からもそう教えられた気がする。あの時は自分にも当てはまる事という意識が無かったしその後、先陣を切って受験してみるようにとおっしゃられて勉強に取り組むのに一生懸命だったからピンときてなかった。


 7年分の勉強を2年で終わらせるなんて無理だけど、1年、いいえ2年でも早く卒業出来たらどうだろう・・・。


 年の差はどこまでいっても縮まらないけれど、早く大人になれたら少しは希望があるのかしら?


 でもフィル兄様は再来年でご卒業、やっぱりとても間に合わない、きっと私が卒業するまでにご結婚なさってしまう。




 フィリップを見送るリリアンを見て何を考えているのか察したジョゼフィーヌがそばに来た。


「リリアン、やってみなければ始まらないわ。諦めるのはまだ早いと思うわよ」



「お母様」



「頑張ってみたらどう?いつだって前向きに取り組んできたあなたが、一番大事な時だけ先に諦めてしまうなんて、らしくないわね」




「お母様、


 ・・・私、




 がんばって、いいですか?」



「いいに決まってるわ」




「早く卒業したい」



「ええ、そうしなさい」



「うん」



 早く卒業したって、フィル兄様にとって私は妹だ。それも血の繋がりもない偽物の妹だから、今のままでは妹じゃなくなった時はお別れの時になる。


 フィル兄様は王子様で普段は人に世話を焼かれる立場、だから逆に世話を焼いてみたりするのが面白いのだろう。子供好きだから、小さい私の世話をするのが楽しいのだと思う。



 もし、私がフィル兄様に妹じゃない好きになってもらえるとしたら、ソフィー様のような女性になった時だろう。ニコ兄様がソフィー様を思うみたいな、そんな風に思ってもらえたら。




 だって、いつかなんてキスした後に即寝ちゃうんだよ?


 キスって夫婦か恋人同士がするものなのにとびっくりしていたら「子守唄を歌って」とかおままごとみたいな事を言われてドキドキ損よ?

 ホントにもう、全く妹としか思ってくれてないってことでしょう?




 けど私だってそのうちには背も伸びて大人になっていく。


 フィル兄様が気がついた時には妹扱い出来ないような、ソフィー様のような女性になっておくのを目標にしよう。





 決めた。


 諦めないといけないその時まで・・・私がんばる!

フィリップくん

子供好き、

おままごと好きと思われてるよ〜

_φ( ̄▽ ̄;)


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