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80話 ジョゼフィーヌの秘密

 ジョゼフィーヌは例の災害対策の関係でやるべき事が山ほどあり、まだ王都に残っていた。


 タウンハウスを本拠地にして毎日大忙しだ。王宮に何度も足を運び王太子殿下と打ち合わせをしたり、あちこちの領主達に手紙を送り情報を寄せて貰うように依頼したり本邸から足らない資料を送らせたり。


 猫の手も借りたいくらいだがクレマンは領地に帰らせた。もちろん彼は残りたがっていたから、領地の方もやりかけの仕事が山積みのままだと散々説得して、仕方がなく渋々とだったが。



 当初、王宮に着いたジョゼフィーヌは全体の地図をリュシアンとフィリップに見せてザッと説明すれば事足りると安易に考えていたが、災害が発生する要因等ついて無知であった事を痛感したフィリップとシリルが自分達だけでなく皆が情報を共有した方がいいだろうと考えた為、後日改めてまずは国の重臣達の前での説明を求められた。


 氷街道と運河計画の全体としての計画と現在の状況、災害が起こる要因についてと工事を行う上での注意点についてだ。ジョゼフィーヌの準備が整い次第で良いとのことだ。


 そうなるともっと裏付けをとってしっかりとした内容にしたい。



 それでニコラの婚約式が終わって束の間の休息もなく資料作りに取り掛かったが、実際に手をつけてみると自分が辺境から自領までの事までしか計画や進捗状況など具体的なことを把握していなかったという現実を突きつけられることになった。しかも大元の辺境を訪れたことはない。



 他の領地での事は事前に各地域の領主に協力を仰いだ時に聞いた時までで知識が止まっていて、彼らが工事をどのように進めているのかどの位進んでいるのかを全く知らず今年の春に久しぶりに王都に上がってきた道すがらに何ヶ所か見たくらいだった。


 更に言うと王都とその手前のアングラードは何もかもがこれからのまだ手付かずの状態で、上流より下流の方が水が増えるという法則に則れば、下流域を後回しにしたのは大問題だ。


 しかも王都は人口が多いだけに工事にも時間がかかるだろう。

 物流を盛んにする為に河川のルートを決めたり、安全に利用出来るように広くそれでいていつも水を湛えしかも溢れることがないように計画を練らなければ河を利用することは出来ない。


 そもそも辺境の雪崩対策から端を発したせいだ。辺境の問題解決にばかり気を取られていたし後付けで運河を思いつきで始めた。


 あの時に最も重要な下流域にある国王が住み最も人口が多い王都への影響をなぜ気がつかなかったのか。せめて王都を含めここに至るまでの地域ともっと連携を強固にして始めるべきだった。



 しかし問題はそれだけではなかった。


 現在は辺境からの水はいくつかの湖を経てはいるものの、ほとんどを海に直接流している。地理的に海に近かったので都合よくそうしていたが水産資源に影響が出始めているかもしれないのだ。


 いや、実はもう出始めていることは少し前に知らされていた。


「前ほど魚がとれなくなったのは近年急に山からの水の流入が増えたのが原因じゃないかと港町の漁師たちの間で噂になっているらしいよ、どうにかしないと辺境の者達や君の身に危険が及ぶかも」とリアムが忠告してくれたのは花祭のバルコニーで会った時で、まだ何の解決策も考え出せていない。



 あちらもこちらもバランスが崩れてしまっている。



 ああ、河川災害が起きたのも漁業被害が拡大しているのも全部浅はかな私の思いつきのせいだった・・・。災害対策の為に何年もかけて地形を変えてしまった氷の山から出る水を止めることはもう出来ない。


 うっかりストーリーを改変してしまった。



 違う、違う、そうじゃない。




 ・・・私ったら。


 いい気になって、神様にでもなったつもりだったの?



 思い上がって本当になんて馬鹿な、勝手な事をしてしまったのだろう。




 リュシアンがジョゼフィーヌのことを『先見の明があるのかと思うほどだった』『確信を持って行動していた』などとフィリップに言っていたが、実際にジョゼフィーヌは誰にも明かしてないが『未来を知っている』『この世界にまだない知識を持っている』そんなつもりで今まで生きてきた。


 ジョゼフィーヌは、似ているけどこの世界じゃない、もっと文明の進んだ別の空間にある別の時間軸の・・・異世界から転生してきた。と、そう自分では解釈している。



 あちらの文明での知識があれば、他の人より色んな凄い事が出来るはずだった。


 だけどそんな都合の良い話にはならなかった。


 ごく普通の女子高生だったジョゼフィーヌは知識は中途半端だし、何の専門的な技術も持って無かったのだ。それが今回露見した。




 王立学園生の頃、ジョゼフィーヌは自身の転生に気づいたが、異世界の知識を使って目立つような事をするつもりはなかった。


 この中世風の世界観が好きだったから永遠にこの物語が続いて欲しかった。

 推せるリュシアン国王とその子孫がずっとプリュヴォ国を治めるという設定を変えたくなかった。


 ジョゼフィーヌにとってここは『乙女ゲーム』か『乙女ゲームを題材にした小説』の世界だった。元ネタがあるのかどうかは知らないけど。


 イケメン王子でリーダータイプのリュシアンは絶対に攻略対象に違いなく多分メインヒーローだと思うし、ピンクの髪でピンクの瞳、隣国の王女のパトリシアは設定的に絶対にヒロインだと思ったし。


 自分だって転生しているんだから何か役回りがあるに違いない。

 それが悪役令嬢だったら最悪だ。断罪対象にならないように地味な格好をしてヒーロー、ヒロインには近づかない方が得策だろう。当て馬役も絶対嫌だ。


 ただ彼らを見守るだけをモットーとし、この世界に手を出すことを嫌い、自分の身を守る為つまり攻略者から逃げ回る為にだけ異世界の知識を使った。


 そうしたはずだったが、現実はそうは問屋が卸さなかった。



 1学年上のリュシアンに早々に面白い奴がいると目をつけられ声を掛けられるようになったのだ。



 しかも会話の折々にリュシアンの言うことが気になり、つい王政が倒れないようにと色々と半端な知識から知恵を授けたりしている内にどうやら気に入られたようだった。


 貴族を増やしすぎてはダメだし力をつけさせてはいけない、商人に富と力を持たせすぎないように気をつけて。教会も権力を持ち過ぎると台頭してきて王政ヤバいから宗教の復活は急ぐ必要はないとか、庶民に学をつけたり飢えさせると反乱が起きかねない。飢饉に備えて備蓄しろ等とかなりいい加減な内容ながら最もらしく言うのをリュシアンは興味深げに聞いてくれたのだ。



 一緒にいる時間が増えてそれはそれは嬉しくて楽しかったけれど、ちょっと親しくなり過ぎたと気づいた。


 ヒロインを差し置いて、メインヒーローがあたしを気に入ったとか言って当て馬にでもされたら話がおかしな方向へ進んじゃって最終的に断罪されちゃうかもしれない。

 ジョゼフィーヌはストーリーのある『お話の中』で生きているつもりだったからヒーローと結婚して自分がヒロインになるなんてことは全く考えもしなかった。



 危ない橋は渡れない、死んでしまったらこの話の先を愛でられない。



 そんな時に告白してきたクレマンは、婿入りしても良いと言うし絶対に攻略対象に成り得ない怖い顔でイケメンとは程遠かった。


 よし、決定的な事を言われる前にクレマンと交際を始めちゃおう!


 ニコラには、二人の馴れ初めを聞かれた時にああは言ったが渡りに船だったのだ。リュシアンから逃れる為にクレマンの事はそれまで全く知らなかったのに即了承した。傍観者でいる為に。



 そうやって大人しくしていたのに領地に引っ込んでしまったらそれまでの緊張が解けたのだろう、義父であるジェラール辺境伯に頼られてつい調子に乗ってしまった。


 転生チートだとか、何でも知ってるような顔をしてアドバイスして・・・。


 いい気になって・・・。



 これは思い上がっていた罰だ。


 違う世界の記憶に引き摺られて変に立ち回るより、この世界で真っさらな心で真摯に生きて行くべきだ。未来を知っている気になっていたけれど、ここまでも全く別の歴史を経てきたこの国の未来を本当は知りはしない。


 薄々気づいていた、なのにまだ心のどこかで『うっかり介入してストーリーを変えてしまった』などと思っていたりする。


 自分だけが辛い思いをするだけならまだ良かったのに。


 災害が起こって初めて気づくなんて。

次回、リュシアン様出るかも?

また出て下さったらいいな〜!

イチファンとしてのつぶやきです

_φ( ̄▽ ̄* )



いつも読んでくださいまして、どうもありがとうございます!


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