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8話 王様の食卓

 フィリップは王宮に帰り手早く予定の確認や、新しく入れる予定の調整などをする。リリィに贈るドレスなども手配も始めたいところだが国王である父に話してからの方が良いだろう。


 もう夕食の時間が近い。


 さっき、今日は国王リュシアンと王妃パトリシアも一緒に食事をとれると報告があったので事前に『婚約者候補について話したい』と伝えておいた。やや早いがダイニングルームに入ると珍しく円卓にテーブルセットが組まれている。話を聞こうという意思の現れだ。こういうさり気ない配慮をしてくれる父なのだ。


 しかし夕食時はなかなか混み入った話は出来ない。供される物は選りすぐりの産品で料理法も含め国王からのお言葉を待つ者たちがずらりと控えていた。


 そもそも領地で作る産品をどうするかは領主である者達に委ねてあるが、国王が認めたとなると価値が跳ね上がる。だからと言って全て良いとは言えない。いくら国王と言えど信頼がなくなるからだ。

 国内には富んだ所と貧しいところ、援助が必要な所もある。

野菜、肉、魚、果物、飲み物と出来の良い物は生産を増やし、そうでないものは品種を変えるように言うこともある。それから流通量を安定させる為に道路の整備や灌漑事業の必要性など、この席で得られる情報とリュシアンが提案する施策は多岐に渡る。


 途中、口直しのレモンの氷菓グラニテが出た。氷菓を作るための氷はとても貴重なのでこの国ではまだ王族しか口にする事が出来ない新しくて珍しい物だ。(まあ、辺境では有り余っているが)


「んー、さっぱりして美味しいわ。いつでも食べられるようにしたいわね。城下にも専門店を作ったらどうかしら?きっと人気が出るわ」


「まだ直ぐは難しいが面白い案だね、氷は他の肉や魚の保存にも役に立つし流通させていこうと着手したところだよ。

 辺境伯が国境の警備や訓練のついでに採取した氷を凍ったまま王都に届けられそうだと言うので運び入れる許可を正式に出した。これからはかなりの量を王宮に届けてくるはずだ。

 今回のこの氷を持って来た時は目覚ましいスピードで道具や装備、大型の氷室、運搬方法の確立など進んでいると報告して来たよ。極寒重労働だと思うが過酷作業こそ身体が鍛えられると皆喜んでいるとか。ちょっと引く位に嬉々としてたよ。

 とは言え、運搬は春と晩秋がメインだ。冬は危険で難しく、夏は途中でほとんど溶けてしまうと言っていた。

だから夏から秋にかけて道路の整備や氷室の建設をしようと思う。各地の領主にも協力させれば雇用や今後の自領の発展に繋がる。氷には可能性が無限にあると言っていい」


 パトリシアの言葉に返事をしているようだが、これらのことはフィリップにも聞かせるために分かりやすく説明しているのだろう。


 グラニテの皿が下げられる。

 特に初めて供されるものにはレビューが必要だ。


「このグラニテは口当たりが良く爽やかだ。香りも良く引き出されている。甘味も抑えてあるのがくどくなくて口直しにちょうど良い。個人的な好みとしては少し苦味が有ったらなお良いが女性や子供には無い方が好まれるだろう。甘味を強くしてデザートにすればそれも最高だ」

 そうして気に入ったものはまた出してくれとリクエストしておく。


 そしてもう一つ。


「長期に出店は無理だが短期なら出来るだろう。花祭にこのグラニテを食べられるよう店を出させよう。他の味も試作してみよ。レモンは甘味は少し強くしてみてくれ。女性や子供に向けたものだけでなく男性が好みそうな物も考えよ。王宮の氷をその為に使って良い。準備期間は短いが花とは別に祭の目玉にしようじゃないか」


 そうやって感想を述べ激励して下がらせる。

今日はレモンの生産者とグラニテを作った料理人が並んでいたのだ。王の側近達は出店に向けて準備に何が必要かメモを取りながら算段している。


 フィリップはリリィにグラニテを食べさせたらどんなに喜んでくれるかと思い、気持ちが高揚してくるのを感じていた。


「それにしてもさすが辺境伯ね、それに辺境伯領から王都までの領地にベルニエがあるわ。あそこは辺境伯と縁のある領よ。彼らはとても仕事が早いから王都に安定供給出来る日も近いわね」


「ああ、特に平原と緩やかな丘陵地帯で構成されたベルニエ領は広いとはいえクレマンがとりかかれば直ぐに自領の整備が終わるだろう。体力が有り余ってそうだから他の領にも派遣させればいい」


 リリィの領の話が出てドキッとして父を見た。それには構わずパトリシアは笑って言った。


「クレマンの筋肉だけでは無理でしょう。ベルニエが仕事が早いのはジョゼの経営手腕があるからよ」


「まあ、そうだろうな」とリュシアンも思い出し笑いをしているようだ。


 なんだか2人はベルニエをよく知っている雰囲気だ。


「父上、ベルニエと懇意とは知りませんでした」とフィリップが言うと


「そうだろう、これには国家機密に触れる恐れがあったからな。今まで秘匿していたのだ。

 でも知っている者は知っている事だしお前は王太子なのだからそろそろ解禁しても良いだろう。ジョゼフィーヌはパトリシアの学友だ。そして私の後輩でもある」


「私は隣国リナシスの王女だけど、実は1年の短期間この国に留学していたことがあるのよ」


 それは初耳だ。


「パトリシアとジョセフィーヌはその時に気が合い、いつも2人で楽しそうにしていたな。趣味の一致だそうだ」と言ってまた思い出し笑いをしている。


「あなた、笑い過ぎです。あのように何でも話せるジョゼは貴重な存在。あれから随分経ったんだもの。今までは領の復興や出産で忙しくてなかなか出て来られなかったでしょうけれど、そろそろ子供も手が離れ領内は豊かになったわ。領に篭ってばかりいないでたまには王都に出て来れば良いのに。そうね、向こうの都合はさておき私は王妃だもん。いっそ呼び出しちゃおうかしら」


「母上、ベルニエ伯と夫人なら今、王都に来ていますよ」


「あら、なんでそんな事を知ってるの?あ、長男が学園で一緒だったわね?」


「ええ、そうです。それで今日ちょうど彼らのタウンハウスで会いまして。花祭にベルニエ一家を離宮に招待する約束をしたのです」


「なんと!」

「え、離宮への招待なんて特別扱いはよっぽどよ。私はジョゼに会えて嬉しいけど」


「もしかすると婚約者候補の話とベルニエは関係があるのかな。まあいい、混み入った話は後でサロンに移ってしよう」


「はい」


「えっ?えっ?どういうこと?」とパトリシアはしばらく交互に2人の顔を見ていたが、返事が望めないと分かりそれからは通常通りの食事に戻った。


登場人物紹介


リュシアン・プリュヴォ フィリップの父 国王です 36歳

 精悍なイケメンです


パトリシア・プリュヴォ フィリップの母 王妃です 34歳

 隣国の王女でした

 高貴かつ、とっても可愛らしい顔でとても34歳には見えません

 と、本人が言えと


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