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75話 お膳立ては上手く行くとは限らない

 ニコラとソフィーの婚約式から1週間が経った。今日は青空が見えるものの白い雲が浮かび、太陽の日差しを適度に遮って過ごしやすい1日になりそうだ。


 リリアン達は郊外にあるジョワイユーズ宮殿の馬場で乗馬を楽しむ予定だ。


 フィリップが執務をしている間にパメラに熱心に乗馬を習っていたのは今日の為。上達していて体力的にも余裕があれば広大な広場でも馬を走らせてみようかとフィリップに提案されているからリリアンはワクワクが止まらない。


 リリアンはラポムに乗って街中を移動するのはまだ危ないからと目的地まではフィリップと二人乗りで行くことになった。


 それから以前言ったリリアンの希望が叶えられ、パメラはもちろんエミールとエマも一緒だ。



 しかし、出発時にエマをエミールの馬に同乗させようとしたら、「無理、無理、無理、無理、無理〜!」と強く抵抗され、()()()は現在1人で馬車に乗っている。


 なぜ侍女だけの為に馬車を出さなければならないのか・・・フィリップとパメラは目論見が外れてしまい何のために2人を誘ったのか分からない事になった。



「やれやれ、せっかくのお膳立てがパーだ」とパメラ。


 兄上に白馬の騎士の如くカッコ良くエマをエスコートさせようと思ったのに!栗毛の馬だけど!



「全くだ、上手く行くと思ったがこれでは逆に印象が悪くなったぞ」とフィリップ。


 エミールはリリアン専属護衛隊のアレクサンドルと並んで馬車を挟んで後ろにいる。



「フィル兄様、何のことですか」


「エマをエミールの馬に二人乗りさせて仲良くさせようとしたのに、あんな拒否のされ方をしたらエミールを嫌ってるみたいじゃないか。僕ならそう思うよ」


「エマは朝は馬に乗るの初めてで楽しみって言っていたんですけどね。きっと馬が背が高くて大きいからいざ乗る時になったら怖くなっただけだと思いますよ。でも2人は仲悪くないですよ?」


「そうだね」


 そう、仲が悪くないから仲良くさせようとしたんだよ。




 ジョワイユーズ宮殿の馬場で護衛隊が連れて来てくれたラポムに騎乗して、いよいよフィル兄様と並んで馬を歩かせる時が来た。


 パメラに習った乗馬の腕の初披露だ。



「おお、なんだかおっかなびっくりだったのがすっかり様になってるよ。まずは常歩で一周してみようか」


「はい!さあラポム私たちの息のあったところをフィル兄様にお見せましょう」



 途中から速歩に切り替え馬場を一周して来ると、今度はラポムへの色々な指示が適切に伝わるかを確認する為にもう一周して、止まれ、進め、左へ、右へ、真っ直ぐ、スピードアップ、ラポムは従順に従う。はい止まって、これなら大丈夫とすぐ広場に向かう事にした。



「パメラ、お前も一緒に来い。リリィが疲れない内に気持ちのいい広場で走らせてこよう」


「エマ、1人で平気?寂しかったら宮殿に入っておいたらどうかしら」とリリアンが心配をしてくれたのでエマは「大丈夫です」と言って頷いた。


 馬場の柵の外に立って控えていたパメラはサッと馬に跨ると、3人は広場に向かって行った。パメラ以外の護衛達もリリアンに付随して行く。




 エミールはジョワイユーズ宮殿の使用人達に今日の指示を出すために着いてすぐ宮殿に入って行ったからエマは馬場横のガゼボで1人でお留守番だ。


 広いガゼボの影の中で珍しく何もする事のない時間が訪れた。


 手持ち無沙汰なエマはリリアンが午前中の乗馬が終わったあとで着る服を出して揃えてみたり、テーブルを拭いて椅子を整えたりしているとエミールが女中達を連れて戻って来た。



 テキパキとお茶の用意を始めた女中達の手伝いをしようとするとエミールが言った。


「今日はエマ嬢はジョワイユーズ宮殿のお客様だからリリアン様が戻るまでゆっくり座って寛いでいたらいい」


 エミールは自らエマの為にデザートトレーからお菓子を見繕ってお皿に取り分けるとエマに座るよう促した。


「ありがとうございます」


 女中が紅茶を淹れて供すると「一旦下がって良い」と言って下がらせた。



 広くて風も通って視界も開けているけれどガゼボで2人きりになってしまった。


 だけど傍目にも離れた所に座ってくれた。職務中であっても主人の居ない今、よく気のつくエミール様は独身の男女が親密にしていたなどと外聞が悪くならないよう配慮してくれたのだろうと思う。



「エマ嬢が淹れた紅茶の方が美味しいですね」


「そんな事はないでしょうけど、でもまた機会があればお淹れしますから是非飲んで下さい」


「楽しみです」



 エマも紅茶を一口飲んで、エミールが選んでくれたツヤツヤと香ばしく焼かれたフロランタンを口にする。


 今まで食べたことのあるフロランタンと明らかに違う。「美味しい」と思わず言うと彼は「そうでしょう、ここのパティシエが最も得意とする菓子なんです」と頷いた。


 それから紅茶を飲むだけの、しばらく静かな時間が流れた。




「エミール様、先ほどは申し訳ありませんでした」


 朝出る時に普段のエマらしくなくひどく抵抗してしまった。その無礼な態度を謝っておいた方がいいだろう。

 面倒な人だと思われたかもと気になっていた。



「気にしてませんよ」



 何がとも聞かずそう応えられた。

 だから言い訳したくなったんだと思う。



「てっきり護衛隊の誰かに乗せてもらうのだと思っていたのです」


「・・・」




 ああ、どうしよう最悪だ。中途半端に説明しようとしたせいで、エミール様に乗せてもらうことになったからそれが嫌で無理だと拒否したように聞こえる言い方をしてしまった。


 逆なのに。




「エマ嬢、それは・・・」


 ようやく口を開いたエミールは視線を外に向けると途中で言葉を切って立ち上がった。


「時間切れですね」



 すぐにリリアン達の声がした。


「エマ〜あのね、上手に乗れたわ。ラポムも喜んですごく楽しかったのよ」


「ああ、軽快に走らせていて見事だった」


 すでに馬は馬屋に休ませ皆でガゼボに歩いて戻って来たところだった。



「お帰りなさいまし、良かったですね」


「ええ、広いところを走ったらとっても気持ち良かったの」


「埃っぽくなったから一度宮殿でシャワーを浴びてお昼にしようって殿下がおっしゃっています。昼はこのガゼボに戻ってとります。では行きましょう」


 そうパメラに促されエマは荷物を持ってリリアン達と宮殿に向かった。


 チラと振り返るとエミールはフィリップと話をしていて顔は見えなかった。



 それからお昼は護衛隊やエマも一緒に皆で食べた。


 食べやすいようにキッシュが用意されていた。


 それも実にバラエティに富んでいる。ベーコンとオニオン、かぼちゃとズッキーニ、ポロ葱、きのこ、ほうれん草とサーモンどれもチーズがたっぷり使ってあって意外に食べ応えがあった。



 何を食べるか迷いに迷っていたリリアンは全部を一口ずつフィリップに貰っていた。


「どれが気に入った?」


「どれも全部美味しいです。一番はポロ葱かな」とリリアン。


「確かにポロ葱の甘みが美味しかったけど、それが1番とはシブいねリリィは」とフィリップが笑う。


「うふふ、中身がポロ葱だけなのに美味しかったからビックリして。もう一口だけ食べるとしたらサーモンですけどね」


 皆がどれどれとポロ葱のキッシュに手を伸ばす。


「なるほど。じゃあサーモンをどうぞ、お姫様」



 パメラはカボチャとズッキーニのキッシュならいくらでも食べられると言っている。


 和気あいあいとした中、エマはそっとエミールを見る。

 彼も普段通りの様子で皆と談笑していた。



 ああ、もう後からさっきの話を蒸し返す事は出来ない。


 だって、『護衛隊の人とは二人乗りしても何とも思わないですけどエミール様とは恥ずかしくて無理ですっていう意味でした』なんて言い訳したら『好きです』と告白しているようなものだ。


 そんな恐れ多いことは絶対に言えない。



 最近、パメラと仕事が終わってからも部屋でお喋りして一緒に過ごす事が多い。


 そんな時に余程自慢の兄なのだろう、エミール様がどんなに優れているかよく聞かされる。


 殿下にもエマの仕事に関する事は宮内相や侍女頭に聞く範囲の事だけど、リリアンと私は行動を共にすることが多いからエミールに聞いた方がいいだろうとおっしゃる。


 エミールは小さい頃から宮殿にいたから何でも知ってるし、よく気がつき仕事に熱心で、頭の回転がよく、控えるところは弁えて裏表なく、父上からも信頼され・・・と延々と褒め称えるのを聞かされている程なのだ。


 私にまで言う位だから余程自慢の従者なのだろう。



 いつも私のことまで気にかけて声をかけてくださるのもリリアン様の侍女だからで、そもそもそれもリリアン様が過ごしやすくいられるよう配慮して下さっているからで、それほどのお方なのだからお優しいからと図に乗ってはいけないわ。



 エマの長所は慎み深い所だが今回は図に乗るくらいで調度良かったのかもしれない。でもそんな事は本人は気付きようがないのでこう考えてしまったのは仕方がなかったのだろう。


エミールは何を言おうとしたのでしょう?

_φ( ̄^ ̄ )ウーン



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